第3部 「龍神の地底湖編」

17話




「クッソ、どうすりゃいいんだ!」


桐生は悔しかった。世界の滅亡が迫っているのに何もできないことが。

桐生は納得いかなかった。大切な人を見つけられないまま死に行くのかと・・。


「なあ、龍神様。」


「何じゃ?」


「聞きたいことが二つあるんだ。」


「それは何とな?」


「一つは俺の能力についてだ。俺は四刹団っていう連中から命を狙われていた。その理由は俺の中に宿る能力が原因だって。詳しいことはあんたが知ってるんだろ?なあ、この能力って何か秘密があるのか?この『他人に触れるだけで動きを封じる能力』に。


桐生はただ知りたかった。もともと一般の高校生だった自分がなぜ四刹団に狙われたのか。


龍神は言う、


「・・その能力についてはお主に告げなければならないことがある。 聞く覚悟はあるか?」


「俺は真実を知りたいがためにここまで来たんだ!今更覚悟もクソもあるか!」


「そうか。なら教えてやろう。 まず、お主には『動きを封じる能力』とは違う別の能力が宿っているのだ。いや、能力というよりは生まれ持った『体質』と言った方が適切か・・。」


桐生は一瞬驚きで言葉を失った。



「もう一つ・・だと!?い、一体何なんだそれは!」


「その能力の名は、『泰無離未途(タイムリミット)』 。」


ふざけた名前の能力名が告げられた。でもそんなもの告げられたってよく分からない。


「タイムリミット!?」


「そうだ。これはお前が生まれた時から宿していた先天的な能力だ。」


「どんなもの何だ・・?」


「端的に言ってしまえば、"時限爆弾"。」


「え?」


「言葉の通りじゃ。 時が来れば、お前の体内のなかのあるエネルギーが自動的に暴走、そしてお前を中心に核爆弾の六千倍の威力の大爆発が起こる。」


「そ、それじゃあ、」


つまり今告げられたのは桐生とこの世界の寿命そのものだった。


龍神は続ける。


「本来その力は、とある別の持ち主のものだった。神が与え間違えてしまったのじゃ。」


「じゃあその、泰無離未途は、元々違うやつのものだったってのか? 一体誰なんだ!本来の持ち主って?」


「その力は本来、『今代の冥王』が、最後の審判を行う過程で必要不可欠なものだった。そしてその力は今代の冥王にしか制御ができない。 なのに、こればかりは神のうっかりミスだが、能力を持たすべきものを間違えてしまったというわけじゃ。」


ここにきて話が繋がってしまった。そして理解した。四刹団が自分の命を狙っていた理由も。奴らは冥王の存在も泰無離未途のことも最初から知っていたんだ!


「じゃあ、もう誰も助かる方法はねえってのか?たかが神様のうっかりでこのまま無抵抗のまま死に行くのか?」


「いや。あるにはある。たった一つ、な。」


「教えてくれ!!」


桐生はもう必死だった。


「それは、お前自身の手で"本来持つべき器を破壊すること"だ。それ以外にない。」


それは翻訳すると、『桐生の手で今代の冥王を殺す』ということを意味していた。


「俺はあんたに二つ質問があると言った。だが2つ目の質問の内容を変更する。」


「分かっているさ。『冥王にはどうすれば会えるか』だろ?」


そう。冥王を倒すにはまず当人に会わなければならない。当然だが。


「どこにいるんだ冥王は!?」


「先ほども言ったが、この地球上にはいない。宇宙のどこかだ。今もどこかでお前の泰無離未途を手に入れようと画策しているところだろう。これがないと最後の審判は執行できないからな。」


「じゃあ逆に言えば、ソイツは、俺を手に入れるまでは世界を滅せないってことか!」


「そうなるな。だが仮に何もせずこのままじっとしていてもどのみち自動的に爆発が起こる。だから助かる方法は一つしかないんじゃ。 」


『自動爆発が発動する前に冥王を殺す事』


「だからその冥王の場所が分からねーんじゃねーか!!」


桐生は最早龍神様に対する敬語すらも忘れていた。そのくらい切羽詰まっているのだ。


「話し忘れてたが、冥王はおそらく本拠地からは動かないだろう。何故なら最後の審判を執行できるのは"地球の外"からだからな。

だが少年よ。冥王とて『人間』だ。人間が宇宙空間で呼吸ができるか?」


「! 言われてみればそうだな・・。」


「一つ心当たりがあるんじゃ。人間が宇宙空間で生きていける方法がな。

これは推測だが、先代の冥王(その魂は今代のものと同じだが)は地球から最も近い星への移住計画を実行したんじゃ。そしてその星に住処として、街や家を開発したのじゃ。勿論、人間が住めるように酸素も作った。冥王の力を持ってすればそれぐらい可能だろう。あれから誰も手をつけていなければ、街はまだ健在じゃ。そこに今代の冥王が立て籠もっている可能性が高い。 さてここでクイズじゃ。

"地球から最も近い星"ってなーんだ? 」


「ああ。そんぐらい分かってる。」


ーそれは、『月』だ。天体の分類上、衛星だが、「衛星」というからには星の内には入るだろう。


「大正解じゃ。冥王がそこにいる可能性は九十%以上九十九%未満と推測している」


「それじゃあ、『冥王』が月にいると仮定して、だとしたらどうやって月に行くんだ!?」


桐生だって特殊な力を除けばどこにでもいる平凡な高校生だった。月はおろか、宇宙に行く手段も資金もない。


「月に行く方法ならある。」


龍神は即答した。


「明後日から、東京にある『芭部流の塔』で年に一度の武闘会が開催される。 聞いたことはあるか?」


「ああ。『皇楼祭』だろ?そもそも東京に住んでるし、時々チラシが家のポストの中に投函されてることもあるし、毎年優勝者はスポーツ新聞にも載るからな。」


「その大会にお主がエントリーしろ。まだ参加登録の期限は間に合う。」


『皇楼祭』とは、毎年一回開催される大規模な武闘会である。優勝賞品はそれはもう豪華である。世界各地から多種多様な誇り高き戦士が集う、いわゆる『戦いの聖地』である。


『芭部流の塔』とは、皇楼祭が開催される会場である。古代ローマのコロッセオのような形の闘技場が何段にも積み重なっていて、階層状になって一つの塔になっている。東京スカイツリーの十倍以上の高度を誇る超高層タワーである。 皇楼祭は戦いに勝利すると上の階層に上がることができ、最終的に頂点に辿りつけたものが優勝となる。



「そして本題は今年の優勝賞品じゃ。

参加賞にはうまい棒六本、準優勝者は現金一千万。そして優勝者は、『月旅行』じゃ。」


なんて都合のいい話だ。


「じゃあ、皇楼祭で優勝すれば月に行けるってことなんだな!」


いつの間にか桐生の目は希望と闘志と自信で燃えていた。


「ああ。今のお主に残された唯一の方法じゃ。 」


要するに地球の命運は全て"桐生が皇楼祭で優勝する事"にかかっている。


「じゃがその武闘会に集まる戦士というのは皆が一人一人己に誇りやプライドを持ち、鍛錬と経験を重ねてきた者ばかりじゃ。お主に勝てるのか?」


「勝てるのかじゃねえ。勝つんだよ!まあ、地球の滅亡と天秤をかけちまえば大したことはねえさ! 」


「それに」


と桐生は付け加えて、


「俺は小さい頃から今でもずっと"ある人"の背中を追いかけている。アイツを超えるために俺はいろんな修行をしてきた。空手の黒帯も得た。 多分、強くなることは俺の宿命だったのかも知れない。

だから俺は明後日の皇楼祭に優勝する!絶対優勝して『冥王』を倒して地球を救う!優勝して最強を証明する!」


「そうか。頑張るのじゃぞ!くれぐれも死なないようにな」


「いや、多分俺は死なないさ。」


「ん?」


「いや、絶対死なない。死ぬわけにはいかない。俺には助けたい幼馴染の子がいるんだ。そしてアイツにもう一度会って強くなった自分を見せつけてやらなければならないんだ。」


ー 白石茜 。嬉しい時、楽しい時、辛い時、悲しい時、どんな時だってそばに居てくれた桐生の幼馴染の少女だ。彼女がいたから自分は今までどんな困難にだって立ち向かって行けた。桐生にとって彼女はいつでも心の支えである。


「そうかそうか。お主にそこまでの意地と覚悟があったとはな。ワシは感心したぞ! 」


龍神様はポロポロと涙を流す。


「その涙は俺が皇楼祭で優勝した時の分まで取っておいてくれ。 」


「そうだったな。」


そして桐生は後ろに振り返り今まで会話の輪に入れなかった敷島、サファイ、マナトの三人の仲間の目を見て言う。


「そんなわけだ皆! 俺は明後日の大会で必ず塔の頂点に立つことを誓う。どうか俺を仲間として、親友として応援してくれ!!」


「当然だもー!!オイラも絶対に試合を見に行くもー!」

敷島が言う。


「僕をあんまりがっかりさせるんじゃないよ桐生!!」

サファイが言う。


「・・お前らがそう言うなら俺も・・。」

マナトが言う。


そして桐生は再び龍神様の方に振り返り、


「情報提供感謝するぜ、龍神様! 優勝したら必ずまたここに戻ってきてやるからなー!!」


桐生は龍神様に大きく手を振ると、鍾乳洞の出口に向かって走って行ってしまった。

三人の仲間もその後を追いかける。


そんな彼らの背中を見て龍神様が呟いた。


「お主は決して1人ではないぞ。お主には応援してくれる仲間がいる。だからこそ、そいつらの期待に応えてやれ、若き少年よ!!」






そして月日はあっという間に流れ皇楼祭当日。 桐生はすでに会場である芭部流の塔の入り口前に立っていた。 周囲は試合を見にきた大勢の観客の歓声と熱気で溢れていた。


少年は一度深呼吸をして、天高く雲を貫く塔の頂点を見つめて、 一言放った。



「待ってろよ、 『冥王』 」





今、 かつてない規模の戦いの幕が開ける。
























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