第2部 「四色の聖者編」

10話




桐生はこの時何かに気付いた。


(!? ・・そうか。何故俺はこんな簡単なことに気付かなかったんだ?)


サファイのエネルギー装填はもうすぐ終わりそうだ。


「これが最終奥義『超邪水刃』だ!威力はさっきの五倍!じわじわと痛みを与えるってのも面白いんだけどね。せめてもの慈悲だ。一撃で楽にしてやるよ!!」


この時桐生が咄嗟に身を低くし、そのまま水中に潜ったのと、サファイが水鉄砲を発射したのはほぼ同時であった


「な、かわされた!?」


桐生は水の中をクロールで泳ぎ、そのままサファイの懐まで直進する。


(水鉄砲が通用しない唯一の場所とはずばり)


「水中」である。


「し、しまった!」


サファイも水の中に全身を埋もらせ、こちらに泳いでくる桐生を睨みつける。 けど、睨みつけることしかできない。水の中では水鉄砲は打てない。ならば逃げるか?だがサファイ自信の矜持(プライド)が、そんなことは許さない。攻撃手段は水鉄砲以外無いし、かと言って逃げるのは御免だ。状況は板挟みである。


これすなはち、


「テメエの敗北だ! さっきの攻撃が最終奥義って言ってたよな?じゃあもうこれ以上はネタ切れってことだ!!」


「ひぃっ。」


あれこれ考えているうちにすでに桐生は目前まで距離を詰めていた。そして桐生は流れ作業のように「動きを封じる」手をサファイに当てる。


「し、しまった!」


もうサファイの体は棒のように動かない。


「これで俺の勝ちだ!参ったか!」


桐生は水面から体を出す。


「ふう、長期戦に持ち込まれなくてよかったぜ。俺はあくまで人間 だからな。溺れたら死は確定だ。」


そして仰向けになったサファイがプカーっと、浮き上がってくる。


「さあて、テメエの体はもう木の棒と化している。このままボコってやってもいいが俺だって鬼ではない。ここから出る方法を教えて、二度と俺をつきまとわないって誓えば命だけは許してやる。」


「く、悔しいが白旗だ。 地上への出口の梯子があそこにかかってるからそれでとっとと出て言ってしまえ!!」


サファイが指差した方向には、彼のいう通り、梯子が上空から伸びていた。何の比喩でもなく梯子は天空からこの海まで伸びていた。 これを登れば出口である。早速梯子に手を掛けようとした桐生だが、


「あ、ちょっと待って!」


桐生の足を止めたのはサファイだった。


「何だ?」


「あの、僕さ、そのー、ここにずっと取り残されるのかな・・。」


サファイはしょんぼりと俯く。


「僕はさ、昔から寂しい人間だったんだ。両親は幼少期に死んじゃったし、兄がいたんだけど、その兄からも全く相手にされなかった。 そして四刹団に入らないかって勧誘を受けて働いてるんだけど、あいつら、目的を達成することばかりに執着して仲間を慕う心とかがないの。使えなくなったら終わり。」


桐生は思った。この少年はほっとけば生涯孤独なのだろう、と。


「じゃあ、お前、俺と一緒に来いよ。一緒に外の世界に出て冒険しようぜ!」


「え?」


「仲間は多い方が楽しいさ。後、白石を探すのも手伝って欲しいし。 んじゃさっさと行

くぞ!」


桐生は早速地上まで垂直に伸びる長い梯子をよじ登って行く。 その後をついて行くようにサファイも梯子を登る。この時、自分の真上で梯子を登る桐生を見てサファイはこう思った。


(僕は、親や兄弟、仲間からも避けられていた。使えない人間だからって。でもこの人は敵である僕を何の躊躇いもなく受け入れてくれた。)


サファイにとって桐生は『本当の仲間』であり、『背中を追いかける甲斐がある』存在なのだと実感していた。


上を目指して梯子を登る二人。 サファイは初めて自分を認めてくれた嬉しさの余りか、桐生に対して興味本位で質問をする。


「君にも兄弟とかっているの?」


「ん?ああ。兄が一人な。」


「ふーん。どんな人なの?」


「そうだな・・。兄貴は俺にとって『目標』だった。もし自分が窮地に陥った時はいつも兄貴がよく言ってた口癖を思い出す。『諦めるな。諦めることは可能性を自ら押しとどめるだけだ。』 ってな。」


「へえ。いいことを言うお兄さんだね。」



桐生はこの時、兄と過ごした過去の記憶を思い出していた。


これは桐生が幼い頃、兄の瓜生と剣術の稽古をしていた時のことである。


ーーとある夏の川原にて。二人の少年が竹刀を手に向き合っていた。竹刀を両手で握っていたのは当時小学生の桐生だ。そして、もう一人。竹刀を片手に持ちもう片方の手をポケットに突っ込んでいたのは、当時中学生の瓜生だった。


「う、うおおおおおお!」

桐生は雄叫びをあげて、がむしゃらに竹刀を振り回しながら瓜生の懐に突っ込む。真上から振り下ろされた桐生の竹刀を瓜生は一歩も動かずに片手で捕らえる。


「踏み込みが甘いな」


「うるっせえ!!今日こそ兄貴に勝って、俺は最強の男になるんだ!!」


「ははっ。それはどうかな?」


ドスッ!!


瓜生は桐生の竹刀を掴んだまま、片方の空いた拳を桐生の腹にぶち込んだ。


「ぐ・・ガッ、はッ!!」


桐生は腹を抱えたまま地面に膝をつき、そのまま倒れる。 瓜生は倒れた桐生に手を差し伸べる。


「あははは。今日も一本取れなかったな!やっぱりお前は弱っちいなー。」


「う、うるせえやい!」


「ほら、立てるか?」


桐生は顔を背けながら瓜生の手を掴み起き上がる。


そして瓜生が言った。


「じゃ、帰るか。今日は遅いからな。」


気がついたら赤くて大きな夕陽がもう夕方であることを知らせていた。 そこらへんでカラスが鳴いているのが聞こえた。


帰り道。幼き日の桐生は、前で鼻歌を歌いながら歩いている瓜生の背中を見つめながら心の中でこっそりと誓った。

『いつか俺は兄貴を超える男になるんだ!』


今思えばなんて陳腐で曖昧な目標だろう。



「・・っとまあ、これが俺の過去の話。」


「へえ、いい話だねー」


「今の話に感動するとこなんかねーだろ」


桐生が過去話をしているうちに地上への出口の穴が見えてきた。


「お、やっと出口だ。」


出口の穴からは満月がこちらを覗いていた。


To be continued ..


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