第7話 森がやった行動の意味
第二フェイズ、指定タイム。
再び三人で集まり、思考タイムに移る。
「……どう……だったかな」
少し不安げに聞いてくる森。作戦通りの行動をできただろうか、上手く出来ただろうか、という話だろう。
「悪いがお前の行動まで把握する余裕はない。上手く出来たがどうかは、結果で判断すればいい」
「……だよね」
「……流石に冷たくないですか? まぁ、でもこの状況じゃ結果が全てであることに変わりませんが……」
田村はそこで一つ咳払いをした。
「さて、無駄話をしている時間はありませんよ。進めましょう。まず長井くんのコイン隠し場所ですが……確定しました。質問は必要ありません」
「なっ!? マジか!? なぜ……いや……その質問は後……。こっちの質問を考える方が先か……。やつに対する質問は……」
ここで影武者の行動を洗い直した。奴の行動範囲は黒板の前が主。教室の前のほうにほとんど居た。その後、圭の方によって黒板消しを投げたあと、少し行動範囲を広げたが教室の後ろにまで入っていない。
何かコインを蹴ったりして遠くにやった動作も見受けられない。そのことを考えるとコインの場所は自ずと、絞られては来る。
黒板のチョーク入れ。クリーナーの辺り。黒板消しを突っ込んだ机の中。または影武者本人のポケットの中か……。
だからといっても質問をピンポイントにするのは悪手だと学んでいる。そんなことをやっている間に答えを先越されるし、そのピンポイントが当たれば長井の得点にもつながりかねない。
しかし教室の前か後ろか、なんて質問はさすがにないだろう。ほぼほぼ前に決まっている。万が一の可能性で質問するほどターンに余裕もない。
……であれば……左右か……。
もし右側……廊下側であった場合、黒板消しの中や影武者のポケットが視野に入ってくる。やつが隠したのは右半分だからだ。左半分なら……クリーナーあたりの部分か……。
「左右だ。コインがあるのは教室の左側かどうかで行く」
「うん。了解」
いくらなんでも毎回一ターンで決まるということはないはずだ……。田村は宣言しているが……そう易々とは……。
質問タイム。サイコロによって長井、影武者、森の順となった。まずは長井からの質問。
「まず王さまさんから行こう。コインを隠した場所は前に向かって教室の左、廊下側かい?」
おや……同じ質問か……。なら……別の質問を考えないと……。
「いいえ」
影武者は淡々と答える。右側というのなら……単純に考えればクリーナーあたりか、中央に位置するチョーク入れの中か……。
「次はわたし。アリスさんに質問だ」
さて……ここの重要なところだ……。こっちの策はどう動いてくれるか……。
「教室の前側にコインを隠したのかな?」
……圭たちと同じような質問か。やはり、このゲームに置いてはこの質問の仕方が定石なのだろう。
そしてひとまずOKだ。
「Yes」
森は十分間、できる限り教室のあちこちを回ってもらった。だが、最後の五秒で派手におこなった行動はすべて教室の前側、左の範囲。そして実際にコインが隠されている場所もまた、前左の範囲。
主に隠した場所として思いつくのはコインを置いた机。その後素早く移動した先、すなわち森の手の中。そして、それ以外。教室全体のどこかだ、森が隠す素振りをしたどこかが正解かという考え。
冷静に効率として考えれば最後の五秒で派手に動いたとき、既にコインは隠されており、その動きはただのカモフラージュと考えるのが打倒だろう。最初に広範囲に移動しておきながら、結局目立つ二択を用意した。
真っ先に隠し場所として思いつくその二択のどちらかが答えだとすれば、あまりに愚か。片方を質問で潰して、答えを出せば簡単に見つけ出せるから。
だが、ここでさっきの一戦が心理を動かす。影武者にやったことで、ピンポイントの質問がリスキーであることは長井も理解しただろう。王は当然。
ただ、そうやって範囲を前後、左右を質問で洗い出せば結局出てくるのは特異な行動をおこなった前の左空間だ。当然、ここまでくれば二択のどちらかの可能性が一気に大きくなってしまう。
しかも、前回森がポケットに入れて失敗したという事例があるため、ポケットに入れたという可能性は低く考えられがちになる。一度やらかした失敗ことをもう一度自らやろうとするのは相当にきつい。
ここで一ターン目の答えが二人共、机側を指定してくれたらかなりありがたい。
さて、次は森の質問。森の耳に質問を入れた。
「影武者に質問する。コインを隠した場所は……L軸からP軸の間にある?」
「……Yesだね。正解」
これは絞り込めてきたんじゃないのか……。やはり、二回の質問は大きい。
「では、続いて僕が、アリスさんに質問するよ。隠した場所は教室の左半分であっているかな?」
思い通りの質問だ……。
「Yesだ」
当然、そう答える。奴らもまた、範囲を絞り込めてきたことだろう。
さて、次は影武者により長井へのし
「わたしは長井くんに対する質問はしない」
つも……えっ!?
「それは奇遇だね。わたしもない」
森は特に動じることなく答える。
それに対し一番驚愕の顔を上げているのは長井かと思ったが、むしろ当の本人は分かっていたようにため息をついたのみ。
余計なことを考える必要はないと思っていたが……、何が起こっている?
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