第4章_偽物対本物対王

第1話 偽物と影武者、そしてもうひとり

 三日後の放課後。


 ホームルームが終わった直後であるにも関わらずかなりの人がフライハイトに注目を向けていた。

 フライハイトの中心だけが開けられ、中庭や周りの校舎の窓に生徒が集まり、それはまだまだ増えていく。この数は明らかに、三日前に行った演説の時よりも多いだろう。


 これはまた……随分と注目度が高くなってきたな……。


 そんな中、出てきたのは偽物たち、長井とほか側近二人。ざわめく生徒たちの間をすり抜けフライハイトの中央に立つ。そのまま側近は直立、長井はゆっくりと腕を組んでみせた。


 ……さてと……やつは来るのかな?

 この注目度だ、真の王本人が来ることなどほぼほぼないだろう。だが、影武者であれば問題なく出せるはずだ。というより、王と名乗って出てきた奴は間違いなく影武者と考えていい。


「王よ……。いつでも構わない。姿を現せ」

 長井がゆっくりとした口調でそう言う。だが、反応するものはいない……。周りの人たちのざわめきが一瞬静まったが、またぶり返していく。


 しかし、ぶり返したざわめきは普通ではないことに気がついた。中庭、フライハイトの奥の方で人の動きが見られる。人ごみの中、それはある人物からフライハイトの中心かけてモーゼが海を割るかのように道が出来上がる。


 その道を悠々と歩き進めるのは男子生徒。その顔にはキツネの仮面がかぶさっている。それはまごう事なき、圭と長井が既に見ている例の影武者だった。


「ようこそ、王よ。正直言って驚いた。こんな注目度の中だ、君よりももっと使い捨ての駒を連れてくると思っていたんだがな」


「クククッ、それは光栄なこと。わたしを使い捨ての駒ではなく、キングダムでも地位を持っている人物とわざわざ評価してくれたと捉えていいのだよね? ならば、感謝しなくてはいけないようだ」


「……意外なことが続くな。自ら王そのものではなく、偽物だと認めたのか?」


「それはそうだろう。こんな観衆の前で堂々と姿を現すほど、本物の王は愚かではないのだよ。この周りにいる愚民を相手にはできんよ」


「……愚民……だと?」


 影武者はクツクツと肩を揺らし笑う。

「クククッ、ついでだ。周りにいる愚民に伝えておくが、怒りや恨みなどといったちっぽけな感情に任せて、わたしを捕まえようとしても無駄だよ」


 そう言いながら、影武者は後ろにいる生徒にギロリと視線を向けた。事実、その生徒は影武者に向かって今にも飛びかからんとしていた。だが、それもピタリと止められてしまう。


 影武者は自分の仮面、キツネの鼻先を指でつつく。

「この仮面を強引に外したところで、この奥にあるのは偽物の顔。君たちを支配している君主の顔ではない。このわたしとどのように扱ったところで、君主には近づけもせん


 所詮、君たちでは無力なのだよ」


 そう言いつつ、影武者は両手を広げた。


「それでもやりたければどうぞ? 無力であることを認め、ただ鬱憤を晴らすためだけにわたしを捉え、踏みにじってみるかい? 後で際限なく君たちに襲ってくる虚無感に、わたしはあらかじめ同情しておこうではないか」


 そんな影武者のセリフに対し、さらに動こうとするものはいなかった。ただ黙って見せかけていた拳を引っ込めている。


 単純に言いくるめられたというのもあるかもしれないが、おそらく影武者から放たれている雰囲気に気圧されたのが大半だろう。


「くだらん話は終わったか? なら本題に入ろう」


 が、影武者は首を横に振った。

「いやいや、待ちたまえ……流石に話が違うだろう。わたしはお前などには対して興味はない。奴はどうした?」


 影武者は周りを一通り見回し、最後長井に視線を向ける。

「お前なら十分承知しているだろう。そもそも、お前が言ったんだろう? わたしが本当に欲しているものを、用意していただけると聞いていたんだがね?」


 影武者が言っていることは分かっている。その場には明らかに足りないものがある、足りない人物がいる。本当の解放者だ。


「それが用意されないというのならば、わたしはこの話に乗る気はさらさらない。このまま降りるとしよう。

 お前では、わたしにメリットがまるでないのだからね」


「……安心しろ。僕の予想ではもうすぐ現れるはずだ。君がそうやって、この話を放ったことにしようとすれば、それは必ず来る。君がこの話を降りることを望まないのは、なにより奴だ」


 ……流石だな……長井。こっちの考えはしっかり読んできているわけか……。そして、実際に打ち合わせ通り、直後にフライハイト全体にゆったりとして重い拍手が響き渡り始めた。


 その拍手に反応したこの場にいる全員がどこからかと視線をせわしなく動かす。そんな中、圭はしばらくあたりに目を泳がせたあと、特別棟四回の教室窓に視線を向けた。


「さぁ、そのはは話を続けてもらおうか」

 人だかりは大勢いるが、その教室窓には一人しか顔をだしていない。その人物は仮面ファイターの仮面を被り、行っていた拍手をやめた。


 森太菜、解放者アリスの登場だ。

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