第7話 件の結果

『それはそれは……随分と面白い展開になってきましたね』

 通話の向こうから恐らく不敵な笑みを浮かべているであろう田村の声が投げられてくる。


『願ったり叶ったりといった感じでしょうか』


 今、圭はまた、田村にLIONでの通話を通して報告を出している。もちろん、主題は王の影武者の登場だ。


「願ったり叶ったり? 一体どういうことですか?」

「いや……まぁ、君が特に気にすることはないですよ」

「……はぁ……?」


 まぁ、実際打倒キングダムを掲げるロミオという立場から見れば、まさに願ったり叶ったりの展開というにふさわしいだろう。

 解放者ボブとしても、これ以上にない収穫だ。


 まず、第一に今回の一件で偽物が真の王の差し金によるものである線は薄れたと見ていい。むしろ、真の王も不可解な行動をし始めた偽物の解放者、長井を警戒している立場だろう。


 無論、そうやってミスリードをすることが狙いじゃないか、って疑っていくこともできるが、それは限りなく薄い。


 まず、影武者からしてみたら、あの場に長井だけでなく圭まで来るとは思ってなかったはずだ。大体、影武者から見たら圭など、何処の馬の骨とも分からないただの一般人。


 この状況でもし、王が自ら仕立て上げた偽物に対して、影武者で王と名乗って、お前は偽物だ、なんて……いくらなんでも無駄な芝居すぎる……。


 いや……待てよ!?


 違う……、これは違うぞ……。

 王側が進んで影武者を呼んだのではない、長井が影武者を……王を呼び出したのではないのか……?


 長井から見れば圭は本物の解放者の疑いを持っているんだ。そして、そのことを差し金主である真の王に伝えた。そして、影武者に圭と長井の前で王を名乗るように指示(お願い)を出した。


 もし、そうだとすれば長井がわざわざ圭を呼び出した理由もはっきりつく。


『……どうかしましたか? 随分と黙り込んでいるようですが?』

「え? ……あ、いえ……」


 田村と通話中だったのに、別のことに気を逸らしてしまっていた。こんなところでヘマをしたら元も子もない。


 さっきまでの会話を思い出し、自然な返しを頭の中で考察する。


「いや、この件で、先輩は一体なにが願ったり叶ったりなのか、色々想定してました。気にしないで、と言われても気になりますからね」

 


『そうですか……。ちなみにそのよく回る頭で、どういう可能性にたどり着きました?』


 ……ちっ、全く……面倒なことを。といっても、本当に思考していたかの確認か。何か適当な返しは……。

 田村が本物の解放者とつながっていることを知らない、圭という立場から考えて、たどり着く可能性か……。


「俺が知っている限り、先輩も目的は、解放者の目的を探ることと、解放者の手を貸すこと。そして、王と名乗る人物が現れたのは先輩にとって好都合。

 安直に考えるなら、先輩はその王によって支配されており、その王を倒すことも目的の一つということなんでしょうか?」


 ここは下手に真実から外してかかるより、いっそ当てに行ったほうがいい。そのほうが、圭としては自然だろう。


『素晴らしいです。恐らく、そういう思考に至るだろうと思っていましたよ』

 まぁ、実質答えは知っているからな。


「なんか、引っかかる言い方ですね」

『えぇ。そうですね。百パーセント正解とはいかない答えでしたからね。評価としては七十点、いい線いってるってところでしょうか』


 その残り三十パーセントは実はやつ偽物で、とかいう話か?


『まぁ、この話はこれぐらいで終わらせておこう。君がわたしのことを知る必要はいないのだからね。これからも引き続き、長井のとなりにいてもらうよ』


 まぁ、基本的にこう言われたら、圭ももう食ってかかれない。黙って「はい」と返事をした。


『いい返事です。その話を聞く限り、また王は長井敏和に近づいてきます。いや、下手すれば、君にも接近してくるかもしれなせん。十分気をつけてください』


 最後に忠告を残すと田村との通話が途絶えた。


「……確かに、影武者が俺に接近してくる可能性はあるよな……」


 改めて思考をしてみる。

 仮に、長井と真の王には繋がりがあって、わざと圭を呼び寄せて、影武者に王と名乗らせ、偽物と暴かせたとしよう。であれば、奴らの目的は?


 ひとまずは、圭が本当の解放者であるか、その探りを入れるため以外のほかはないか。


 例えば、あれで影武者のほうを援護して、奴が偽物であることをあの場で公に断定させるように促したら。


 解放者の立場から見れば、長井が偽物であると公開させることができたら、実質長井を黙らせることになり、都合がいい。逆に言えば、それを促す行動をした、すなわち、本物である可能性あり。


 まぁ、単純に圭の反応を見たかったというのもあるだろう。今の圭にとって、影武者の情報は喉から手が出るほど欲しいものだから。


「どちらにしても……、今の状況、結構偽物や王に攻められているな」


 偽物の懐に入り込んで情報は確かに入りつつある。だが、どちらかといえば、手に入れたというよりは、掴まされたと行った感じか……。


「もし、田村先輩だったら、オセロで例えそうだな……」

 X打ちは弱い一手だ。だが、自ら選んだタイミングで打てば悪くない一手になる。当然、相手の誘導で打たされたら悪手。


 同じように情報を取るというのは強い一手だ。だが、相手が準備し、狙って差し出された情報であれば別だ。相手はその情報を餌に、糧にしてさらなる攻めを見せてくる。


「そろそろ、本物の解放者としても、攻めを見せていかないとな」

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