第3話 わかりきった嘘
で、亜壽香の動向を探ることになったわけだが……、圭は家で自分の机にうつ伏せて頭を抱え込んだ。
「……で、どうしろと?」
動向と言われても、本当に難しい。大体、亜壽香は完全に圭の顔を知っている。そんな奴がまともな尾行などできるはずもない。
幸いなのは、亜壽香とは学校ではほとんど話をしないということぐらいか……。あとは、登校で一緒になるのを避けるだけ……。
いや、いっそのこと一緒にいたほうが、動向を探っていることになるのか? もし、それで疑問を持たれたら、改めて実は知り合いでしたと告白すればいいか。
「……それより」
圭はふと重いケータイを取り出した。電話帳から亜壽香の携帯番号を探し出す。しばらく迷いはしたが、通話ボタンに手をかけた。
しばらく、コール音が聞こえやがて電話に亜壽香がでた。
『圭? どうしたの?』
亜壽香の声も耳に入れながら、その向こう側の音に神経を集中させる。周りにたいした雑音はない。
「今、家にいるのか? ひとりで?」
『えぇ? う……うん、そうだけど?』
それは良かった。この状況なら、少しは真実を話してくれるかも知れない。
『それがなにか?』
どういったもんかと一瞬悩んだが、ここはもうズバッと聞いてしまったほうがいいだろうと思った。既に、亜壽香は実質、コントラクトの被害者である雰囲気を圭に出していたんだ。
今更だろう。
「お前にちょっと聞きたいんだけどさ……、解放者と直接会った?」
『……』
圭の言葉に対し、向こうで沈黙が流れた。いくら待っても返事がこないので、さらにこちらから続けてみる。
「三年生の長井先輩と会ったんじゃないの?」
さらに亜壽香は黙ったが、やがてボソリと呟く。
『……なんで知ってるの?』
「直接聞いた。本人から」
すると通話の向こうで息を呑む音が聞こえた。
『圭も会ったの? なんで? 関係ないじゃん』
そう、突き放すような冷たい声でそう告げてくる。
対して圭は、少し明るい声を上げた。
「お前を……亜壽香を助けたいから。前に言ったよな? 俺に助けられるのかって。解放者じゃないのに無理だって」
『……言った』
「だからだよ。俺も解放者になって、お前を助ける手助けをしたかった。だから、解放者に会いに行った」
『そう……それはどうも。……ありがとう。でも、無意味だよ。あたしはコントラクトの被害には合ってないもの。
一度たりとも、圭にはっきりと「助けて」なんて言わなかったよね? コントラクトの支配を受けているとも言ってないよね? 心配しなくていいって言ったよね? だって、本当に被害なんて受けてないもん』
まだ……そういうか……。
「なんでそこまで否定するんだよ。ほとんど俺に対して匂わせていいたじゃないか! 俺に察して欲しかったら、解放者の話題を上げたり、助けられるのか、なんて話をしたんだろ?
周りに誰もいないんだろ? この話は俺とお前しか聞いてない。はっきりと言っていいんだ」
亜壽香は圭の言葉を聞いいたと、ため息をついた。
『そう、じゃあはっきりというよ』
そういってひと呼吸を置く。
『あたしは支配されていない』
「おい!」
あくまでも頑なに認めようとしない。でも、亜壽香の気持ちも分かりはする。それこそ表面上の次郎と同じ。巻き込みたくない、ってことなのだろう。
「じゃぁ、なんで解放者に会いにいった?」
『それは圭にだって、言えるよ。関係ないのに会いにいったんだよね?』
「俺は理由をいったぞ? だが、お前は言ってない」
また、亜壽香が沈黙を重ねる。なので、圭はそこに被せる。
「分かってるよ。お前がなぜ、解放者に会いに行ったか。というより、当然のことだよな……お前は、支配から解放されたいんだ。
お前は今回の演説より前から解放者のことを知っていた。解放者の噂が出回り始めた頃、お前は俺に話題を振ってきたのを確かに覚えている。その時、既にコントラクトの被害に合っていたんじゃないのか?」
それは圭が解放者となるより前、ネイティブを倒したときの話だ。巷で噂になっている解放者の話を亜壽香は確かにしてきていた。
「そして、解放者が演説すると聴いて、また俺にその話を持ってきた。察するに、お前は俺もコントラクトの被害を受けていないか、心配する意味もあったんだろうな? 同時に、自分は被害を受けているということを教えるため」
『そんな的外れな推測しなくていいよ』
なおも認めようとしない亜壽香。恐らくこのままでは、本音を話してくれないだろう。
「今はそれでもいい。けど、もう一度冷静になって俺に話してみろよ。お前、今そうとうつらいだろ?」
『……っ』
「解放者に憧れ、解放者の手助けになればと近づいたのに、あろうことかお前を疑うことにする、なんて言われちゃあな」
『……圭もそれ、言われたの? それでも手を貸すことにしたの?』
「それぐらいの疑い深さが、逆に信用できる判断したまでだ」
『……』
「ちなみに言っておくが、解放者、長井先輩は、今でも亜壽香、お前を疑ってるぞ。でも、俺はお前が支配される側であることを知っている。
お前がはっきりと言えばそれで済む話なんだ。俺はお前の疑いを晴らしたい、そして支配から救ってやりたいだけなんだ。それは……忘れるな」
『疑い……か。まぁ……考えとくよ』
そう最後に亜壽香は締めくくると、通話が切れた。
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