第5話 契約前の契約
森が給水器に水を取りに行っている間、圭と次郎はしばらく、沈黙してしまった。だが、この時間に次郎と共有しておきたい情報はあったので、口を開く。
「どうやら、あいつはこっちが疑いを持っていることは重々承知の上らしいな。それでもいて、さりげなくこちらにも鎌をかけてきたように思える」
「うん……でもまあ、あいつの敵が本当にキングダムかどうかを確かめることさえできたら、とりあえずいいんじゃないか?」
「それはその通りだろう。共通の敵がいるということを確かにしておけば、それだけでも十分に手を組む理由となりうる。少なくとも、敵に塩を送る形でも裏切りは避けられると考えていい。
まずは、こっちからの要件を話しながら、あいつに探りを入れてみる」
という会話をしていたところで、森がこっちに戻ってくるタイミングになったので、口を完全に閉じる。森は両手でしっかり、コップ三つを持ってきていた。
「どうぞ」
次郎、圭にコップを渡される。それを自然に受け取り、とりあえず一口をと思い、コップに口をつけようとする。
「あっ、別にお水に睡眠薬とか毒とかは入れてませんから」
「ぶっ!?」
「ケホッ!?」
森が放った突然のセリフに思わず唇からコップを突き放した。次郎はすでに一口目を口に含めていたようで、軽く吹きこぼしていた。
「ふふっ」
対する森は少し口角を釣り上げた含み笑いを見せると、クイッと自分のコップに入った水を喉に流し入れていた。
自分のコップの水をじぃっと見ている次郎を置いておき、森に視線をよこすとわざとらしく咳き込んでやった。
「それは……場を和ませるジョークだと思っておこうか」
「あたしの狙いが通じて良かったです」
こうは言ったが毒はないにしても、睡眠薬や下剤などを入れたとしてもなんら不思議ではない気さえしてきた。
まあ、いざとなったら、こっちもひとつの手段として考えておくとしようか。
「いろいろと話をすることはあるが、まずは君に質問をいくつかさせてもらう。構わないな?」
「ええ、もちろん。答えられる範囲ならしっかり答えましょう」
「なら、その契約をまずしようか」
そう圭は流れのまま言ってみせると、森は一瞬目をまん丸にしてみせた。
「嘘を付かせないためですか? 随分と用心深いですね」
「森さんにだってメリットはある。ここで話してもらった質問の解答は、君が望まない限り口外しないことを契約する。
情報が漏れるのはお互いにとって都合がいいものではないだろう」
「……なるほど、確かにその通りですね。流石です、それぐらいの用心深さでないと、あたしも安心してあなたに手を貸せなかったところですよ」
お互いの同意が得られたことで、次郎、圭、森太菜間で集団契約をまず結ぶこととなった。
集団契約『秘密保持契約』
第一条 第一条 仮面ファイター5103(以下甲という。)、ドラゴン@ハンターGXアーキタイプ(以下乙という。)及び543レイン(以下丙という。)は、三人の間で交わした会話の内容を、基本的に発信および口外および発信してはならない。
2.全契約者の同意が得られれば口外および発信してもよい。
第二条 丙はこれから行う甲と乙の質問に対しての解答に、嘘をついてはならない。
一通り契約が出来上がると、森は内容をスマホでスクロールしながら確かめていた。
「まあ、この契約には同意しましょう……ですが、あなた方は嘘をつく気、なんですね?」
その質問に次郎はなにか反応を見せていたが、圭は当然のことだろうと思って受け止めた。
この契約は圭と次郎の質問に対して森が答える場合のみ、嘘をついてはならないとなっている。その逆は全く保証をしていない。
「もしかしたら、作戦上森さんには虚偽の情報を渡しておくべき展開になるかもしれないだろう? すべては勝つために必要なことだ」
「……『勝つため』なんて言われたら、こっちは簡単に否定できないことを知ってて、いっていますね?」
「無論それもあるが、それだけじゃない。だって君、最初に言っただろう? 自分は俺にすべてを委ねると。なら、任せてもらおう」
「……分かりました。まあ、とにかくあたしとしては、キングダムを倒してさえくれればそれでいい。ひとまず、この契約はさっさと行って本題に入りましょう」
そういうことで、この秘密保持契約が成立した。
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