第18話 契約通り

 敗北は決定した。そんな思いで目をつぶった。


 そのとき……

「え?」


 ネイティブからそんな声が漏れた。それからしばらく沈黙が続く。


「……は?」

 続いてそんな声が漏れたところで圭もゆっくりと目を開けた。


 そろりそろりとネイティブによってめくられたカードを見る……。そこにはおいしそうなステーキの絵……の上に……『ドクロマーク』……ドクロ……毒?


「え?」


 今度は圭がそんな声を出した。続いて向ける視線は左端にあるカード。ゆっくりめくっていく、圭の記憶通りならこちらは毒入りステーキのはず……だが……だが……。


 そのカードを見たとき、脳内に衝撃が走った。


「フフフ……クククククッ……」


 自然とこもる笑み。笑いが止まらない……すべて……契約通りだったんだ、次郎との。


「な……なんだ! 小林! これは……どういう……!?」


「クク……お前の負けだとか言いました? 違いますよ……俺の勝ちだ!」


 そう高らかに宣言し、左端に伏せてあったカードをオープンさせた。そこに書いてあるのは……ドクロマークがついていないただのステーキ。毒入りを食べた……ネイティブの負け、毒入りステーキを食べさせた……圭の勝ち。


「ふざけるなよ! 俺は確かにお前の心理を読み取った。お前は間違いなく毒入りカードを右端においていたはずだ! 俺の読みに狂いはないはずだ」


「ええ、そうでしょうね。だって俺も右端が毒入りだと勘違いしていましたから」


「……はぁ? 勘違い!? ふざけるな、てめえは自分で自分をだましたとでもいうのか!? そんなこと……できるはずねえだろ!」

「できますよ……コントラクトがあればね」


 そういって圭はスマホの画面をネイティブに向けた。



『友情契約』

第一条 ドラゴン@ハンターGXアーキタイプ(以下「A」)は〇月×日、ネイティブとの集会で起こったこと及び仮面ファイター5103(以下「B」)のことを口外及び発信してはならない。


第二条 Bがこれから行動することは、『ネイティブatp』(以下Cという。)を救うことに繋がる。

  2 AはCにバレないようにしながら、そのBの行動を手助けすること。


第三条 Bは毒入りステーキのカードを右端にしたと勘違いすること。


第四条 Bは顔につけたマスクを、本当の作戦をカモフラージュするためでなく、表情を読み取られないようゲームの対策を施すためのものだと勘違いすること。


第五条 Bはこの契約を行ったことを忘れること。


第六条 この契約で忘却したこと及び勘違いしたことは、BがCと行ったゲームに決着がついた瞬間に元に戻る。

  2 その後、Bが解除の意思を示した場合、この契約は解除される。



「な……なんなんだこの契約!?」


「俺と次郎で結んだ個々契約です。あらかじめ、大方の条文を次郎に作ってもらっておいて、俺が次郎に後ろの壁の方を向けといったときに、ゲーム内容に合わせて細かい部分の修正も含めて作成してもらいました。


 あとは、カードを並べてゲーム開始後、スマホの画面をタップし、契約に同意すればいいだけの話ですよ。晴れて俺は右端こそ毒入りだと勘違いした」


「ふざけるな! こんなのイカサマだろうが!」


「でも、コントラクトはそう判断しなかった。どこの世界でも自分の記憶を改ざんして相手をだますことをイカサマとは思わないでしょう。だって、そんなこと“普通”はありえないんだから。コントラクトはその“普通”で判断しただけかと。


 あとそうそう、気づいているかどうかは分かりませんが、前のエンゲームのときの条文、『ゲーム開始から終了までジョーカーの位置を把握~』はこの作戦に引っかかる可能性があったので、ニュアンスはそのままに『カードの内容を確認したうえで』だけに変えときました」


 ネイティブの表情がどんどん歪んでいくのが分かった。おそらく自分の敗北を感じ始めているのだろう。


「だが……もし……カードを伏せるというルールにしなければ! この作戦は」


「手札でも問題なくできますよ、この作戦。というより手札で可能だと分かったので……こうしてあなたに再戦を挑んだんですから。勘違い、というあいまいな契約もすべて次郎と俺ですでにさんざん実験を重ねた結果、できると判断したんです。


 すべて……俺たちの契約通り」


 そう、コントラクトは別にエンゲームをするためのツールじゃない。強制的に契約を実行させるツールだ。圭を強制的に勘違いさせるのもまた、可能というわけだった。

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