第18話 長考……そして

 とにかく、最善の契約内容を模索してひたすらに、シミュレーションを頭の中で繰り返していた。


 どういう契約を結べば、どう事は転がっていくのか、圭に出来る限りのシミュレーションをひたすらにやり続ける。


「おい圭、いくらなんでも、待たせすぎじゃねえのか? お前一人でやってるわけじゃねえんだぞ? ひたすら待たされているこっちの身にもなれよ」

「うん? あぁ、そうだな……」


 気が付けば圭は椅子に深く座り、机に肘をつきながら深く考え込んでいた。確かに次郎が目の前にいることすら完全に忘れたように……。


 だけど、そのおかげもあって、あらかた纏まりは付いた。


 正直言えば、完璧な作戦だとはあまりにも言い難い。

 だが、もともとこっちが圧倒的に不利な状況から、それを打破するために動いているんだ。ある程度のリスクや賭けは許容しなければならない。それを踏まえたうえで……。


「よし、次郎……契約を始めるぞ。スマホを出せ」

「やっとか……」


 次郎はため息をつきながらもポケットからスマホを取り出す。そして、コントラクトのアプリを開こうとするのだが、その次郎に向けてまず手のひらを向けた。


「ただし、ひとつだけ言っておくことがある」


 その手のひらのうち、人差し指だけを残し、残りを折りたたむ。


「言っておく?」

「あぁ、いろいろ考えたが、どうも条文が足りない。現状の友情契約をそのままにしていたらな……。最初の一文は削除したとしても、もう一つ、削りたい」


「……圭のことを喋らない契約か、圭が俺のことを許す契約のうち、どっちかを?」

「そうだ。そのうちの、後者のほうの契約を破棄する」


 すなわち、今の圭と次郎との仲を首の皮一枚で繋げているあの契約だ。


「それを……俺が認めるとでも?」


「残念、認めるもなにも、それはエンゲームの契約でできないだろ? こっちの契約条文は飲まなければいけないんだ。俺との仲を保つ契約を破棄することに、現状制止することができる契約はどこなにかかっていないはずだ」


 次郎は、すぐに口を紡いだ。それは間違いないということだろう。そして、それを拒むような事は一切する様子がない。ここはちゃんと契約が働いているとみていいだろう。


「これで……やっと契約ができるか……」


 圭は自分もまた、スマホを立ち上げると、契約条文の作成に取り掛かった。


 シミュレーションした通り、正しく入力していく。もし、少しでもニュアンスを間違えば、たちまち計画は崩壊してしまう恐れがあるのだ。慎重になることに越したことはない。


 やがて、入力が終わると圭は次郎のほうに顔を合わせた。


「こ……この契約……」


「問題ないだろ?」

「で、でも……これになんの意図が?」


 この契約を提示した張本人の圭は、当然の質問に軽く笑う。


「それをお前が知る必要はない。ただ今は、契約通り、この契約に同意してもらうだけだ。いいよな……。いや……異論は認めない。お前も拒否はできない、だろ?」


 次郎は首をかしげながらも、スマホに親指をかけようとする。契約を成立させるためのボタンにもう少しで触れるというとき、その手が止まる。


「でも、この契約で……俺と圭との仲は……終わるんだよな?」


 既にこの草案に無い、元三条の契約を思い出す。


「安心していい。その契約が切れようとも、俺はお前のことをもう恨んだりしない。大体、おそらくお前の行動が、コントラクトによって……ネイティブの手によって……取らされていたんだということも察しがついている。


 これ以上怒る理由はない」


 怒る……意味がない。


「安心しろよ、お前が俺のことを親友だと思っているように、俺もお前を……間違いない友人だと思っているからよ」


「……そうか」


 次郎は絶対にネイティブの影響下にあることを認めない。契約で認めることができないのだろうと、信じたいが残念ながら確証できるものはない。


 だからこそ、完全に信用事できないが……この状況で、次郎に怒りを向けることに……メリットはない。


「契約、成立だ」

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