第16話 勝負は続く
何はともあれゲームは無事勝利で終わった。さっきの解答は極力思い出さないようにして、次郎の前に立った。
ゲームは終わったが、勝負はまだ終わっていない。
これから行う契約は紛れもなく重要な事柄だ。この契約を少しでも間違えば、勝利の可能性が一気に薄れる。
特に、次郎は依然、ネイティブ側の人間であることを考えると、それは致命傷。
「次郎、契約の時間だ……」
契約は、現状三つまで……いや、さっきは、なるべくエンゲームのルール契約を簡略化するため誤魔化したが、第一条の永遠の友人を含めて四つか。あれは、実質もう必要ない契約だ。
あの友情契約が実際、効果を発揮していたのかはわからない。だが、圭と次郎との関係に影響はまるで現れなかった。
ルールを確認した今考えると、やはり友人という定義が曖昧であったのと、永遠という部分に強制力が強すぎるという判断で、効果が得られなかった可能性が高いと考えている。
そして、それはこの契約において非常に重要で注意しなければいけないことでもある。
ここで一番避けたいのは、第四章「表題及び契約条文の内容における制約」にある、いくつかの条件によって発生する「成立しても効果は得られない」というあれだ。
こっちがさんざん考えて契約しても、効果が得られなかった場合は目も当てられない。しかも、効果が得られたかどうかが、その確証を得られないというのも問題。
この状況において、一番知りたいのは……次郎とネイティブとの間にある契約内容だが。
「あっ、ちょッ!」
さらっと自然な動作で次郎のスマホをぱくろうとしてみたが、次郎はそれを必死にガードしてきた。まあ、当然そう来るだろうと思っていた。
「黙れ! いいからよこせ!」
それでも、可能性を信じて次郎から無理やりスマホをはぎ取ろうとする。だが、数手の攻防を得たあと、圭の腹に鈍い衝撃が走った。
それが次郎に殴られた衝撃だと気づくのに秒を要する。更には、強引にスマホを取ろうとする圭の手が振り払われた。
「ガッ!?」
勢いのあまり、壁に叩きつけられる。そのまるで容赦がない一撃に、肺から空気が押し出され、鈍い痛みがなおも続いた。
「くっそ……、とことん全力……か……」
次郎はスマホを抱え込み、意地でも圭に渡そうとしない。おそらく、これも契約による効果だ。
契約内容を公開してはならない、という契約がされている以上、スマホを取られて、契約内容を盗み取られるのは全力で阻止してくるとうわけだ。
「悪い、圭。どうやっても、スマホを渡すことはできない」
「らしいな……」
これは無理だ。真正面から取るのは不可能だろう。それこそ、こっちもそれ相応の覚悟を持って……それこそ、次郎を殴り倒す覚悟でもないと奪えないだろう。
だけど、それをやるだけの技量は圭にない。
あとは、次郎を騙して奪うという方法だが、警戒された今、それも無理。
「まあいい、だが、契約内容はちょっと考えさせてもらうぞ」
次郎に断りを入れたあと、自分のスマホを起動した。呼び出す画面はコントラクトのルールの画面。
同じく第四章の一節。
・既に契約者が成立している契約と矛盾する、又は違反する契約条文が成立した場合、契約内容の影響力範囲が小さいものが優先される。この場合、範囲が大きいものはその優先された範囲外においての効果は得られる。
2.影響力範囲が同等と判断された場合、契約時期が早い方の効果が適用され、遅い方の契約の効果は得られない。
できれば、次郎と仮の契約を立てながら、このルールがどういう形で適用されるのか検証したかった。だけど、どうやらこれは、ぶっつけ本番で、今考えるしかなさそうだ。
このルール、捉え方はいろいろとあるが、一応目星は付けていた。
例えば、ネイティブと次郎の間で、「知り得た情報は全てネイティブに知らせること」なんていう契約が先にされていたとしよう。それに対して、圭と次郎との間で、「圭の情報を口外しない」という契約をした。
この場合、ネイティブ次郎間の契約は影響範囲大となり、圭次郎間の影響範囲小となると想定している。
それをルールにあてはめた場合、次郎はネイティブに知り得る情報を全て知らせることになっているが、優先される小の範囲、すなわち圭の情報は口外しないことになる。
これに関しては、細部に違いはあったとしても、大まかにはあっていると見ている。
事実、圭が結んだ口外しないという契約は、現状守られている。無論、保証はないが。
これは契約の順番が逆であっても同じ形になるらしい。つまり、あらかじめ「圭の事口外しない」契約を結んでおけば、「全ての情報を吐け」契約を結ばされても圭の情報は守られる。
だが、大きな問題は同範囲の条件。
ネイティブ次郎間で「圭に関して知り得る情報を全て話せ」という契約がされていたとしよう。
その後、圭次郎間で「圭のことをネイティブに口外しない」契約をしたところで、先の契約である方が優先される。
すなわち、次郎圭間の契約は効果を得ないとになるのではないか、ということだ。
全体から一部を守ることは可能みたいだが、一部と同じ一部が干渉する場合、ぶつかり合ってしまって、共存できないということ。これはある から意味、数学の集合という分野も、少しは絡んでくるか。
ちなみに”ネイティブに”という部分を抜いた「圭のことを口外しない」という契約の場合、ネイティブ次郎間の契約が範囲小となる可能性がある。
圭次郎間の契約は「全体に口外しない」に対し、ネイティブ次郎間は「ネイティブと次郎の間のみ」の契約という扱いにあるだろうから。
コントラクトは果たして、どの程度の範囲まで、同範囲として効果を無効にしてくるか。そして、次郎とネイティブの間に、どんな契約が交わされているか。
「やっぱ……そう単純じゃあ、ねんだよなぁ」
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