第22話 埋没、地下墓地の老人

 ――シーズン5が開幕した。


 前回のシーズン4は、ハッカーによって攻略されてしまったので、シーズン5の勝利条件は『この世界の破壊を目論むハッカーを倒せ!』の一つだけとなった。

勝利報酬が五十万ドルに値上げされ、プレイヤー達は歓喜したが、この世界にいるハッカーは、どこにいて、どんな姿をしているのか、誰にも分からなかった……。




 シーズン3の勝利者だった四人は、リベルタスの街の広場に集まっていた。

「今回の勝利条件、どうしたらいいんだろうね?」

エリーが皆に話した。

「そもそも、彼はまだこの世界にいるのかしら?」

フェイは疑問に思ってるようだ。

「どこかにいると思いますよ、そうでなければ、誰も勝利できませんしね」

リノが答えた。

「俺は、前みたいに適当に冒険してたほうがいいと思う。多分、ハッカーがどこかにいたとしても、プレイヤーがとても到達できない場所にいると思うな」

クロウが真面目に言った。

「う~ん、地中の奥底とか、はるか上空の空の上とかだったら、手が届かないよね」

「そうよね、このゲームの運営は何を考えてるのかしら?」

「そこまでは分かりませんが……」

「これは多分のことで、確かなことじゃ無いけど、一番の近道が遠回りの可能性があると思う」

「どういうこと?」

「仮に今すぐそのハッカーと出会っても、今の俺達が勝てるとは思わないだろ? だから、適当に冒険して、装備整えたり、職業ランクやスキルランクを上げたほうがいいんじゃないかな?」

「そうね、どこにいるか分かっても、倒せないんじゃ仕方ないわね」

「そうですね、地道にプレイしてればそのうち見つかるかもしれませんしね」

「じゃあ、あたしがギルド行って何かクエ受けてくるよ」

「久しぶりに聞いたな、そのセリフ」

「懐かしいものがあるわね」

「そうですね、こういうのが楽しいのでしょうね」

……こうして四人は、再びこの世界を冒険することにしたのであった。




 ――それからしばらく時が経ち、四人はSランクのベテラン冒険者となっていた。




 彼らはギルド拠点や装備を再び揃え、この世界で有名な人物として知られていた。

ギルド『我々の中に裏切り者ガイル』は四人しかいないものの、最も強いギルドと思われていたのである。

 だが、その内実は……。

「ぐぅ……、ろくな武器が出ない……」

クロウは嘆いていた。

彼の武器はまだ店売りのAランクの『コバルトソード』だったのだ。

「そうね……。Sランクになっても未だに店売り武器なんて……」

「ウチは『セレブA』のスキル持ってるから、オークションでも買えるよ」

「フェイは『美白の指輪』しか買ってないじゃん……」

「私もやっと銃を買えましたが、『ベレッタナノ』なので敵に当てられる自信がありませんね……」

「やっぱ、稼ぎに行くしかないか……」

「そうだね、ここでグチっても、装備は出ないからね……」

こうして四人は武器を探すため、クエストを受けに行った。


 冒険者ギルドは人混みで溢れ、以前より賑わっているようだ。

エリーはこっそり冒険者ギルドに入り、目立たないようにクエストを受注してきた。

「何もそんなに隠れるようにしなくても……」

「いやさ~、変に有名なのに、装備ヘボイのはどうかな~、と」

「防具は外観オフにできるからね~」

「何も変に見栄はらなくてもいいじゃないですか」

「とりあえずクエ行こう。『地下墓地に潜むネクロマンサーを倒せ!』てやつだよ」

そんな話をして、彼らはリベルタスの地下墓地へと足を進めた。



 ――『リベルタスの地下墓地』

 ここは古代には墓地として使われていた洞窟である。

辺りの洞窟の壁には、あらゆる所に死者の寝床となるような窪みがあり、骨となった遺体が安置されている。

骨型の魔物スケルトンが多く出てくるものの、死者の副葬品として、古代の宝物が出てくるかもしれないという穴場である。

 一行はここへ足を踏み入れ、何か宝物を探しながらクエストをやることにした。

エリーが先頭を進み、罠などを調べつつ進んで行く。

洞窟の通路とはいえ、罠が設置されている可能性もあるからだ。

四人は時々現れるスケルトンを倒しつつ、奥へと向かって行った。

「なかなか無いね~、宝物」

「これじゃ墓荒らしみたいだな」

「みたいじゃなくて、そのものね」

「なにか珍しいものでもあればいいのですが……」

そう話しつつも、地下一階の捜索を終え、地下二階へと足を進めた。


 地下二階も大きな変化は無く、宝箱はあったものの、中に入っていたのは『穴の開いたブーツ』である。

彼ら探索を進めて、見つかったものはガラクタばかりであった。


 地下三階。四人は探索しながら進んで行く。

この階には牢屋のような扉があり、その中には散乱した骨と、宝箱があった。

 エリーは牢屋の鍵を開け、中を覗き込む。そして中に入ろうとすると、

「待ってください、あの骨はおかしいです」

リノが注意するように言った。

「えっ?」

エリーが驚いて、さらに骨を観察する……。

そこにあるのは、人骨らしい骨の他に、大型の魔獣の牙のような物が混ざっていた。

「あれはもしかしたら、竜の牙かもしれないわ」

と、フェイが言った。

「な~んだ、お金になりそうじゃん」

そう言いつつ、骨に近づくエリー。

 だが彼女が近づくと、そのバラバラの骨はおもむろに立ち上がり、錆びた剣を振り回しつつ襲いかかってきた。

骨のモンスターの攻撃をかろうじて躱すエリー。

クロウも前に出て、剣を抜き対峙する。

健康分析ヘルスアナライズ! あれは竜のキバから生まれたモンスター『スパルトイ』よ! 彼は骨密度が低く、こつしょしょーしょ? こつしょそーちょ? ええい! とにかく骨が弱い!」

「キレんなよ……」

エリーがぼやく。

「骨のモンスターで骨が弱いとか!」

クロウはそう言いつつもスパルトイに斬りかかる。

彼らが数合打ち合った後、エリーに頭蓋骨を飛ばされ、彼はその場に崩れ落ちた。

「弱かったな」

「まあね、宝箱あけちゃお~」

エリーはそう言い、宝箱に近づく。

 ところが突然、その宝箱が襲ってきた。『ミミック』だったのだ。

「うわっ、あぶなっ!」

エリーは咄嗟にミミックの攻撃を躱し、距離を取った。

ミミックは狭い牢屋の中で跳躍しつつ、四人を襲う。

クロウが斬りかかるも躱され、フェイの魔法も敵が速すぎて当たらない。

 そうしてバタバタしていると、突然床の一部が崩れ始め、ついには床全体が崩れ落ちてしまった。


 ……下の階へ落とされた一行。

辺りを見回すと、ミミックは岩に押し潰されていた。

「ふぅ、床が抜けるとはな……」

「あたしが罠解除に失敗したわけじゃないよ?」

「体重かしら?」

「オイコラ!」

「見てください、壁が!」

リノが指差した方には古いレンガの壁があり、その複数の隙間から光が出ていた。

向こうに何かあるのかと覗き込む四人。

壁の向こうはレンガ作りの部屋になっていて、そこの中央の台には、何人もの人体を繋ぎ合わせた不気味な死体が横たわっていた。

さらに見ていると、その部屋の扉が開き、魔法使い風の老人が部屋に入って来た。

床が抜けた騒音を聞きつけて見に来たのであろうか。

(あの爺さん、ネクロマンサーじゃない?)

(そうかも、死体が気にかかってるみたいだし)

(あのお爺さん、何か持ってきてるわ)

(なんでしょう? 死体の口に液体を流し込んでるようです)

(死体を復活させようとしてるの?)

(フランケンだな)

(あの体の大きさだと、動き出したら厄介ね)

(あの液体は何なのでしょうか?)

そう小声で話していると、ネクロマンサーらしき老人は、その部屋を出て行った。


 その様子をみた一行は、お互い顔を見合わせて話した。

「あれがネクロマンサーっぽいけど」

「あの部屋にどうやって行きましょうか?」

「この部屋はどこかに繋がってないのかしら?」

「ちょっとあたしが調べてみるよ」

そう言って、エリーはこの空間を調べ始めた。


 程なく、エリーは何か発見した。

「ここの壁、脆くて壊せそう。ちょっとやってみるね」

そう言ってエリーは、壁を短剣で何度か掘る。

すると、壁に穴が開き、その向こう側が見えてきた。

「向こうは通路みたいだね。掘る人チェンジ!」

仕方なくクロウが掘り始める……。

何度か剣を刺して、人が通れそうな穴が開くと、四人は通路へ出た。


 その通路は左右に伸びていて、右は通路が折れていて先は見えないが、左の突き当りに扉があった。

一行は用心しつつ、その扉へと向かった。

 エリーが扉に聞き耳を立てる……。

(中に誰かいるね……。さっきのネクロマンサーかな?)

(奇襲かけてみたら?)

(そうしようか、クロ、お願い)

(よし、やってみる)

四人は小声でそう話して、扉を開けて奇襲することにした。


 クロウが勢いよく扉を蹴り開ける、はずが、彼の足は扉を突き破り、足だけが部屋に入ってしまったようだ。

「ひいっ!」

扉の中で何者かが驚き、走って逃げたようだ。

クロウは扉から足を抜こうともがいていた。

「なにやってんだよ! 奇襲が台無しだろ!」

「扉が思ったより柔かったんだよ! 今さら言うな!」

二人は言い合いながら扉から足を抜き、扉を開ける。

 扉の中は誰かの部屋になっていて、机椅子、ベッド、本が詰まった棚などがあり、もう一つの扉は開いている。

中にいた人は、その扉から逃げたのだろうか。

 四人は警戒しながらもう一つの扉へ向かった。

扉の先にあったものは、レンガの壁の隙間から見たフランケンのような体と、床に倒れた老人だった。

「あれ? この人、壁の隙間から見た人だね」

「倒れてますね」

リノが近づき、様子を覗う。

「死んでいるようです。心臓が止まってます」

「「「えっ?」」」

三人は驚いて、思わず声をあげた。


 その倒れた老人は床にうつ伏せで倒れていて、腕には大事そうに何かの本らしきものを持っていた。

クロウは警戒しながらその本を見た。

「これは……、『エロ本』だ……」

「なんでこの爺さんそんなもの持ってるのよ!」

「エロ本持って心臓が止まって死んだのかしら?」

「これはどういう状況なのでしょうか……?」

四人は考え込んだ……。

先に口を開いたのは、クロウだった。

「分かったぞ!」

「何が?」

エリーが尋ねた。

「この爺さん、急な来客に驚いてお気に入りのエロ本を隠そうとしたけど、驚きのあまり心臓が止まってしまったんだ!」

「うわぁ、最悪だな……」

「よほど見られたくなかったのね……」

「最低ですね……」

「見てみろ……、これはセーラー服ものだ……」

「そこはどうでもいいから!」


 そんな話をしていると、突然〝ズシン〟と、何か重いものが落ちる音がした。

音の方を見ると、横になっていたはずのフランケンが立ち上がろうとしていたのだ。

「こいつ……、動くぞ……」

「ヤバイ! 離れよう!」

四人は部屋から出て、部屋の外から様子を覗った。

 フランケンは立ち上がり、一歩……二歩……と、ゆっくりこちらへと歩き出した。

四人は武器を構え、戦闘の準備に入る。

するとその時、

〝ズゴッ〟

と音がして、フランケンが地面に沈んでしまった。

彼は下半身が土の床に埋まってしまい、両腕で脱出しようともがいている。

「重すぎたのかしら……?」

「そうみたいですね……」

「やっちゃうか!」

これがチャンスとばかりに、四人はフランケンに攻撃をしかける。

だが、フランケンの体は鉄のように硬く、攻撃を全く受け付けない。

「くそっ、どうする?」

クロウは迷っていた。

「えっ!? やばい! ここから逃げよう!」

エリーは何かに気づき慌てて叫んだので、四人は部屋から出て通路の方へ避難した。

 奥の方からフランケンがさらに地面を叩き、もがいている音が聞こえる……。

そう思っていると、突然大きな震動と轟音が彼らを襲った。

四人は危機を感じ、さらに逃げようと通路を走る。

その先には階段がって、そこを一気に駆け上がる。


 ……轟音が収まり、辺りに静けさが戻った。

「あのフランケン、埋まったのかな?」

「多分……、床が脆いみたいだし……」

「大きなものを作ったけれど、重すぎたのかしら……」

「……クエストは達成してますね……」

リノはメニューを開き、呟いた。

「なんかあっさり終わってしまったな……」

「そうだね……、ロクなアイテムも手に入らなかったね……」

「残念ね……、彼を倒せればいいもの落としたかもしれないのにね」

「生きて戻れるだけ良しとしましょうか……」

四人はそう話し、少し落ち込みながら地上へ戻った。


 一行はクエストを報告し、報酬をもらったものの、何かやるせない気分になった。

明日こそはいいことあるさ、そう思いつつ四人は拠点に戻り、休む事にした……。

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