大妖怪ぬらりひょんの仲間

第88話 絶望の男

 女が一人。

 男が一人。


 生まれた場所も育った場所も違う。

 二人には接点は全くない。


 ついその時までは。





「やばい。今日も落ちた」

 男は追い込まれていた。何社受けても仕事の面接が受からない。

 比較的受かりやすいと言われる警備の仕事もスーパーや派遣の仕事すら就けない。


 なにをやっても、昔からツイていなかった。

 タイミングが悪いことが多くて。

 高卒でずっと働いていた会社は潰れた。

 次に働いた会社からはリストラされた。


 貯金は底をついた。

 日雇いも法律の改正で収入が少なすぎる人間は出来なくなった。

 働きたいのに働けない。 

 行政を頼って仕事を紹介してもらおうと行ったら電話を持っていないし、住所が不定じゃ難しいと言われた。

 飛び込みのバイトがあって、一日だけ先週働けた。


 だが財布に残金は千円札が一枚。

 漫画喫茶に泊まって、コンビニでカップラーメンを一個買ったら、ジャリ銭だけになった。

 俺の全財産だ。

 笑えてきた。

 あまりにも悲惨で笑えてきた。

 労働する人間が足らないだと?

 じゃあ俺はなんで面接に受からない?



 もう人生おしまいだ。

 高校を卒業してからは朝から晩まで働いた。

 両親は高校の卒業式の日に、アパートからいなくなっていた。

 帰って来なかった。

 待っても待っても、お父さんもお母さんも帰って来なかった。

 ガソリンスタンドでずうっと働いていたが、そこのガソリンスタンドは潰れてしまった。

 小さなスーパーで働いた。毎日遅くまで一生懸命に身をこにして働いたが、俺はリストラされた。

 なにが悪かったんだろう!

 ツイてない。

 人生ずうっとツイてない。


 男は死を覚悟した。

 悪いことをする度胸はなかった。盗みや強奪や人を騙すことなど、男は善人過ぎて出来なかったのだ。


 男は夏のうだるような暑さの一時しのぎのために公園のベンチに座った。

 幸いベンチの上には大木から伸びた葉っぱたちが木陰を作り出してくれて、幾分か涼しい。

 ここなら水が飲める。

 それに、暑すぎるせいか人が一人もいなかった。

 遊ぶ子供やお喋りを楽しむ老人もいなかった。

 男は衰弱していた。

 

 水だけをガブガブと飲んでも飲んでも、喉の乾きは癒えても腹が満たされることは一向になかったのだ。


 やがて雨雲が男の頭上に広がった。

 男は両手を広げて、これから降るであろう夕立ちを待ち望んだ。

 夏空の下、行き場のない俺は太陽にさらされて汚くて火照っていた。

 熱い体を冷やしてくれる冷たい雨が降るのを待った。



「あんた。なにしてんの?」

 男が振り返ると、中学生ぐらいの少年があざけり笑っていた。

 背が高くて、整った顔つき。

 どこか人間離れした雰囲気。

 目つきは鋭い。

 やけに魅力的に男には見えた。


「なにも」

 早くどこかへ行けっと願った!

 ニュースの事件のホームレス狩りや親父狩りを思い出して、男はブルッと震えた。

 男はこの少年が怖いなと率直に感じていた。

「助けてやろうか?」

 少年はどこから出して来たのか、右手にシャリンシャリンと鳴る棒のような杖のような物を握っていた。



 男はこの日ぬらりひょんと出会ったのだ。

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