第86話 狛犬の北斗羅

 二人が中学校から銀翔の屋敷に帰ると狛犬の北斗羅が、玄関先で銀翔とナナコを待ち構えていた。

「お帰りなさいませ」

 狛犬の北斗羅は狛犬のシンラの妹で普段は犬の姿ではあるが時々人間界への使いの際には、変化へんげの衣装にも凝ったりしてちょっとした楽しみにしている。


 北斗羅は今日はナナコに貰った布地で自分でミシンで作ったワンピースを着ている。

 ひまわりの柄の夏らしい一着だ。

「可愛いワンピースだね。北斗羅ちゃん」

「ウフッ。嬉シイデス。ナナコサマノモ作リマシタ」

 北斗羅はナナコの分のワンピースも作っていたのだ。

「わあ。ありがとう!」

 ナナコは北斗羅から受け取り、心のこもったワンピースを抱きしめた。

「あのね。私、松姫の時は裁縫が好きでそれなりに上手く出来てたつもりだったの。なのにね、ナナコに生まれ変わったら、いくらやっても上手くならなかったんだ。けど…、北斗羅ちゃんのワンピースのおかげでやる気になったよ。私また何か作ってみるね」 

 ナナコはさっそく着替えに、銀翔の部屋から繋がる穴に入り自分の部屋に行った。


「ありがとう、北斗羅。ナナコは喜んでおったぞ」

「喜ンデモラエテウレシイ。ナナコサマガ戻ッタラ、神様ノカフェニイコウ」

「カフェとな?」

「神サマ今日クル」

 銀翔ははやる気持ちを抑えられなくなりそうだ。

 いよいよ稽古をつけてもらえるのだと銀翔は思っている。



 しばらくすると、ナナコが着替えをすませて銀翔の部屋に戻って来た。

 北斗羅の作ったワンピースはナナコにサイズもぴったりでとてもよく似合っている。

「ありがとう」

「ヨク似合ッテマスヨ」

 北斗羅はそう言ってにっこりと笑ってから銀翔の部屋から出た。


 ナナコが銀翔にワンピース姿を見せると銀翔は眩しそうにじっとナナコを見ている。

「ナナコにとてもよく似合っておるの」

 銀翔に言われたら、すごく嬉しくなってナナコはそのあと恥ずかしい気持ちにもなった。

「ありがとう」

 ナナコが少しうつむくと、銀翔はナナコの肩を抱き寄せていた。

「銀翔」

「あまりにもお主が可愛らしいと、ワシはどうしたらいのか分からなくなるでの」

 ナナコはそっと銀翔の肩に手を置いて背伸びをして。

 ゆっくりとナナコは銀翔の頬にキスした。

 銀翔は顔を真っ赤にしてナナコを見る。

 ナナコは銀翔のが合うとナナコはふふっと笑った。


いか? なにがあろうとワシは誰よりもナナコが一番大好きだ」

「どうしたの? 銀翔」

「信じていてくれるかの。ワシが好きな女子おなごはナナコだけじゃ」

 なにか銀翔にだけ感じているものがあるのかなとナナコは思っていた。

 不安になるようなもの。

 これからそんな事が起こるのだろうか。

「うん。私も銀翔が大好きだよ。きっとずっとこれからも」

 ナナコは銀翔にぎゅっと抱きしめられて、幸せな気持ちが胸いっぱいに広がっていった。


「今日、うかのみたまの神が天界からやって来るでの」

「私も一緒に行って良いの?」

「もちろんじゃ」

 銀翔とナナコの二人は縁側に座り、薫のことを話しだした時、朱雀の子の緋勇が庭にやって来た。

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