第24話 銀翔の思い人とナナコ
「じゃあな。また来る。俺が裁縫を習いたいなんて恥ずかしいから誰にも言わないでくれよな」
「うん。あっ、でも! 私あなたに教えるほど上手くないよ」
大妖怪オロチは人懐っこく笑いました。
最初に会った時とはだいぶ印象が違います。
「アンタのそれで充分だ」
そう言ってオロチは鮮やかな緑色の布を一枚と針と緑の糸を買って、ナナコから紙袋を受け取りました。
「じゃあな」
妖怪オロチは片手をヒラヒラさせて藤島手芸店の扉を出て行きました。
「じゃあ。またね」
オロチが出て行ってからナナコはカウンターに突っ伏してしまいました。
信じられなかったのです。
銀翔くんには恋人がいて。
恋人は死んでしまった。
そして私に似ていたなんて。
なんでか気になりました。
まだ出会ったばかりなのに。
こんな不思議な体験をしても誰にも相談できません。
いつもならおばあちゃんかお母さんか、薫に聞いてもらえるのに。
そういや葵ちゃんは大丈夫かな?
ナナコはいろんなことが気になっていました。
それに中学校の期末テストが近いし、勉強しなくちゃ。一度受けてるはずなのにナナコには期末テストの問題の記憶がありません。
「神さまが一人だけ知ってるなんてずるいから記憶から消したのかな?」
本当は勉強よりも気になっています。
銀翔くんがなにを思っているのか。
なにに思いを馳せているのか。
ナナコはチクチクと針で刺されたみたいな心をどうしたらいいのか分からないでいました。
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