超合理主義者の異世界日記

春風落花

第1話 プロローグ

 今日もいつもと同じように日々が始まってしまった。めんどいなあ。影宮かげみや圭吾けいごはぼやいた。圭吾は弓道部所属の高校一年。人にはよく「達観してるなあ」とか言われる少し大人びてるだけのどこにでもいる一般人だ。え?、どうして「達観」とか言われているかだって? うん、少し論理的思考力が異常発達してるだけらしい。医者曰く。


 確か医者にこの診断をもらったのは小6のときだったか。まあ、もともと自分は他人より頭の回転が速いとは感じていたから特におどろきもしなかった。


 その頃まだ生きていた両親は俺の学校での成績や普段からの小学生とは思えない言動について納得した風だった。まったく、個人面談を普通の生徒の2倍は入れてもらってたんだからもっと早い段階で納得してもらいたかったよ。でも、俺にとってはいい親だったと思う。


 今ではぼんやりとしか覚えていないが、中1のときの両親の葬式に出た俺はずっと声ももらさず泣いていたらしい。この頃の記憶が曖昧なのは葬式のあとが何にもまして大変だったからだ。


 大変だったのは後見人のなり手がいなかったことだ。立候補者はいたけれど、少ないながらも両親が残した遺産目当てだったり、俺のことを過剰評価して将来のために恩を売っておこうとか考えてそうな奴ばかりで、ろくな奴がいなかった。そんなもんだから後見人は今も未定だ。代理はいるけど。


 今生活費はバイトと遺産の残りでなんとかしてる。部活だって入る気はなかったが、高校生で独り暮らしをするなら入れって親戚中から言われたからにはしょうがない。


 思惑としては俺が忙殺されたところを助けて後見人になろうとしてたんだろう。


 だが生憎俺の最適化された頭脳はそれらを難なくクリアしてしまった。勉強時間は大幅に削ったが、こうして高校入学もできた。


 誤算が三つもあったが。


 一つ、学校の授業がつまらない。


 最適化された頭脳のおかげで理系教科の授業は聞き流してるだけで8割方理解できる。文系教科は読書が好きなので何の問題もない。今もしわくちゃの先生が古代中国王朝について話してるけどほぼほぼ聞いてない。

 ノートはきっちりとってるけど。内申にひびくからな。こういうところも好きじゃないし。めんどうなんだよなあ。


 二つ、部活がだるい。


 適当に選んだ弓道だが競技そのものは好きだ。先輩も悪い人じゃない。ならなぜか、原因は顧問にある。


 俺はあまり人に干渉しない。なぜなら安易に人に干渉し、人の行動を変えることは自分の価値観を人に押し付けることとなんら変わりがないからだ。俺はそうやって干渉するのもされるのも嫌いだ。なのに顧問の福沢というやつは指導という名を騙ってそれをする。


 悪く言うと生徒を自分の言うことならなんでも聞く下僕のようにしか思ってないんだ。もちろんあいつも明確に意識してるわけじゃない。いや、逆に自覚がないのがまずい。


 先生と生徒の関係だから何も言えないうえに自覚もなかったら修正のしようがない。担任より顔を合わす機会が多い指導者がこれだから嫌になる。


 三つ、生徒にろくなやつがいない。


 俺は小学生の頃ボッチだった。うん、大人びすぎた言動がいけなかったと反省はしてる。誰もが俺と関わるのを避けた。そこで俺は周りが自分を見ないならと、俺が人を見るようになった。いろいろな行動から論理的にそいつの性質を読み取り行動した。おかげで友達と呼べる奴も今では少ないながらもいる。人間観察が趣味及び特技になってしまったが。


 ということで高校入学式の日からクラスメイトの観察を開始した。


 一言で言おう、みんな裏表すごい。


 観察始めてから半年ほど経つがほとんどが陰口たたくような奴ばかりだ。例外ももちろんいるが、休み時間寝たふりしてる俺に警戒することなく近くで集まって陰口たたいてるんだから筒向けだ。本当にひどい誤算だよ。


 そんなふうに脳内を授業と愚痴大会とで2つに分けてボーっとしてたらいつの間にか放課後になってた。

 ああ、今日もいい天気だなあ。秋晴れというやつだろうか。せっかくの天気だが引きこもりぎみの俺にとっては気が滅入るだけだ。まあ、放課後気が滅入る最大の理由は別にあるんだけどね。


 寝たふりをしていたら、誰かが話しかけてきた。


 「おい、圭吾寝てんのか?」


 「・・・・・・」


 誰だかわかってしまった。無視しよう。これが俺の憂うつの原因の一部だ。こいつは憂うつの元凶である顧問と同レベルで面倒くさい。


 「またいつもの狸寝入りだろ。福沢に怒られるぞ」


 チクられるのはまずい。俺はしぶしぶ顔をあげる。


 そこには俗に言うイケメンがあきれた顔で立っている。ちなみにどうでもいいことではあるが俺も一部女子からよく優男だって言われるがイケメンとは違う。イケメンは顔がいい優男のことだからなあ。俺とは次元が違う。あれ、改めて考えるとなんか自分がみじめに思えてきた。


 「ハア~」


俺がため息をつくと更にあきれ顔になったイケメン君。こいつの名前は阿久津 奏太。唯一同じクラスで弓道やっているお節介なクラス委員だ。俺の平穏を乱している罪は重いぞ。覚悟しろ。


 しかし、チクられるのはまずい。止めろと言おうとしたところで放課後の教室が夕日に似た光でいっぱいになった。


 視界が完全にホワイトアウトする直前に俺が見たのはおどろいてもなおイケメンな阿久津だった。どうせなら美人の顔がよかったよ。そうすればみじめにならずに済んだのに。

 

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