第7話 おっと? そろそろテンプレ展開か?

「サイード、お前多彩だねえ……」

「これでも方々を巡礼しましたから」


 俺の素直な感嘆の言葉に苦笑いのサイード。

 シーナとコッコを捕まえた2日後、この間に俺は街の木工所で材木を買い、鉄工所で釘や鉄の棒なんかを買いそろえて来た。

 因みに資材を作ろうと思えば多分出来る。でも俺はなんだかんだで稼いでいるからな。

 稼ぐだけ稼いで貯めこんではダメなのだ。現代地球と違ってこっちは貨幣の絶対量が少ないしなあ。

 なので街で使う事で還元しているって訳だ。


 で、買い集めた資材は教会の裏手にある空き地に運び込み、俺が何となく伝えたイメージだけでサイードがコッコの為の小屋を作って貰っている。

 コッコは結構な数を捕まえたしな。なので野犬に食われても嫌だし、きちんとした鳥小屋を作ってみるかと思ったのだ。


 ホントうまいもんさ。

 大きさはそうだな、十畳間程度か?

 サイードは朝から材木を組み上げ、昼過ぎとなった今はもうほぼ完成に近い程になっている。

 高さは三メートルくらいで、屋根は一方向に傾斜がついているシンプルなやつ。

 よく小学校とかにあった鳥小屋のまんまだ。

 

 で、金網なんて便利なもんは無いから、小屋はあくまで夜に鳥たちが寝る場所兼、卵を産む場所だ。

 そこから繋がる様に幼稚園の校庭くらいの広さを1.5メートルくらいの高さの壁で覆う。


 と言ってもみっちり板が詰まる感じじゃ無く、一定の範囲に目印をつけて、そこに長い丸太を立てる。

 そこに俺が垂直に飛び上がり、丸太の上にかかと落としをして土中に打ち込む。

 あとはそれを30センチ幅くらいの板材を張っていき、若干隙間のある壁を完成させた。


 これは基本的に昼間は放し飼いにするための措置だ。

 コッコは鶏と同じくさほど飛べないから、この位の高さで覆えば逃げないだろう。

 あとは中に水のみの桶を置いて、餌箱を備え付けて完成だ。


 さてこれをほぼ全て完成させたサイードだが、彼は若い頃から方々を旅しており、その最中に困っている人の救済をしながら根を下ろす場所を探していたと言う。

 冒険者をしながら金を稼ぎ、その金を施しに使う。

 その施しは現金をまくとかでは無く、例えば雨漏りのする貧乏な家を直したりとかそう言うのだ。

 そう言うことを積み重ねた結果、サイードはマルチな才能を発揮し、色々な事が出来る。

 この大工仕事のマネ事もそのたまものだと言う。


 現在の俺も元の俺から見れば多彩なもんだとは思う。

 それがたとえハイエルフの謎パワーと言う借り物の力が由来だとしても、だからと言って格闘漫画での大げさな描写がゴミに見えるレベルで戦闘ができちまう。

 こんなのただのリーマンのニーチャンができる訳ない。普通ならば。

 けど俺は何だか知らんがあっさりと馴染んで自分の物とした。

 でもまあ戦闘特化なだけで、サイードみたいな内政向きの技術は皆無だからなあ。


 やりゃ出来ない事は無いのかもしれないけれど、見知っているのと実際に出来るってのは別の話なわけで。

 なので資材を無駄にするくらいなら、出来る人に丸投げをしようって事だ。

 最初は街の工務店にでも頼もうかと思ってたんだけどね。

 朝食の時に何気なくその話をしたら、サイードが自分がやるって言いだした。

 まあよく考えてみれば教会も宿舎もこいつが建てたんだっけ。

 普通にすげーなこの人。逆に呆れるわ。マルチ過ぎて。


「クローディア様、これで如何でしょうか?」

「や、充分ってか完璧だろこれ。むしろ俺、今日からここで住めって言われてもいけるわ」

「ははは、御冗談を。褒め言葉として受け取っておきますが」

「冗談じゃあないんだがなあ。まあいいや。んじゃ後は俺がやるからサイードは勤めに戻ってくれ」

「はい、食事の準備をしておきますので一段落したなら帰ってきてください」


 そう言うとサイードは手を振り戻っていった。

 何だよ絵になるじゃねえか……。ダンディ過ぎない? 後ろ姿。

 俺もあんなエルフになりてえなあ……って女なんだった今。


「おらっ、暴れんなっ……いてえっ突くんじゃねえ!」


 そして布袋に放り込んでおいたコッコを小屋の中に放す。

 ニワトリの倍くらいはあるから暴れると痛すぎる。

 そもそもニワトリだって本気で暴れると小学生くらいなら骨折れたりするらしいし。

 サイズが大きい分、こっちのがヤバいってか。


 蹴られ突かれながらもコッコは何とか小屋に収まった。

 最初はあちこちウロウロしながら落ち着かない様子だったが、暫くするとそれぞれ気に入った場所を見つけたのか、めいめい大人しくなったわ。

 特に余った材木で俺が作った不格好な止まり木にいっぱい並んでるわ。


「おー……結構馴染んでんじゃん。お前ら頑張って卵産めよな!」

『……………………コケッ』


 どうやら気に入ったらしいが、騒ぐでも無く胡乱気な感じで俺を見てやがる。

 なんだろねこいつら。妙に太々しいと言うか……。

 まあこれからは搾取してやるからなぁ。

 頑張って卵産めよな。


「はー、んじゃ今日も稼ぐかね」


 働かざる者食うべからず、これはほんと良い言葉だよな。

 どんだけトンデモ能力があろうが、何もせずに一日を過ごすなんて考えただけで気が狂いそうになるもの。

 まあこれは、俺が勤勉というかワーカーホリックな日本人だったって事もあるんだろうが。

 やあやあ日本人達よ! もっとのんびり生きてもいいんだぜ!

 

 そんな馬鹿な事を考えつつ、俺は街に向かうのである。



 ◆◆



「あっ、クロちゃんだ! おはよー!」

「野良ネコでも見つけた様なリアクションをするんじゃあないよ」

「へへへっ、でも何かいいことありそうだよ?」

「やかましい。屋台の準備を始めるぞ」

「はーい!」


 最近はよく店に出ている俺だ。

 ここは街の商店街の横にある公園広場だ。

 と言ってもただの開けた草むらなんだけどな。


 ここにはドーナツ状に無数の屋台が並んでいる。

 あれだな。地球で言うならマルシェっつーか青空市場というか。

 ここは住人、非住人に関わらず出店出来る。

 勿論商業ギルドで保証金代わりの鑑札を買えるならって条件は付くが。


 俺はこの街に来てからすぐにここで屋台を出している。

 ツーナと言うどう見てもカツオを柵にした物を炭で串焼きにした物を売っているのだ。

 ツーナは結構高級魚なんだよねここでは。

 まあカツオってのは回遊魚で、流線形のボディを活かし、海中をまるで砲弾みたいなスピードで泳ぎ回る魚だ。

 どうもこの世界ではまだ、一本釣りの概念は無い様で、網を食い破る嫌な奴扱いだ。


 でも何かの拍子に捕まえた漁師が喰ってみるとびっくりするくらいに美味かった。

 その後ツーナを捕まえる為の網が開発されたらしいが、高価な魔獣の素材を使わないと無理な様で、苦労に見合うコストじゃないって事で漁獲量が少ないってのが現実だ。


 俺の場合は全裸で海にドボンして、連中と同じ速度で泳ぎながら無理やり捕まえるから関係ないが。

 いやーここにも地球みたいな伸縮素材の水着があればいいんだけどなー。

 無いから仕方なく全裸だもんで。

 まあ見られて恥ずかしいボディでも無いし、こんなロリボディに欲情する変態が居れば、文字通りタマキンを蹴り潰せばいいのでその辺はどうでもいい。


 後は海女が潜れない深度にいる、明らかに巨大なサザエにしか見えないツボシェルも同様に高級だ。

 こいつは網焼きにして売ってるんだけどまークッソ高いのに売れる売れる。

 ただマジでスイカくらいの大きさがあるからさ。

 捕まえるのは楽だけど、かさばるから邪魔くさいんだわ。

 なので数量限定で売っている。


 まあこれが現在の俺の収入源な訳だ。

 例の何でも入るポシェットに半月分くらいの量を確保して、漁をしない日の朝に広場に来て屋台を組み立てて準備をする。

 最近はシーナと言う店番をゲットしたからほぼ毎日出店してるわ。

 ドン臭いシーナだけど、仕事だけは真面目にきちんとやってくれるしな。

 あとは日給として1万円分くらいの王国コインを渡している。


 なので最近は朝にだけ合流してその日に使う材料と釣銭用のコインを渡して売り物の下ごしらえをし、開店した後に俺は別の用事の為に別行動をする。

 で、昼飯時とか夕方の店じまいの時に合流して終わりって流れだ。

 まあ調理自体もツーナを下ろしてしまえば後は串を刺して塩をふり、俺が指定した焼き加減になるまで焼き器で炙るだけだもの。

 ツボシェルなんか網の上において塩とレモンを入れるだけだし。

 あー醤油が欲しいわマジで……。塩レモンでも抜群に美味いけどさー。


「あ、そうだシーナ。メリルさん来てたら炭を買って来てくれ」

「はーい! 今日はどれくらい?」

「うーん……夕方までやれっから、そうだな、三箱くらいでいいわ」


 そして手伝いに来させているシーナに炭を買いに行かせる。

 メリルさんってのは山間の村から毎日やってきて屋台で炭を売っている婆さんだ。

 荷車を牛に引かせてな。

 男衆が炭焼きをやっていて、女衆が町に売りにやってくるという。


 メリルさんとこの炭はマジで凄い。

 備長炭みたいな細身のやつなんだけど、火力も高いし持ちも良い。

 単価は高いけど、それを高く感じないだけの効果があるんだ。

 火付けが大変だけどシーナは火魔法のバーストを使えるから関係ねえし。


 俺はこの街に溶け込む手段として、出来るだけ稼いだ金を地元に落とすってのを実践している。

 商売ってのは横の繋がり、つまりコネを大事にするからな。

 なので炭はメリルさんのとこで買い、網とか炭をいれる焼き器は街の鍛冶屋の親方に作って貰った。

 そうやって取引をする事で、俺の顔とか性格が伝わり、やがて持ちつ持たれつの関係が出来てくる。

 

 最近の俺はハイエルフなのが方々にバレたらしいけど、おっさんエルフのクロちゃんで通っている。

 まあ周囲の屋台の連中と暇さえあればお喋りしてるしな。

 その内容は小さいがアホみたいな美貌を持つハイエルフである俺が、あそこの奥さんの胸は最高だとか、きゅっとしまったウエストが至高とか猥談をしているもんで。

 こういう下品な話を共有できるってのは裏を返せば信用が無いと出来んからな。

 つまりは俺の目論見通り、この街の住人として認知されているってことだ。


「クロちゃんいつもうちの炭を買ってくれてありがとうねえ」


 炭束抱えてシーナが戻ってきたと思ったら、後ろにメリルの婆さんがついてきていた。

 白髪で皺くちゃばーちゃんだが、腰はしゃんとしてて曲がっていないし、70歳とか言ってる割には元気なんだよな。


「メリルさんの村の炭は質がいいからな。こっちが礼を言いたいくらいだよ」

「それでもねぇ、最近じゃ魔道具って言ったっけ? みんなあればっかだもの」

「便利なのはわかるけどな。けどこの炭で焼いた時の匂いが最高なんだ。俺はずっと使うからばーちゃんも元気で通ってくれよな。ポっくり逝ったら許さんからな」

「あはは、ならあと10年頑張るかねえ」

「10年と言わず何十年でも頑張ってくれや」

「ハイエルフ様にゃかなわないねぇ」


 そんな緩い感じで今日も屋台は始まるのである。

 

「シーナ、火付け頼むぜ」

「はーいクロちゃん。えいっ!」

「いつもながら便利だなあそれ。冒険者としてはゴミかもだけど」

「ちょっとクロちゃん言い方!」

「へいへい。おら、火力もっとよこせ」


 俺の屋台は何の変哲もない鉄板を組み合わせた無骨なやつだ。

 横幅が1メートル、縦幅50センチ、深さが30センチ程。

 底が上げ底になっていて、内側にでっぱりをつけてあるから、底から10センチくらいの高さに網で目の荒いのを置く。

 そこにばーちゃんとこの炭を並べてシーナの魔法で火を付けるのだ。

 シーナが手伝ってくれるまでは近場の家とかから火種を貰ってたけどな。


 ごっそりと並べた炭がおきたのを確認したら、暫く放置だ。

 このままじゃあ火力が強すぎるからな。

 いわゆるオキ火になった頃が最適なのだ。

 まあ本来のカツオのタタキだと、ワラとかで一気に外側を焼くけど、こっちだと生で魚を食べる習慣が無いから、割と中まで火を通す方が喜ばれる。

 若干モソリとするけど、それでもいいらしい。


 自分でやってみて実感したけど、火加減って難しいのな。

 ガスとかだと火力調整がツマミひとつで済むけどさ。

 なので多めに炭を燃やしてオキ火にしてさ、火力が欲しい時は炭を足すって言う風にしないと面倒なのだ。


「さって下ごしらえすっぞ。シーナ、ちゃんと見て覚えるんだぞ」

「う、うん……でも難しいんだよなぁ……」

「慣れれば簡単だっての」


 火の準備が一先ず済み、今度はツーナの下ごしらえだ。

 俺はとりあえず20本ほどのツーナをポシェットから取り出す。

 それと共に作業台も。


 これは焼き器を作って貰った鍛冶屋と、その横にある木工所のコラボで出来た優れものだ。

 幅3メートルくらいの日本じゃよく見るタイプのシステムキッチンがあるだろう?

 あのまんまをイメージして、ガス台やオーブンをオミットし、そこにモンスター素材で作った水袋をセットしたものだ。

 丁度その上に鍛冶屋のおっさんが作ったシンクがある。


 ガス台が無いからシンク以外は一枚板の作業スペースで、端っこには水袋に枠を付けたやつがあって、そこには真水がパンパンに詰まっている。

 俺は木工所のおっさんに作らせた木の足場に乗り、作業台にならべたツーナをどんどん捌いていく。


「うわぁ……血がぁ……」

「まあ、うん、慣れろ」


 武器ばっか作ってる鍛冶屋のおっさんは呆れたが、俺がイメージで伝えた魚を捌く用の包丁を数本作らせたんだ。

 それでツーナ……もういい。カツオの頭を落とす。

 一緒に内臓も引き出して……ヒレも落としー、淡々と三枚下ろしにしていく。

 水袋の真水は魚を洗いながらの作業のためだ。


 シンクの底には大きめの穴をあけてあり、汚水や魚のいらない部分をトバトバいれていく。

 下の水袋にそれらはドンドン溜まっていくが、あとできちんと処理するのだ。

 

 三枚下ろしになった分厚い半身2枚だが、中骨を目印に半分に切り、4本の柵が出来る。

 これを同じく木工所に注文して造らせたいい感じのクシで刺していく。

 これで完成だ。後は注文を受けたら焼いて、塩を振ってレモンっぽい柑橘類を掛ける。


 こうして準備が出来た物を、見た目はただの頭陀袋にしか見えないやつに入れていく。

 これはサイードに作って貰った例の空間倉庫加工がされた奴だ。

 リュックみたいな紐を付けてあり、売り子を任せているシーナに背負わせる。

 こうする事で劣化せず、素早く注文に対応できるって訳。

 あとは20本が終わったらまた20本とマシンの様に下処理をするのみだ。

 まあ俺が3本終わる間にやっとシーナが1本終わるって感じだな。

 まだ暫くは俺が朝来ないと駄目だなぁ。

 

 そうこうしている間に随分と陽が高くなっていた。

 時計が無いから分らんが、10時過ぎくらいな感じだろう。

 下処理もあらかた終わり、手を洗っていた時の事だ。


「そこのエルフ、少し付き合って貰おうか」


 偉そうなセリフが聞こえたのは。

 

「あん? 騎士様がこんな庶民の市場に何の用だ? こんな所で油を売ってないで辺境で魔獣でも狩ってろよ」

「不敬な。王国第一騎士団の遠征隊である。速やかに態度を改めよ」

「ふーん? ま、いいわ。ついていけばいいんだな?」

「…………そうだ。レイン、彼女をエスコートしろ」

「はっ!」


 見れば屋台を中心に、油断なく鎧騎士が取り囲んでいた。

 流石に抜剣はしていないが、威圧感は凄いだろうな。

 全員俺がかなり見上げる程にデカいし。


「クロちゃん……」

「シーナ、俺は心配ないからきちんと店を頼むぞ? 面倒くさいからサイードやお前の親父には何も言うな。いいな?」

「うん……でもクロちゃん……(騎士様を殺しちゃダメだよ?)」

「そっちの心配かよっ! まあ、頼む」


 そうして俺は10人以上もいる騎士の群れに連行されたのだ。

 まーあの件だろうな。

 面倒臭いねホント。

 まあいいけどさ。最近退屈してたし。



 ◆◆


「貴公には王家への反逆罪の疑いがある」


 そう言ったのは俺を不敬と言ったあの偉そうな騎士だった。

 兜を外している今は顔が良く見え、20代前半くらいのイケメンだ。

 短く刈っているブロンドが眩しい。

 ちなみにこの場所は領主の館の地下にある薄暗い石室だ。

 鉄格子のある小部屋も見えたし、地下牢ってとこか。


 俺は騎士二人に両腕を掴まれた状態で彼に尋問を受けている。

 周囲の騎士は外の時とは打って変わり、油断なく抜剣していた。

 まあ足りないだろうけれど、それで正解だわな。


「反逆罪ね。それで?」

「故に王都まで来て貰い、然るべき裁判を受けて貰う事になるだろう」

「なら問答無用で連れてけばいいだろ。態々こんな場所に連れ込まなくても。それともあれか? 幼女偏愛みたいな性癖をお持ちか?」


 おうおう、米神に青筋が浮いたわ。

 でも煽り耐性高いな。怒鳴りもしない。

 まあ横のお二方はお怒りらしく、俺の腕を掴んでいる圧力が増したが。

 痛くもかゆくもないにしても。


「ここに連れて来たのは貴公が尊き方を人質にとっては困るからだ」

「ふーん、ベアトリスはただのガキじゃないって事か。へえ。アンタの飼い主と結婚でもさせれば次期王に近くなるとかか? ハッ。無理だろこんな事天下の騎士団にやらせている様じゃ」

「……何の事かは分からないが、今頃ベアトリス様は無事保護されている事だろうな」


 うーん、思った通り過ぎてつまんねえな。

 ケインさんを殺したのがこいつらの一派で、あの時の刺客を殺さなかったから俺の見た目が伝わったのか。やっぱ殺しとけばよかった。

 騎士団ってくらいだからただの脳筋じゃ無かった様だ。

 

 しかしベアトリスにそんな価値があると。

 たかが一代だけの貴族の娘がか?

 となると流行病で死んだとか言う母親の方に何かあるとかか?

 まあ考えた所でわかりゃせんわな。

 ────それよりもだ。


「保護、ねえ……。死んでなきゃいいけどな。アンタの飼い犬が」

「何を言っている。神父一人しかいない教会に────


 目の前の男が涼し気なイケメンを醜く歪ませて嗤ったその時、


「ハ、ハインリヒ様っ」

「名を呼ぶなバカ者。で、どうした慌てて」

「その、遊撃隊が――――全滅いたしました……」

「戯言を申すな」

「いえ真でございますっ」


 ほーらな。

 魅惑のハイエルフである俺も大概アレなんだけどさ。

 サイードもまた、ハイエルフに片足突っ込んだ人外なんだよなぁ。

 あいつの年齢ももうすぐ500年程になるという。

 しかし未だに衰えは一切ない。

 

 俺は腕力特化だが、あいつは俺のイメージの中のエルフそのまんまだ。

 身体能力は俺に劣るが、その代わりあいつは魔法特化だ。

 人を愛し、社会に奉仕する事を生業としているサイードだが、俺への忠誠は揺るぎない。

 それにベアトリスはもはや俺たちの身内だ。

 そんな身内に手を出そうとすれば、たかが騎士如きがどうにか出来るかよ。


「だから言ったろ? 死んでなきゃいいってさ。お前ら舐め過ぎなんだよエルフって生き物をさ。そもそも俺達エルフが何故敬ってもいない王に反逆する必要があるんだ。なあっ!」

「……っ!?」

「……ギイッ!?」


 もういいか茶番は。もっと面白いかと思ったらそうでも無かった。

 なので俺の腕を掴んでいる騎士の腕をこっちから掴み、そのまま無造作に真下に引いた。

 そしたら猫が潰されたみたいな無様な悲鳴をあげて騎士二人はのたうち回った。

 腕、取れてなきゃいいな。


「貴様っ……ウグァ!?」

「貴様じゃねえんだよ死ねよお前」


 そして目の前のハインリヒ様(笑)のタマキンを蹴り上げ、思わず蹲ろうとするのを遮る様に髪の毛を掴む。

 短いけど掴めなくはないな。

 そのままハイリンヒを引きずり、壁際に連れていくと、後頭部を掴んだまま、死なない程度に壁に顔面を打ち付ける。


「やっ、やめろっ────」

「殺すつってんだろ? 死ぬんだよお前は、ここで」

「貴様! 殿下に触れるなっ」

「馬鹿か。触れてんだよ既に。だから動くんじゃあねえぞ。動いた瞬間こいつは死ぬ。声を出しても死ぬ。そう言ってんだ。考える頭があるなら理解しな」


 まだ無事な騎士達はそのセリフで止まった。

 まあ殺す気はないんだけどさ。

 ベアトリスに手を出すってんなら相応の報いを受けて貰う。


「お前らが殺したケインさんだけどさ、い~い男だったぜ? クソ以下の生きる価値もねえゴロツキに囲まれても一切抵抗はしていないからな。可愛い娘を護るために。あの人も騎士だったんだろう? そんな男が最後まで忠義を尽くして剣を抜かずに死んだんだ。なら託された俺は芋引く訳にいかんわな。それにお前ら、何もしなきゃこっちも黙っているつもりだったが、こんなとこまで出張って来たなら話は別だ。お前らさっき俺をエルフって呼んだな? 残念ながら俺はエルフじゃねえ。────ハイエルフだ!」


 完全に決まった。これは我ながらカッコいいだろ。

 ハイエルフだ! フフーン。

 あーでもこのままじゃ引っ込みつかんな。

 ならどうすっかね。

 

 そこでいいアイデアが思いついた。

 こいつらこのイケメンを殿下って呼んだよな?

 つまりケインさんが近衛騎士としてついていた王族とは別の王族って事だろ?

 なら王家の直轄領であるこの街で恥を晒したらどうなるんだろうな?

 

 素晴らしい考えが浮かんだ俺は、血だらけの顔面でプルプル震える殿下以外の騎士に次々襲い掛かり死ぬ一歩手前まで痛めつけると、怯える殿下の髪を再度掴んで地上への階段に向かった。


 さあ、パレードの始まりだ!

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