3月編

第20話 ホワイトデー

「ホワイトデー、か」


 優奈は、資料を整理しながらぽつりそんなことを呟いていた。


「あー、そういえば『あれ』って、ホワイトデーまでに返事出すんだったっけ?」


 私の言葉を聞いて、目を丸くする優奈。


「え? え? 私、口に出してた?」

「うん。思いっきり口に出てた」


 ミキも聞いていたからその話は覚えてる。だから笑いながら私たちの会話に参加してきた。


「柊木くんと、あれからどうなのよ」

「お? それもう聞いちゃう聞いちゃう?」

「……正直、駄目だと思ってる」


 優奈の言葉に、私たちは目を丸くする。


「……ってことは、返事来たの? それとも来てない?」

「来てないよ。見捨てられたのかな、って思ってる」

「聞いてみるのは?」

「聞ける訳ないじゃん」


 それもそうだ、と私は思った。


「マジか。まさか女の子からの告白を無視するなんて……」

「私もそんなことする人が居るなんて思わなかった。けれど、これが事実。これが運命。決められたことなんだな、って思うことにするよ。致し方無い、って思うことにするよ。そうでもないと、やってられないし」


 なんというか。

 優奈はそういうところ、さばさばしてるよね。


「ところで、マキはどうなの?」

「……え?」

「金谷くんのことだよー。あ、ややこしいから金谷兄と命名しておくか」


 ちなみに。

 今、生徒会室に金谷兄弟は居ない。

 先生から呼び出されて、職員室に居るはず、なのだ。


「……わ、私は何も告白とかしてないし」

「でも感情は抱いてるんじゃないのー?」

「…………そうなのかな」

「そうだよー。だって、マキ、金谷くんのこと話すときとっても楽しそうだし」


 そうだろうか。

 私はあまり、私のことを評価出来ていない節がある。

 だから、私は――。


「はー、いいよねえ。あんたたち二人は。浮いた話があって、さ。私なんてそんな話の一つや二つ転がってても良いだろうに、そんなこと無いんだからねえ」


 それは自分が何もしていないからでは無いのか? という突っ込みは今更野暮な気がした。

 結局、私は。

 何も金谷くんに関して、結論を出せていない。

 なら、どうする?

 そんなことを思ったとき――生徒会室の扉が開いて、そこから金谷兄弟が入ってきた。


「いやいや、あの先生にも困ったものだよ。まさか卒業式のプログラムが見つからないことを、僕たちがやってきたから、ということで言い訳にしてくるとは思っていなかった。はっきり言って、最悪の教師だな」

「……それ、先生の前で言わない方が良いからな?」


 金谷くんたちは、結局いつものやりとりをしている。

 私は、そこに入る隙は今のところ、あるだろうか?

 今のところ、その隙が見つかる様子は無い。今のところ、その様子に入る隙は見当たらない。

 だから、私は。

 結論を先送りにしているだけなのかもしれない。

 だったら、しっかりぶつけて、轟沈してしまった方が良いのかも。


「……飯野さん、何か僕の顔についてる?」


 それを聞いて、私ははっと目線をそらした。ずっと金谷くん(正確には、俊くんではなく明くんの方である)を見ていたのだった。はっきり言って、そんなこと指摘されたら恥ずかしいに決まっている。


「いや、何でも無いよ」


 だから、私は。

 また、結論を先送りにした。

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