第91話 持たざる者からの復讐です
ペロパリの部屋をあらかた調べて分かった事はペロパリは複数の人と結婚していた事だ。その数、十数人。
彼の未発表の詩に何人もの女性の名前が登場しており、アモンさんの時のようなスクロールのように丸められた紙に書かれていることから口説くために用意したものと判断した。
「手篭めにしたいだけという線は捨てきれないが他の娘達はどこだろうか」
「まさか殺したとか……?」
「有り得るな」
「まさか身近にこんなやばいやつが居たとは」
近隣の大人しい子が犯人だった並の衝撃だ。あれ、写真で見ると本当にこの子が!? てなるよね。
「最上級魔術士で詩人、家から出る必要もないから表に顔を出さない男だったんだろ、しかも、こんな家が近所付き合いがあるとも思えない。結婚したなんて誰も知らなかったんだろ、逆に詩人に詳しい人を知りたいくらいだ」
「だが、女漁りには出ていたんだろ?」
「そういえば、彼は頻繁にあの紳士が居る店に行っていると言ってたな」
昼に行ったあの素晴らしい老舗を思い出す。そういえばあそこで詩を考えたりすると言っていたな。
「ならあの人が詳しいのかな」
「聞きに行くか、アービス」
「今日はやけに乗り気だな、いつもはあんまりなのに」
「僕はこういう浮気野郎が嫌いなんだよ、ね、アービスもだよね?」
なぜか無表情の上目遣いで聞いてくるアニス。俺はその目を見て吸い込まれそうになるが、目をそらす。
「ああ、俺も嫌いだ」
これは本心だ。しかも、理由は分からないが奥さんを操り人形に変えるなんてもってのほかだ。
「アービスも浮気なんかしないよね?」
「失礼だな! しないよ」
「なら良いんだ」
アニスは普通の笑みを浮かべ、ペロパリの部屋から出ていった。
なんだったんだろうか。俺が浮気などするわけがない……ん? なんか焦げ臭くないか?
「おい、アニス」
「ああ、焦げ臭い、何かが焼けている音だ」
俺とアニスは急いで廊下に出て、階段を降りようとしたが、階段には火の手が上がっていた。一階が燃え上がっていたのだ
「マジかよ!火をつけられた!あの野郎!家に居たんだ!」
「アービス、下がってろ」
冷静なアニスは階段に向かって手の平を差し出す。
「
野球ボール程度の水の塊を手のひらに浮かべたアニスは炎上している階段に投げ込んだ。だが……。
「消えない!?」
アニスが驚く姿は珍しいが俺も驚いた。火が消えないのだ。投げ込まれた水の塊は階段にあたり、水を撒き散らしたのみだ。
「僕の魔法以上の魔術力を持っているのか?」
「いや、これは……」
だが、俺は水の塊の結果を見て、あることを思いついた。
「もしかして……」
俺は手を伸ばし、火に近づいていく。
「おい、アービス! やめろ!」
「見てろ、アニス」
俺は自信満々に火に手を近づける。
熱さもリアルだな、本当に燃えそうだ。俺はこれを幻覚魔術だと確信したのだ。思い立ったが吉日と言わんばかりに手を突っ込んで一気に手を引き抜いた。俺の目から汗が垂れる。
「あっづい!!!」
手を振りながら叫ぶ俺。なんて馬鹿な事をしたんだろうか。とても熱かった。
目から出たのは汗ではなく涙だった。俺は急いでその場から転がるように離れた。手を見ると俺の手は軽度だが火傷を負っていた。
「どうしたんだ!アービス!?さっき後頭部を打ち付けて馬鹿になってしまったのかい!?」
「そ、そうかも……」
あまりの恥ずかしさに俺は顔を赤らめて肯定をした。まさか、本物の火とは……。なら本当にアニス以上の魔術力だぞ。
「治す、手を出せ」
「治癒魔法なんか使えたっけ?」
「不快だが、ナチとかいう小動物に教わった」
教えて貰った割に言動と表情が喜んでないのが気になるが、今すぐ手のやけどを治してもらいたかったため、ならしてくれ!と必死で頼み込むとアニスは手を緑色に光らせ俺の手を優しく触った。だが……。
「な、なぜだ!?治せない!」
「不完全の治癒魔法なのか?」
「いや、この程度のやけどならすぐ治るはずだ」
どういうことだ?この家に来てから不可解な事が多い。そして、俺とアニスは二階の奥に追い込まれていく。
「まずい、火が近づいてきた、さっきの人が!」
「諦めてくれ、僕も悔しいが僕達の身が危ない!」
すでに階段近くの部屋には火が回っており、入れない。普段の適当な発言ではなく正確なアニスの判断は正しい。今、ここで助けに行けば俺達も二の舞になる。俺は救えたはずの女の子に申し訳が立たない。
「すまない……」
「僕も後で謝ってやる、今はどうするかだ……」
――――
出歯亀は死ぬ運命だ。いつも通りの家を外から眺め、僕は笑みを浮かべる。
「だから家に入れなかったのに……」
でも。これで僕が事を起こす間は彼らは動けない。ビーシャには悪い事をした。目覚まし時計代わりに使っていただけなのに……。
「アモンさん」
今はアモンさんだ。あの優しい人が僕を拒むはずがない。今、僕の家で無駄に絶望しているであろう二人にそそのかされたに違いない。きっとそうだ。
「君たちは随分仲が良いからね、熱々のまま、精神が死ぬまでそうしてればいいさ」
僕の笑いは止まらない。僕は楽しくてしょうがない。持たざる者が持っている者へ復讐しているのだから楽しいのは当たり前か。
さて。迎えに行きますよ、アモンさん。
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