第11話 君と堕ちる日々を想像している


 「うおっ!?」


 起きて驚いたのはアニスが俺の頭を抱きかかえるように寝ていて、なおかつ、俺の顔先がアニスの暖かかくて柔らかい部分に押し付けられていた。アニスは未だに可愛い寝息を立てているが、俺は心臓を警告音のように何度も跳ねさせながらアニスを起こした。


 勇者パーティーを組んだ俺とアニスは、学校が免除となり、実質卒業状態になる。俺とようやく目覚めたアニスは目覚めて、朝食をとると、アニスはいったん家に帰り、あのきわどい制服に着替え、俺も制服に着替えると、王城の裏手の奥に用意された勇者の家に行っていた。王城を通り抜けなければならないので本当厳しい荷物検査や、どこに行くにも警備が付き添うのだが、勇者パーティーは免除される。

 制服に着替えたのはそれが一番動きやすいからだ。アニスも昨日の銀色の軽い装備で活動はするのだが、なにぶん普通の生活では動きづらいだろう。


 着いた勇者の家はとても広い洋館だった。大きい階段にダンスホール。さらには中庭まであった。まだ準備中のためか、誰も居ないが、使用人や召使い、料理人が通ってきて世話をしてくれるらしい。歴代勇者たちはここで暮らしていたのか。五十年前の勇者は大男だったらしいからこの家くらいじゃないとダメだったのかもしれない。今は何をしているんだろうか。確か、魔王を倒して引退したと聞いた。


 「五十年周期で再臨する魔王ってどんなやつなんだろうな」


 「さぁね、そんなことより、君の家に行ってみよう」


 「いや、まずいだろ、勇者なのに魔王どうでもいいみたいな態度は」


 「まだ再臨してないんだから良いだろ、それより僕が用意した君専用の君だけの家を見てくれ、なんなら僕も一緒に住んであげようか?」


 「お前には立派な家があるだろ」


 「僕は立派な家には興味ないよ、ただ君の家の近くだから住むだけさ」


 「贅沢なやつだな」


 俺たちはそんな会話をしながら、勇者の家とは別の勇者パーティーの家に赴いた。


 「へー、でっか」


 そこには四つの一軒家が並んでおり、一人暮らしにしては手広すぎるほどだ。俺は中に入ってみると、家具まですでに用意されており、居間には大きなソファがあり、書庫や、勇者の家ほどではないが立派な裏庭があった。寝室のベッドはキングサイズでふかふかだった。俺がそのベッドに座ると、アニスも俺の横に座った。


 「いや、凄いけどこれ、一人で掃除したりすんの無理だろ」


 「君や他のパーティーメンバーの家にも使用人や召使は来るから安心して良いよ、でももし、女の使用人や召使が居たら教えてくれ……」


 「な、なぜ?」


 「色々言わなきゃいけないことがあるからだ」


 「いや、俺の住む家だし、家に関しての事なら俺が言うよ」


 「僕が建てさせたんだから僕の方が詳しいに決まってるだろ」


 「あ、なるほど」


 それは確かにそうだ。だが、なぜ女性だけなのだろう。でも使用人や召使は女性が多いイメージだが、まさか派遣されてくるのが全員女性とか? それは精神的に気を遣ってしまいそうだ……。


 「とにかく女の使用人や召使が来た場合はすぐに言えよ」


 「分かった」


 俺が素直に頷くと、偉いぞアービスと頭を撫でてきた。アニスの小さい手は少し冷たく、やわらかい。少し照れるな。こういうのはしてあげる方が多かったから新鮮だ。


 「君の髪は少し硬いな」


 「悪い、なんかそういう髪質だ」


 「良い、僕は好きだ」


 ううむ、寝室でこんな会話をしていると昨日の夜の事を思い出しそうだ。いや、いやらしい事があったわけじゃないが、あんな格好のアニスと添い寝しただけでかなり俺にとっては恥ずかしい事だ。ちなみに前世では彼女も出来ずに死んでしまったため、そういう経験はない。


 「あ、あのさ、学校免除になったけど勇者の活動って勇者の手も借りたいっていう依頼が来てから始まるだろ? なら、今はまだ暇だし、学校行かない?」


 「嫌だよ、僕は君とずっとこうしていたい」


 そう言ってアニスはまた甘えた声を出して、俺に座った状態で抱き着いてくる。そして、二人は座ったまま上半身だけを倒し、柔らかいベッドの上に倒れる。俺は、天井が視界に入り、その横で、同じく倒れたアニスがもぞもぞしながら、一度上半身を上げると、再度倒し、俺の胸辺りに頭を置いた。ちなみにベッドはふかふかしていて気持ちが良い。俺はそんなベッドの感触を楽しみながら、アニスの綺麗な黒髪越しに頭を撫でながら話しかける。


 「勇者がそんな自堕落で良いのかよ」


 「僕は君とならどこまでも自堕落になれるよ?」


 「そんなんじゃいざって時、動けねえぞ、行こうぜ、学校」


 「……もしかしてナチに会いたいの?」


 いつもの不機嫌ではなく、少し寂しそうに聞いてくるアニス。唐突な質問だな。答えはイエスとも言える。友達の顔をこれから見る機会が減るのなら見れるときに見ときたい。それにナチも友達が多い方ではない。もしかしたら寂しい思いをしてるかもしれない。


 「まぁ、それもあるけ――――」


 「絶対行かない」


 「おいおい、お前も会いたいだろ?」


 「やだ、僕は今のままが良い」


 そう言ってさらに俺の上に乗ろうとしてくる。頭を俺の胸に押し付けながら、器用に足を上げ、俺の腹に乗り上げてきた。そのまま手を俺の背中とベッドが密着している場所で手をもぞもぞさせてきた。察した俺が少し背中を浮かせれば背中まで手を回し抱きしめてくる。まるで子どもだ。こんなに学校が嫌いだったとは。まぁ、まじめなやつでは無かったから我慢して行ってたって言われても驚かないが。ナチにも会いたくないとは。だが、今回は、譲ってもらおう。


 「あのな、アニス、俺が勇者のパーティーで足を引っ張らないためにさらに剣とか魔法を学ばなきゃいけないんだ、お前はしなくていいって言うかもしれないけど、俺は嫌だ、なぁ、たまには俺の頼みも聞いてくれよ」


 「うぅ、でも嫌な物はい――――」


 「な、お願い、アニス」


 アニスが言い切る前に、顔を顎の下にあるアニスの顔に近づけ、耳元に吐息を掛けるようにそう言うと、アニスは耳を真っ赤にしていく。いつもやられているアニスのマネをしてみたんだが……どうだ?


 「わ、分かったよ! 行けば良いんだろ! 仕方ないなぁ……」


 「ありがと! アニス!」


 「もう……」


 アニスを篭絡するのに成功した俺はアニスを連れて学校へ向かった。

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