水色とピンク
意地でも2時間は帰ってこようとしない姉さんを呼び戻し、荷造りを再開する。
あの流れで、のうのうと山野さんと色々出来る精神は持ち合わせてない。
「それにしても、整理整頓が行き届いてますね」
姉さんは綺麗に保たれていた山野さんの部屋に感心する。
で、余計なことを言う。
「哲郎を部屋に連れ込んでるからですか?」
「あははは……」
笑ってはいるものの、ちっとも笑って無い。
突っ込まれるのにあまり慣れてない山野さん。
好き勝手に思いついたことを話す姉さんの矛先は、もちろん俺にも突き刺さる。
「ん~、そう言えば哲郎も結構部屋は綺麗でしたね。つまりは、付き合う関係の前から、互いの部屋に出入りしてましたね?」
「いや、まあ」
「やっぱりそうでしたか」
とまあ、話をしているとすっかりお昼時だ。
姉さんが近くで何かを買ってこようか? と立ち上がる。
「あ、寧々さん。冷蔵庫の中身を空にしたいから私が作る。まだ、調理器具とかは梱包してないし」
「なるほど。それじゃあ、お願いします。っと、料理に埃が入ると不味いので、一回、荷造りは辞めときましょうか」
「うん。じゃ、作り始めるね」
「はい、よろしくです」
姉さんとの距離感を掴み始めたのか、強張った感じが無くなって来た山野さんは台所に立つ。
そして、冷蔵庫を空にするため豪勢に色々と使って料理を始めた。
手伝おうと思って、山野さんの横に行く。
「間宮君は手伝わなくて大丈夫だよ」
「いえいえ」
「あははは、手伝って貰いたいのはやまやまなんだけどさ。ね?」
ちらっと横目で姉さんの方を見る山野さん。
姉さんはと言うと、意外とお茶目な性格なので山野さんの部屋に何か面白いものか無いか、埃が立たない程度に漁ろうとしていた。
「ああ、そう言う事か」
「うん。そう言う事。という訳で、料理が完成するまで寧々さんとゆっくりしててよ?」
「任せてください」
姉さんの横に戻る。
そして、俺は何か漁ろうとする姉さんを止めようとはせず普通に混ざった。
「姉さん。何見てるんだ?」
「いえ、最近の女子高生はどんな雑誌を読むのかなと」
片付けるために纏めていた雑誌を手に取っていた。
6月号と書かれているファッション誌だ。
「そう言えば、姉さんがそういう雑誌を読んでるのは見たことが無いな」
「上京して来た時には読んでましたよ。さすがに、ファッションで浮きたくなかったので」
「へ~」
「それにしても、露骨ですねえ……」
折り目が付いたページを見て、にやにやしてる姉さん。
何だかんだで、たまに山野さんが部屋に持って来ていたので、女性向けのファッション誌は読んでいた。
しるしのついたページと言えば、男性に受けるコーデだの。デートのお勧めスポットだの。気になる男子の落とし方などなどだ。
にやにやされて致し方ない。
「姉さんが山野さん位の時って、服はどうしてたんだ?」
ふと気になったので質問する。
それを聞いていた山野さんも、台所に居ながらも話に混ざって来た。
「あ、それ、私の方が聞きたいかも」
「今思うと、あの時の私はボーイッシュ系だったかなと。ズボンやTシャツばっかりでしたね」
「へ~、そうなんだ。今の寧々さんはコンサバ系だけど。どうして? 昔はボーイッシュ系だったの?」
「安かったので」
きりっとした決め顔で言う姉さん。
昔は金欠気味だったのを物語る世知辛いエピソードだ。
「なるほど。なるほど。うん、確かに安いかな」
「まあ、安いのもありましたけど、高校の時は私ってやんちゃだったのも理由の一つだと思います。可愛めな服なんて御免だって思ってましたからね」
「え? そうなの?」
「はい。荒れてましたよ~。だから、哲郎には同じ轍(てつ)を踏ませないために、色々としてあげてるわけです」
正直に言うと、姉さんは超がつくほどのブラコン。
たぶん、山野さんもそろそろ姉さんがそういう感じだと気が付いてるだろう。
「愛されてるね。間宮君」
そう言った山野さんは料理を作る事に集中し始めた。
一方、姉さんはひそひそと物音を立てないように部屋を物色する。
それにを止めもせず、傍から眺めていた時である。
さっき、俺が開けた下着が詰まっている棚の段を開ける。
ふむふむと確認した後、そ~っと閉めた。
で、山野さんに聞こえないよう、ひそひそと俺に言う。
「楓ちゃんの勝負下着って水色かピンクなんですね」
「ぶふっっ!?」
思いっきり吹きだす。
それを何事かと思った山野さんがこっちを向いた。
姉さんはと言うと、別に秘密にする必要は無いかと開き直り、俺がいきなり吹きだした理由を語りだす。
「いえ、ちょっと楓ちゃんの部屋を物色してたら、下着の入った棚を見たんですよ。で、哲郎に勝負下着の色が水色かピンクと話したら、むせちゃいました」
「そうなんだ。というか、きっちりとした感じだと思ってたけど、寧々さんって意外とお茶目だよね」
下着を見られたことは別に気にしてない山野さん。
俺はちょっとした悶々とした何かを感じながらもハッキリと伝える。
「こういうお茶目な一面も持ってるから、嫌だと思ったら嫌だって言って良いんですからね? 山野さん」
「うん。大丈夫だよ。ところで、間宮君はなんでむせたの?」
「いや、まあ、その……」
姉さんが居る手前、言うのが憚られる。
山野さんの勝負下着の色。
そして、俺がラッキーで見て来た山野さんの下着の色。
それは両方とも――
水色かピンクだった。
「言い淀むのなら、後で教えてね」
「あ、はい」
それから、山野さんに手によって昼食が出来上がった。
で、食べ終わった後、姉さんがトイレへと消えていった時である。
「何で、私の勝負下着の色を寧々さんに教えられて、あんなにもじもじしてたのかな?」
初心な奴め。
下着の色を教えられただけで顔を真っ赤にして可愛い子だね。
そんな風な山野さん。
しかしだ。おそらく、ダメージを受けるのは俺じゃない。
「聞かない方が良いと思いますよ?」
「え~、教えてよ? ね?」
「分かりました。山野さんの勝負下着の色は水色かピンクですよね?」
「うん。それが?」
「やたらと、俺の前で晒されるパンツの色が水色かピンクだったのって、そう言う事だったんだなあって」
「……」
目を真ん丸にしてきょとんとする山野さん。
思っていた反応と違っていたのだろう。
俺が気恥ずかしくて、もじもじしていたと思っていたに違いない。
だからこそ、不意を突かれた山野さんは驚きのあまり固まってしまった。
「山野さん?」
固まった山野さんの前で手を振る。
はっ、と我に戻った山野さんは顔を真っ赤にして俺に言った。
「だって、一応は準備しとかなきゃじゃん……」
恥ずかしそうにぼそりと呟く。
可愛いそんな姿を見た俺は悶絶しそうになる。
恥ずかしがっている山野さんは、俺の方に近づいて来て細々とした声で俺に聞いて来た。
「間宮君は何色だと嬉しいの?」
「え、あ、その……」
恥ずかしがりながらも何色が好きか聞いてくる山野さん。
変に肝が据わっており、じりじりと俺の方へ詰め寄って来る。
「教えてくれたら、その色に変わるかもよ?」
「な、何が?」
「言わなくても分かってる癖に」
そんな時だった。トイレの流れる音が聞こえて来る。
姉さんがあと少しで戻ってきそうな中、近づいて来た山野さんは離れていく。
そして、俺にわざとらしく告げて来るのだ。
「好きな色、後でちゃんと教えてね? そしたら、良い事あるかもよ?」
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