第31話クラスメイトの正体
気が付けば時間は過ぎ去り、生徒会選挙が迫って来ている。
演説用の原稿も書き終わり、すでに先生へと提出し校閲をして貰った。
立候補者と応援演説者についても告知が行われ、今年は誰が立候補するのかも、ついさきほど発表があった。
そう、後は生徒会選挙を行い演説をして投票を行うのみだ。
決戦の日が近づく中、みっちゃんがちょっと怒りながら俺の元へとやって来る。
「まさか、お姉ちゃんに応援演説を頼むなんて……」
立候補者と応援演説をする人が公表されたのは今日。
今まで立候補者たちでさえ、誰が誰の応援演説をしてくれるのかは知らなかったのだ。
どうやら、みっちゃんも身内であるけい先輩が俺の応援演説をしてくれるという事は知らなかったらしい。
「まあな。じゃなきゃ、勝てないし」
前生徒会長となる予定のけい先輩が応援演説してくれる効果はデカい。
なにせ、前生徒会長からのお墨付きと言うのが安心感を与えてくれるに違いないのだから。
「最悪だね。これじゃあ、私が負けるに決まってんじゃん」
「悪いな。俺だって、生徒会になりたいし。でも、別に道徳的な問題があるまいし良いだろ?」
「はあ……、そだね。別に道徳的に何の問題もないから良いよ……」
大きなため息とお小言を漏らして俺の元から去って行くみっちゃんであった。
相手が俺ならみっちゃんは大方勝てると確信していたはずだ。でも、出鼻を挫かれれば、大きなため息を吐きたくもなるのは言うまでもない。
そんなことがあったが、無事に生徒会選挙の日が訪れた。
体育館で全校生徒の前で演説をする日。
多くの人の前に立つのに慣れていないこともあり、喉が渇き、どこか落ち着かない。
「ふう……」
あっという間に俺の前の立候補者の演説は終わり、迎えた俺の番。
壇上の上に立ち、立候補者として演説を始めた。
……結果から言おう。
酷い有様だった。
暗記した演説内容は飛び、声の張りもなく、誰が見てもいまいちな演説をしてしまったのだ。
壇上から降り、舞台裏に戻るとけい先輩に励まされる
「ごめんなさい。さすがの私でもあなたが勝つのは難しいと思うわ。あれね、こんだけ大勢の前だもの仕方ないのよ」
明らかに落選すると言われているような励ましが胸を抉って来る。別に山野さんと一緒に生徒会活動が出来ないからという理由じゃない。
俺はこんなにもダメな奴だったんだなという自己嫌悪だ。
「……色々と助けて貰ったのにすみませんでした」
「いえ、気にして無いわ。それにね、理由が何にせよ生徒会役員に立候補したあなたは紛れもなくあそこに座っている様な人よりも凄いから安心しなさい」
「……はあ」
立候補者の演説は続く。
そして、俺に対してみっちゃんの演説は凄く良いものであり、より一層と俺の手は悔しさのあまり強く握られるのであった。
立候補者の演説が終わると体育館から教室へと生徒たちは戻り、投票が行われる。
なお、今回は俺とみっちゃん以外の生徒会役員は一人ずつしか立候補していないため、おれとみっちゃん以外は無効票が3分の1を超えなければ当選だ。
どうせ、もう負けだと思いながら、立候補者なので最後の最後に体育館から退場予定な俺は、体育館から教室へと戻る生徒たちを眺めている。
「……間宮君。どんまい」
同じく立候補者なので退場するのが最後なので待っていた山野さんがちょろっと俺の前にやって来て励ましてくれる。
……要するに俺が勝つとは思っていないという事だ。
みっちゃんはと言うと俺の失敗があった事で、余裕を取り戻している。
そう、それほどまでに俺の演説は酷かったのだ。
手をギュッと強く握り、悔しさを噛みしめているとぞろぞろと帰って行く生徒たちの方からとある声が聞こえて来た。
その声を聞いた俺は最低最悪な勝てるかもしれない方法を見出す。
応援演説者として、けい先輩を使った時点でだいぶグレーだが、それ以上にグレーな方法だ。
きっと、モラルに反するが……それでも……。
携帯電話を取り出して、どの学年のどのクラスにも一人は所属している超人気なサッカー部である幸喜にとあるメッセージを送る。
『なあ、ちょっと頼みたいことがあるんだが……』
俺はまだ体育館から退場していないが、一年生であった幸喜は体育館から退場し、教室へと戻っていたのかすぐに返事は帰って来た。
『お前の言いたいことは何となく分かった。でも、そんなことすれば……みっちゃんに恨まれんぞ? てか、あれだ。俺が手伝わなくてもすでにある程度、そうなってんぞ?』
察しの良い幸喜から、もし俺がとある事を頼めば恨まれると言われてしまう。
みっちゃんに恨まれてまで勝ちたくない。
ゆえに、俺は踏みとどまることにした。
『悪い。やっぱり、無かったことにしてくれ』
『おうよ。ま、よく頑張ったじゃねえか。どんまいだぜ』
勝てるかもしれないとある頼みを無かったことに。
……さすがにあんな演説をした俺が勝つのはおかしいからな。
気が付けば時間は過ぎ去り、投票は終わった。
立候補者は多目的室に集まっており、不正がないか開票作業を見守る事になっている。
開票作業は選挙管理委員会なんて大層なものは設置されていないので、先生方による作業だ。
そして、数名の先生たちが投票用紙を見て票を数えていく。
「当選した人は以下の通りです」
開票作業が終わったので、生徒会顧問である音楽の先生、山口先生が声を高らかに言う。
「まず、生徒会長。山野 楓さんが当選です」
「次に……」
ドンドンと当選者の名前が上げられていく。
そして、一年生における副生徒会長の当選者が少し頭を悩ませながら告げる。
「一年生の副生徒会長の当選者は間宮 哲郎君です」
「え?」
みっちゃんの驚いた声が響く。
無理もない事だ。俺のあの演説で俺に票を入れようとした奴なんて俺と親しい奴ら以外いるわけが無い。
それなのにもかかわらず、当選したのは俺であった。
「すみませんが、副生徒会長に立候補した二人はちょっと来てください」
生徒会顧問の先生がそう言った。
先生たちだってあんな糞な演説をした俺が勝だなんて絶対に思っていなかったはずだ。
こればかりは絶対に協議が必要な案件なのは言うまでもない。
先生の言う通り、俺とみっちゃんは場所をちょうど空いていた滅多に使われることが無い生徒指導室へと移す。
「早速本題に入りましょうか……。まず、間宮君が当選したのはおかしいとおもっているでしょう? 筑波さん?」
「もちろんです。あんなひどい演説だったのに……なんで哲君が当選したんですか?」
「私にもわかりません。でも、間宮君に票が入ってるのは紛れもない事実です」
どうして、俺に票が入ったのか分からない様子な先生。
罪悪感が込み上げてきた俺は正直にどうしてこうなったのかを言う。
「多分ですけど、けい先輩と俺の仲を疑ったんじゃないでしょうか?」
「どういう事でしょうか? 間宮君、詳しく話してください」
食いつき気味に先生が問いかけて来た。
その問いに俺はハッキリとこうなってしまった理由を答える。
「けい先輩は普通に人気がある生徒ですそんな生徒と俺が関りがあって親しいと思われ妬まれたわけです」
「そうね。妬まれてもおかしくないかもしれません。それが、どう関係してるんでしょうか?」
「俺を落選させれば、けい先輩と俺が一緒に居る時間が長くなるんじゃないか? という声が出たんだと思います。悪ふざけで俺と人気なけい先輩を一緒にさせまいと画策するため俺に票を入れた。たぶんですけど、こんな感じじゃないかなと」
「親しいあなたとけい先輩を少しでも引き離しておきたい。だからこそ、生徒会役員に当選させた。なるほど、そういう事だったんですか。で、どうしましょうか……」
先生がどうすべきか聞いて来た。
その問いに俺はこう答える。
「立候補を無かったことにしてください。さすがにあんな無様な演説をした俺が当選するのはおかしいですから」
辞退を申し出たのだが、先生の顔は浮かない。
「さすがにそれはできません。もう一度、副生徒会長だけ選挙をやり直しましょうか……。本当は時間が惜しいけれども仕方がありません。たぶん、文化祭のために割り当てられているホームルームの時間を一つ潰せば何とかもう一度くらいなら時間を作れると思うので」
「じゃあ、その時に立候補しません。さすがにこれ以上は迷惑は掛けられませんので」
「……申し訳ありませんでした。間宮君。あなたは悪くありませんからね? そこだけは覚えておいてください」
生徒会顧問である山口先生が申し訳なさそうに言ってきた。
「いえ、現生徒会長を応援演説者として選んだ俺がいけないんです」
こうして、俺の生徒会選挙は終わった。
次の日、生徒会選挙のやり直しを行うという告知がされた。
と言っても副生徒会長だけだけだ。生徒会選挙をやり直すにあたり、立候補者をもう一度募るとの事。
やり直す日は明日で、急ピッチな運びとなる予定だ。
そんな紙が張り出された日、友達の幸喜が俺に訊ねてきた。
「選挙のやり直しの理由は男子生徒の悪ふざけなんだろ。どうすんだ?」
「ま、これ以上は迷惑は掛けられないし、立候補はしない」
「しゃあねえか……。ま、気負うんじゃねえぞ?」
ちょっと幸喜の励ましを受け、少しだけ癒されるのであった……。
生徒会選挙のやり直しが告知された日の放課後、けい先輩からとある電話が掛かって来る。
「哲郎君。安心しなさい。たぶん、副生徒会長になれるわよ」
「え?」
「先生方にみっちゃんの成績が悪いから立候補をさせないで欲しいと頼んでみたら、すんなりと通ったわ」
「何でですか?」
「簡単に言うとね。あの子は音楽の成績だけはかなり良かったのよ……。だから、生徒会顧問である音楽担当の山口先生はてっきり他の教科もそれなりに良いと思っていたらしいわ。で、私が立候補させたくない理由である成績不振の事を言ったら、青ざめた顔で言ったの『……始末書を書かなきゃいけませんね。あと妹さんに謝罪をさせて下さい』と」
「つまり、本当はみっちゃんが立候補することは出来なかったと?」
「ええ、そうなのよ。で、生徒会選挙のやり直しが告知されて立候補者は放課後に集まる様にと通達されてたじゃない?」
「はい。そうですね」
「集まったのはみっちゃんだけだったの。そう、立候補者はみっちゃんだけ。でも、みっちゃんは成績が悪いから立候補出来ない。やり直しまでしといて、立候補者が現れない。そんな状態になれば、ただでさえ文化祭のためのホームルームを一コマ潰してまでの再選挙。生徒たちの不満は爆発するに決まっているじゃない?」
遠回しだが、何となく言いたいことが分かって来た。
つまり、俺に……
「副生徒会長に立候補して欲しい……そういう事ですか?」
「ええ、生徒会顧問である山口先生が頼むと言っていたわ」
「……俺なんかで良いんですか?」
「良いんじゃないかしら? そもそも、成績が悪いから立候補出来ないのはみっちゃんの責任だもの。それに、立候補者が現れていないのよ? なら、良いじゃない」
「……分かりました。立候補します」
「分かったわ。まだ私は学校に居るから、山口先生にそう伝えて置くわ」
再び立候補することが決まった。
予定がぎちぎちに詰まっている中、なんとか取り付けた再選挙の日は告知された翌日。
俺は再び壇上に立ち、演説をした。
戦う相手はいない。
こうして、俺は副生徒会長に当選した。
副生徒会長に当選した翌日だ。
ちょうど、山野さんと出会ったので一緒に帰り道を歩いていると、後ろからみっちゃんが話しかけて来た。
「哲君。さすがにそろそろ言っとくけど、私のこと覚えてないでしょ?」
「え?」
「あはは、やっぱり? じゃ、言う。私の名前は筑波 恵美。旧姓は坂田 恵美。これでどう?」
坂田 恵美。
……冷汗が止まらない。
俺は相当にヤバい事をやらかしていたのかもしれない。
そう、みっちゃんが俺と山野さんを気にかけてちょっかいを出していたのはただのクラスメイトでは無かったから。
俺の事をよく知っている人物で俺の事を気にするのは当然とも言えよう人物だったからだ。
そう、俺とみっちゃんの関係は……
「幼馴染を忘れてるなんて最低でしょ」
「あ、ああ。そうだな、恵美……」
みっちゃんSide
「……はあ。まさか、負けると思ってなかった」
「まあ、私が悪いんだけどね。でもさあ、それにしたって酷いったらありゃしないでしょ!」
彼女は今までの鬱憤が溜まっていたこともありイラつきながらそう呟く。
「せっかく、哲君が次期生徒会長と良い仲になれるように協力してたってのにな~。いいや、もう手伝ってあげない。てか、あれ、邪魔しよ」
行き場のないイラつきの矛先は間宮 哲郎に向いてしまう。
矛を彼に向けた彼女の名は筑波(つくば) 恵美(えみ)。母親が再婚する前までは坂田(さかだ)恵美(えみ)であった少女だ。
彼女は紛れもなく、間宮 哲郎と小さい頃に親しかった幼馴染である。
そんな彼女はちょっとした逆恨みであの二人を邪魔するべく動き出すのであった……。
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