第16話友達? 意識されてない? 

「……」

 見られたら恥ずかしいような場面を、クラスメイトのみっちゃんに目撃されて、黙り込んでしまう。


「さすがに今のは言い逃れ出来ないよ。あれがイチャイチャじゃなかったら、何なんだい?」

 好都合だ。今までは茶々を入れられるのを頑なに避けて来た。

 しかし、関係の変化を望むのなら茶々に乗ってしまうのもありなはずだ。

 関係を変えるためにも、俺は今まで迷惑を掛けまいと茶々のほとんどを否定してきたが、利用させて貰う事にする。


「ま、さすがに今のはイチャイチャとしてたと認める」


「ほほう。やっと、認めっちゃった感じ? で、実際問題、お二人はお付き合いをしてるんですかあ?」

 グイグイ来る。

 茶々を認めると言っても、限度と言うものがある。

 変に『付き合ってる』とか口走ろうものなら、大きな迷惑を掛けてしまうかも知れない。

 なので、この場合は曖昧に答えるのが一番だろう。

 

「ご想像に任せる。もう、面倒だからな」


「……んー。もう、私もいちいち否定するのが面倒だからそんな感じで良いよ。勝手にご解釈してどうぞ。まあ、大きな迷惑が掛からなければだけど」

 さらっと、山野さんも茶々を受け入れ始める。

 この受け入れ方が多少の迷惑など掛けても良い相手だ、と打ち解けてくれたからであれば嬉しい。


「で、みっちゃんはどうしてここに居るんだ?」


「お姉ちゃんを励ますためだよ。ほら、あそこで小さくなって焼きそばを食べてるでしょ?」

 ずるずるとお祭りなのに浮かない顔で焼きそばを啜っているけい先輩。 

 俺達が見ていることに気が付くと、明らかにやる気が無さそうに手を振った。


「……何があったんですか?」


「お姉ちゃんは指定校推薦で大学が決まっててさー。よっぽどのことが無い限り指定校推薦は落ちないから浮かれて友達を夏祭りに誘っちゃったんだよね……。一応、言葉は選んで『息抜きにお祭りに行かない?』ってね。でも、受験生はもう、今の時期から、みんなピリピリしてるわけで『指定校推薦組は楽で良いよね』と言われて落ち込んでたわけ。んで、うじうじしてるから引っ張って来た」

 あの落ち込みようは友達と仲違いしたから。

 そして、落ち込んだけい先輩をみっちゃんが連れ出してここに来たと。

 姉思いな妹だな……と思った矢先だ。


「お財布としてね。今のお姉ちゃんは脆いから『ほら、元気出して? 』と言うと、さっと懐から財布が出て来て『何食べたい?』って奢ってくれるんだ~」

 ちょっとでも姉思いな妹だと思った自分を殴りたい。

 意気消沈しているのを良い事に財布代わりとして連れて来られていて、可哀そうだとか思っていたら、焼きそばを食べ終えて、ふらふらとけい先輩はこちらに近づいて来た。


「奇遇ね。こんなところで会えるなんて思ってなかったわ……。やまのんと哲郎君……おひさしぶりね……」


「あ、どうもお久しぶりです」

 

「久しぶりだよ、けい先輩。夏休みに入ってから、まだ一度もあってなかったよね?」

 

「ええ、そうよ。ただ、明後日は生徒会活動があるから生徒会室にきちんと来るのよ。良い……? もし、私以外が来なかったらその時は……」

 テンション低めで、マイナス思考。

 生徒会長をやる位なのだ。メンタルが強いかと思っていたが、そうでもないのだろうか?


「分かってるよ」


「それにしても、良いわね……。私と違って夏祭りに一緒に来てくれる人がいるなんて……。私は、私は……。うっつ、うっ」

 

「ほら、お姉ちゃん。泣かない。しょうがないじゃん、時期が時期なんだしさ~」

 背中をポンポンと叩いて励ましているみっちゃん。


「でも……。あの言い方は無いと思うのよ……。私だって、息抜きに~と思って誘ったのに。そして、謝ろうと思ったら着信拒否されてるなんてひどくないかしら?」

 着信拒否か……。

 なる程、確かにこんなに落ち込むのは納得である。


「はあー、めんどくさい。えっと、山野さんと哲君。良ければ、励ましてあげて」

 それからちょっとの間、受験のせいで、友達とすれ違うのは仕方がないとけい先輩を励ますのであった。

  

 励ました甲斐もあり、若干元気を取り戻したけい先輩。

 そんな彼女はお礼でジュースを買ってくれた。


「それじゃあ、やまのんと哲郎君。私達はお邪魔でしょうしこのくらいで失礼するわ」


「哲君。またね~」

 別に出会ったから一緒に歩き回るなんてことは無く二人と別れるのであった。

 二人に戻った俺と山野さん。

 話の話題を振ろうと何かないかと考えていたら、先ほどの会話で気になった事があったので聞いてみた。


「そう言えば、夏休みでも生徒会ってあるんですね」


「ま、数回だよ。数回。校内が荒らされてないかの見回りとか、引継ぎとか色々とやってる」


「引継ぎ?」


「秋になると完全に3年生は生徒会を引退。今でもほとんど引退してるんだけどね。次の生徒会役員たちのための引継ぎ。ちなみに、二学期に入るとすぐに生徒会選挙があるよ。うちの学校は進学校になり切れない自称進学校。体育祭や文化祭も頑張ろうって感じで生徒会がきちんとして無いとって感じだから」

 進学校と言えば、文化祭や体育祭はしょぼいケースが多い。

 しかしながら、わが校は『自称』進学校。進学校に寄せているだけである。

 だからこそ、勉強以外の文化祭や体育祭にもやる気を出しているのだ。


「生徒会って実際問題、どんな風な感じなんですか?」


「普通だよ。体育祭では体育祭実行委員のお手伝い。文化祭では文化祭実行委員のお手伝いをしてるだけ。主導ですることはほとんど無いけど、色々してるかな~」


「そうなんですか」


「それよりも、間宮君ってきちんと言葉を使い分けてるよね。私とみっちゃんとじゃ大違いじゃん」

 生徒会のお話から、俺の言葉遣いに対して話題が切り替わった。

 俺の言葉遣いに何か言いたいのだろうか?


「堅苦しいですか?」


「ううん。全然、堅苦しくなんて無いよ。むしろ、間宮君に慕われてる感じがして良いからね。ちなみに、私はかなりフランクに話してるけど大丈夫かな?」


「平気ですよ。今更、こんなことを聞かないでくださいって」

 そんな時だ。 

 ポケットに入れている携帯電話が震えたので取り出す。

 震えた理由はみっちゃんからメッセージが届いたからだ。


『馬鹿でしょ。せっかく、噂を流して、お膳立てしてあげてたのに。なんで、あんな風に仲良くなってるの? まったく、このままだと良い友達ルートまっしぐらだかんね!』

 と言った内容だった。

 お膳立て? 一体何がどういう事なんだ?


「ちょっと友達からメッセージが来たんで返信します」

 人通りの多い道から離れて立ち止まり返信をした。


『お膳立て?』

 すぐに返事が来た。


『噂でも立てられれば多少は良い雰囲気に成ったり、意識させられたり、色々と出来るでしょ? だから、ちょっと良い感じに成れるように噂を流してあげたというのに、もう多少の噂じゃ動じなくなって来てるじゃん。本当に、友達で終わるよ?あんな風にイチャイチャとほっぺを拭いてくれてるのに付き合ってないなら、もう一生友達で終わるよ?』 

 どうやら、みっちゃんは親切心で俺と山野さんが良い仲だという噂を流していたとの事だ。

 それはそれで別に納得できるのだが、


『なんで、俺のために?』


『別に? このくらい、クラスメイトなら普通。普通』

 まあ、別に気にすることもないか……。

 にしても、お膳立てしてくれていたとは思っても見なかった。

 確かにもう少し早いうちから茶々を受け入れていれば、多少は山野さんとの関係に変化があったのかもしれない。

 もったいない事をしていたのだと悔やむ。

 加えて、みっちゃんの言う通り、ほっぺをあんな風に拭いてくれているというのに付き合っていないという状態は危うい。

 普通は付き合ってからするような、仲睦まじく戯れる様だ。

 それほどまでの好感度があるとも言えるが、ここまでの好感度があるのに付き合ってない。

 これは好感度のベクトルが恋愛ではなく親愛に近いという事を意味する。

 それすなわち、ただの友達止まりで終わりかねないという危険信号そのものだ。


『もうこの際だから聞くけど、俺と山野さんは友達止まりで終わりそう?』


『うん。あそこまでしてるのに友達だとか言う時点でその可能性が高いに決まってるじゃん。てか、一緒に遊びに来てるのに携帯を弄らない! お祭りというチャンスは絶対に逃すな! 後で、相談に乗ったげるから!』


「あ、すみません。もう、大丈夫です」

 みっちゃんから怒られたので、当てもなく歩くのを再開。

 チャンスを逃すなと言われたので、何か出来ることは無いのか考えながら歩く。

 

「間宮君。かき氷食べて良い?」

 いちいち、俺に伺いを立てる必要はない……と思っていたが、事前に予算は1500円と告げられている。

 明らかにかき氷を食べれば予算オーバーだ。

 だからこそ、聞いてきたのかもしれない。

 

「ダメです。予算オーバーですよ?」


「バレてた? うん、今日は諦めるよ……」

 

「代わりにと言っては何ですが、帰りにコンビニでアイスを買って帰りませんか?」

 たかが氷を削ってシロップを掛けただけなのにお祭り価格であるかき氷。

 コンビニで売っているアイスは安いし、かき氷よりも美味しい。

 なので、かき氷の代わりにコンビニでアイスを買って帰ろうと提案した。


「そうだね。かき氷よりも、コンビニでアイスを買った方が安いし美味しいもんね」


「でも、お祭りで食べるかき氷って美味しいですけどね」


「そう言う事言わないでよ。食べたくなっちゃうじゃん。さてと、どうする? まだ適当にぶらつく?」

 時計を見ると、結構な時間が経っていた。

 お祭り自体の終わりは駅周辺で行われるという事もあり、早めになっている。

 後、1時間もすればお祭り自体が終わりだ。


「満員電車が怖いのでそろそろ帰りましょう」


「だね。帰ろっか」

 こうして、お祭りを楽しんだ俺と山野さんは電車に揺られてアパートがある駅まで戻る。

 駅前に着くと、適当にあったコンビニに入り、かき氷の代わりに俺はチョコレート味の棒アイス、山野さんは誰もが知る氷が固められて齧るとガリガリするソーダ味の棒アイスを買った。

 アパートまで歩きながら食べる。

 その際にみっちゃんから告げられた言葉が頭によぎった。

『あんな風にイチャイチャとほっぺを拭いてくれてるのに付き合ってないなら、もう一生友達で終わるよ?』

 ……終わりたくない。このまま終わってたまるものか。


「山野さんと一緒にお祭りに行けて楽しかったです」


「私も間宮君と一緒で楽しかったよ」


「えっと、ですね。その、金欠じゃなくなって、お金に少し余裕が出来たなら、今度は俺から山野さんを遊びに誘っても良いですか?」

 勇気を出して遊びに誘う約束を取り付けようとした。

 夏休みはきっと友達と遊びに行くし、この前の鍵穴交換で金欠になっているわで、俺と遊ぶお金なんて一切ないだろう。

 でも、夏休みが終わればきっと俺と遊びに行くことが出来る位の余裕は生まれるはずだ。


「良いよ。どんどん、誘って?」

 あっさりとした返事が返って来た。

 思いのほかあっさりとし過ぎていて、不安になる。


「あ、はい」


「間宮君。これあげる」

 食べ終わり、すっかりと乾ききった棒アイスの棒を握らされる。

 咄嗟に受け取ると棒には『当たり』と書かれていた。

 そんな棒アイスの当たりを渡してきた山野さんはふと我に返って俺の手からアイスの棒を取り上げてくる。


「あたりが惜しくなったんですか?」


「ち、違うからね。ほら、私が食べた後の棒なのに咄嗟に渡しちゃったから。さすがに食べた後のをそのまま渡すのはちょっとダメかな~って」


「今日、普通に互いに使った後の箸で食べましたよ?」


「箸よりもべったりと唾液が付いてるし」

 確かに、使った後の箸よりも食べた後の棒アイスの方が汚い印象を覚える。

 口に長い時間入っていたのは明らかに棒アイスの棒だしな。

 そう思うと、汚く感じると言えば、汚く感じる。山野さんの唾液なら汚いとか思わないけど。


「ご、ごめんね。べったりと唾液のついた棒を握らせちゃって」


「いいえ、全然平気ですよ」


「あ、そうだ。これで、お相子だよ?」

 そう言って、俺が持っていた棒アイスの棒を握って来る。

 どこかちょっと焦っているような、慌てているような感じを覚えてしまう。

 きっと俺にアイスの棒を咄嗟に握らせて焦っているに違いない。

 そう思いながら、俺は歩き続けた。





















 ???Side

 暗い部屋に帰って来た彼女は電気を点けてから、ベッドに飛び込んだ。


「間宮君が遊びに誘ってくれるのか~。あ、うん。えへへ」

 じたばたと足を動かし、今日あった出来事を喜ぶ。


「咄嗟にアイスの棒を渡したけど、気持ち悪がられてないかな……」

 

 そして、彼女は携帯電話を開き友達へとお礼の電話を掛ける。

『今日はごめんね。一緒に行けなくて』


『気にしない。気にしない。んで、私達とお祭りに行くのをキャンセルした甲斐はあった?』

 電話の相手は今日一緒にお祭りに行く予定だった友達の一人だ。

 そう、実は……断ったのは相手ではない。

 この部屋の主である彼女なのだ。

 

『ご、ごめんね? だって、お金が無くて夏休みの間に遊びに行け無さそうだったから』


『別に気にして無いっつうの。それで、結果は?』


『こ、今度。遊びに誘っても良いですか? って言われちゃった』


『良かったじゃん。でも、気を抜かない方が良いかんね? あんたが無防備に目の前で寝てるのになんもしてこないって普通はあり得ないから。というか、あんたはどこでそんな無防備に寝たのを見せたの?』

 無防備に寝て居る様を見せて、何の反応が無かったとは伝えたものの、相手の家でと言うのは相手に迷惑が掛かると思い伏せて話した彼女。

 だが、無防備に寝て居る様を見せられる場所は限られており、一体どこでそんな姿を見せて意識されてるか確認したのかを問い詰められてしまう。


『と、図書館?』

 適当に嘘を吐いてやり過ごす。

 まさか、電話の相手も意識されているか確認したい相手の家でと思う訳もなくその嘘を受け入れた。


『ま、頑張りな。あんたの話を聞く限り、本当にただの友達だと思われてるかもしれないから慎重に行きなよ? だって、可愛い女の子が寝ててちょっと触ったりもしないとか普通にあり得ないし』


『分かってるよ。私が友達みたいに気さくに接しすぎたせいで、ただの友達に思われてる事くらいね……。でも、遊びに誘ってくれるって事は意識はされてるのかな? ねえ? どう?』


『私に聞かれてもはっきりとした答えは出せないっつうの。あんた自身じゃないんだからさ』


『分かってるよ。でも、まだ意識されてない可能性が高いから慎重に行く……』

 そう、彼女は勘違いしている。

 一緒に過ごす相手がただのビビりなだけで、普通に女の子として意識されているというのに、女の子として意識されていないと勘違いしているのだ。












 拗れ始めた二人の思いは交わるのだろうか?






 


 

 

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