崩壊

「多数決で決まったことだ。覆されはしない」


 『強欲マモン』は冷たかった。

 いや、彼女が冷たいのではない。神として当然のことを言っているだけなのだから。


 むしろ、神としての道を踏み外しているのは私。

 神ならぬ彼と恋に落ちてしまった私。


 そう、彼の世界は私にとっては、素晴らしい、それこそ食べてしまいたいほど美味しい世界だったが、他の六人にはそうではなかったらしい。


 国境紛争など、過去を顧みない人間同士の対立、進んで行っている環境汚染、動物虐待……私が見ていなかったひどいものを彼女たちは見てきていた。


 それはそうだ、そのための七人での世界の理解なのだから。

 でも、私以外の全員が世界の否決に回るとは思いもしなかった。



 私は悩み、休暇を願い出ると、ヘーパイストス様のところへ、あの懐かしの職場へとこっそり向かった。



――――――――



「おや、久しぶりだね、メル。どうしたのかな?」


 ご自宅で、ヘーパイストス様は、クレイオー様とご歓談中だった。


 クレイオー様というのは、文芸の女神であり、その、ヘーパイストス様の奥様であるアプロディーテー様とは仲がお悪いので、私は緊張したが、どうやら、もうわだかまりのようなものはないようで、ちょっとホッとする。


 二人で一緒に私の悩みを聞いてくださった。


「方法は二つある。しかし、どちらも女神としてのお前自身が無くなってしまう。私は賛成できないな」


 そうおっしゃりながらも、この事態を打開する方法を教えてくださった。


「でも、ヘーパイストス様、人間との恋も、良いものですよ」


 この時、クレイオー様のお顔は優しさに溢れていた。



――――――――



 それから私は、ヘーパイストス様に与えられた手段の一つ、『美徳』をこの世界で探した。

 『美徳』とは、節制、純潔、救恤、慈悲、勤勉、忍耐、謙譲。

 これはどの世界にもあるものであり、これが足りないから、世界は私によって滅ぼされるのだという。


 逆に考えれば、これがあればいいのだ。

 たくさん、たくさん、数えきれないほどに。


 私は女神であることを彼に明かし、協力を願った。


 最初は驚いていたが、もともと『美徳』の塊のような彼である、ヘーパイストス様から与えられたアイテムを上手く使って、この世界の争いや事件を影から解決し、私たちの『美徳』は増えていった。


 しかし、上手くゆきすぎたゆえに、私は忘れていた。

 他の私たちの存在を。

 彼女たちが、私のこの行為を快く思わないであることを――――



 

 

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