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先日久々に顔を合わせた旧友がいる。
ヤツは元々童顔で、学生の頃からとても年相応には見えない、落ち着きのない男だった。
その日も、ヨッと片手を上げて破顔したヤツの様子は、私と同年とは思えない若作りだった。
名実ともにジジイと成り果てた私としては、
内心密かにウジウジしたもののそれはそれ。
私も自分の姿は見えぬものだから調子が上がる。
ヤツの容姿に引き摺られて気分はすっかり若造と成り、場は大いに盛り上がった。
落ち着いた雰囲気の静かなバーで、私はヤツから不思議な犬の話しを聞かされた。
あまりにも賢すぎる犬のお
昔からオタク成分が濃厚なヤツで、学生時代は同好の士を募り同人誌などにも手を出していた。
創作能力も昔取った
ヤツが面白おかしくまとめた“わんわん物語”は、私の頭でも中々良くできていると感心できるものだった。
無論酔った勢いだろうが小説化してネットで売り込むなどと口走る始末だ。
良い年をしたオヤジのヨタ話としては
二人とももう出来上がるだけ出来上がっていて、さて勘定をという段だった。
ここは俺に持たせろと言うヤツの言に甘え、私がふらりとはばかりに立つ一瞬のことだ。
うつむいて紙入れを探り、頭を揺らしながらヤツがボソッと
「・・・しかし、スキッパーってば。
あのワン公はいったい今年で何歳になるんだ・・・」
あの晩以来ヤツには会ってはいないし連絡も取っていない。
そもそもスキッパーとは何者なのか(どうやら犬らしいが)。
そのスキッパーとヤツのヨタ話がどう繋がるのか。
今はあえて聞こうとも思わない。
まだその時ではない。
そう私の内なる声が告げる。
自分にとっての晩年はもしかしたら、生涯で一番頭を使わなければ成らない年月となるのかもしれない。
[彼]の記憶と旧友のヨタ話への引っ掛かりが、頭の中で合理的説明を求めてかまびすしいことこの上もないのだ。
ある一人の男が今まさに冥府に旅立とうとしている。
装着された患者の負担に成らず見舞いに訪れた者が不安を覚えない。
男はそのようにデザインされた先端的な医療機器に繋がれている。
医療機器は治療上の必要十分条件を十二分に満たすよう設計されている。
同時に人間工学的にも洗練されていて現代アートのオブジェのようにも見える。
医師も看護師も男が既に通常の意識を持たないものと認識している。
現時点で考えられる限り最良の医療が施され、無理のない延命が図られている。
だがそれにも終わりが近付いている。
こうして機械に繋がれて永らえるのはそもそも男の希望した
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