乳紙〈前編〉
それまで飲み物などを乗せていた台の上に、出来立てホカホカの偽乳がプルンと乗せられた。
それは本物の乳房のような弾力がありつつ、本物を上回るような艶で光り輝いていた。
自分のチチマスクによって成形された偽乳を、ビフィは無揺で見つめた。それは何度見てもそっくりで、まるで自分の乳が削げ落ちたのではないかと不安になるほどに似ていた。
「『オリゴ王子は生きている。我らはオリゴ王子のチチマスクを取ったあと、乳車に乗せてラクティカシド川まで送り、あちらの乳衛兵に引き渡した。そして、オリゴ乳王もまたおぬちを探している』と申しております」
フェリンは器用に両乳を繰りながら、彼らの古代ブーブス語を乳訳した。
「そうか……そうであったか……」
ビフィは崩れ落ち、その軟乳が地面に垂れた。
「良かったではないか! またオリゴ王子の乳を呑めるのだぞ?」
「そう……じゃのぉ……」
乳汁が出そうで出ない時のような複雑な胸色で、ビフィは王子を見返した。
ω ω ω
飲めや踊れやという胸乱の
ラクトバチルスの森を貫く一本の道を、《ヒヒィン》の引くポロ馬車が渡っていく。ヒヒィンの背に跨がった乗り
「楽じゃ、楽じゃ! 乳快な旅じゃ!」
「うぇーい! もっと持ってこーい!」
王子とビフィは荷台の上でも乳瓶を離そうとはせず、飲み干してはまた新しいものをせがむという有様だった。
「まったく王子ったら
「これは《
「と言いつつ、おぬちも飲んでおるではないか」
「わたちは乳を飲めども、飲まれてはいないからな! おっぱっぱ!」
π陽が最も高いところに登った頃、ようやく鬱蒼とした乳森を抜け、《ポロ馬車》が止まった。
「パイパイ、オッパーイ、オパパ、ブーブー」
「『目的地に着いた』と申しておりまする」
バスティ王子がロブリナの手を借りて荷台から降りると、目の前に大きな川が流れていた。その水は、乳汁のように白かった。
「乳が……乳の川が流れておるぞ!!」
「あれはラクティカシド川でございましょう。カルボ王国は、あの川を渡ってしばらく歩いたところにございます」
「なんじゃ……また歩くのか……」
「パイパーイ」
乳車を降り、乳を振るチチカリ族を見送った王子は、乳同が疑問に思っていたことを口にした。
「こんなに大きな川は初めて目にしたぞ。どうやって渡るのじゃ?」
「ここでお待ちくだされ」
そそくさと立ち去ったビフィをしばらく待っていると、彼乳は五・六谷が乗れるであろう
「漕ぐのが上手いじゃないか」
「幼い頃は、この川で遊んでおったからのぉ。オリゴ王子や、うちの四天乳を連れて、よく訓練をしたものじゃ」
「オリゴ王子はどんな乳じゃった?」
「それはそれは、お優しい方じゃった。一度乳を呑んだ者には、一生乳を呑ませてくれるようなお方じゃ。乳が大きくて、手触りも滑らかで、舌が蕩けるほどの甘い乳をお出しになる。それになんと言っても、乳房の形がお美しかった」
「そうか、それは会うのが楽しみじゃな」
「いや、わっちはもう……」
胸を踊らせた王子の前で、ビフィは乳房を曇らせた。
微乳舟を対岸の川べりに停めると、そこから乳同は山道を歩いた。
胸を揺らしながら山頂まで登ると、前方に、壁で丸く囲まれた乳房模様の街が見えてきた。
「おぉぉ……あれか!」
「この道を真っ直ぐに向かえばカルボ王国でございます。いや、もう言うまでもないことでしょう」
「どうした?」
山頂から降りようとした王子は、今まで先導していたビフィがついてきていないことに気が付いた。だが四天乳は脚を止めたビフィを追い越し、チムも先へ向かおうと王子の腕を引いた。
「チム、何をする! ビフィも一緒じゃぞ? オリゴ王子に会えるのじゃぞ? 何をためらっておるのだ!?」
チムに抵抗しつつも、王子はビフィの只ならぬ胸中を感じ取っていた。
ビフィの乳首が、その乳衣をジットリと湿らせていた。
「わっちは……わっちは
乳守と四天乳は、彼乳の想いが、胸が裂けるかのごとくに分かっていた。
彼乳たちは、己の乳房を犠牲にしてでも、王子の乳房を守らねばならぬ。王子を捨てて自分だけ逃げ帰るということは、乳斬りごっくんもんに値する失πだったのだ。
「乳民らは笑っておる。おっぱぁは肩身の狭い想いでいるに違ぇねぇ。わっちは、カルボの乳汚しじゃ!」
そう言うとビフィは乳を翻した。
「おぬちらとはここで乳離れじゃ。どうかオリゴ王子に
「ビフィ!」
駆け寄っていこうとした王子の乳を抑え、フェリンが歩み出た。
「待たれよ」
足を止め、谷間を寄せたビフィの前に、一通の乳紙が差し出された。
「乳舟の底に、これが落ちていたのでございまする。オリゴ王子……いえ、オリゴ乳王からの、そちへの
ビフィはその乳紙を突き返した。
「要らぬ! 読みとうない!」
「そうですか。ではわたちちが代わりに読むことにいたしましょう」
美乳折りになっていた乳紙を開くと、フェリンはゆっくりと読み始めた。
「[カルボ王国の乳守ビフィ・ズスへ。この乳紙を読んでいるということは、カルボの近くまで辿り着いたということだろう。ならば話は早い。どうか、わっちのところまで乳を見せにてきてはもらえぬだろうか]」
震えるビフィの胸元を、乳同は見つめた。
「[乳民はおぬちの帰りを待っておる。それはわっちや、おぬちの乳上も同じじゃ。彼乳は今でも、巨乳門の前でおぬちの帰りを待っておる。誰かがおぬちのことを笑うのなら、わっちの乳が叩いてくれよう]」
「うっ……うぅっ……」
膝をつき、だらんと垂らしたビフィの乳房を、後ろから王子が抱き止めた。
胸元からだけでなく、上からも乳が溢れていた。
それらは乳の川を作り、王子の胸元を伝って、足元まで流れ落ちてきた。
「[わっちはまだ、おぬちがどこかで生きていると信じておる。この乳汁が尽きるまでに、おぬちの乳首を見つけてみせよう。そして、この乳紙をおぬちが読んだのなら、どうか帰ってきておくれ。わっちの乳も、おぬちに呑まれたがっているぞ。そちの
「に゛ゅぅぅぅぅん!! に゛ゅぅぅぅぅん!!」
ビフィは泣き崩れ、王子も四天乳らも上の乳を大いに漏らしていた。
「わっちは……わっちは、どうすれば……」
「わちらと共に帰ればよい」
「しかし……しかし……」
すると抱擁する王子とビフィの元に、先端の尖った
「もしや……ビフィ殿では?」
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