祝乳〈前編〉
暗闇に浮かぶ
どこからか騒ぎを聞いて駆けつけた音楽隊が、
「良いぞぉ!」「もっと揺らせぇ!」「もっと乳を振り撒けぇ!」
乳宮の廊下、王子の部屋の前にて、大勢の乳臣たちがその舞いに胸をほころばせ、
呑み会での騒ぎの中、フェリンは黙々と乳舞に興じていた。
その想いはただ一つ。王子に部屋から出てきてもらうため。そのためであれば、彼乳らの前で乳房を晒すことなど恥にも値しなかった。
だが、いつもであれば美しく張りのあった美巨乳は、明らかに垂れ始めていた。それに足元もおぼつかなくなっている。なぜなら彼乳は、π陽の暮れる前から踊り続けていたのだ。
「バスティ王子! フェリンがおっぱいを剥き出しにして踊っておりますぞぉ!」
「早く出てこなければ、もう終わってしまいまするぅ!」
ルブミンとロブリナが王子に聞こえんばかりの声で叫んだ。しかし戸が開く気配はない。それどころか、幾度となく戸を叩いてみても、一向に声が返ってこなかった。
「開けてくださいまし! 王子ぃ!」
「王子は、いったい何をお考えなのでしょう?」
「わからぬ」
「もしや、乳吊りなさったのでは?」
「それは……あり得ぬこと。あれしきの胸では――」
そのとき、部屋の中からドスンという落下音と呻き声のようなものが聞こえてきた。
バスティ王子は乳王の寝室にて、胸の下を両腕で抱くようにして寝転がっていた。
あれから三度目の乳吊りを試みたのだが、ほぼ平らと言って差し支えないような微乳には、乳縄が思うように引っかからなかったのだ。
「もうどうでも、よぉなったのぉ。それにしても騒がしい。外では何をしておるのじゃ」
王子が戸に耳を当てると、四天乳やら数々の乳臣やらの声が聞こえてきた。
「フェリン様のお乳が呑みとうございまするぅ」
「先ほどから滴りゆく白汁が、なんとも香り豊かで」
「王子からは、他の者に呑ませるなと申し付けられておりましたが、肝乳の王子は引きこもってしまいました――」
最後に聞こえてきたのは乳守フェリンの声だった。
「このままでは、わたちちの乳房は膨らむばかりで破れてしまうかもしれませぬ。しかるに、このことは王子に内密の上、お呑みいただけると――」
「わたちが――」「わたちも――」「わたちこそ――」
バスティ王子の乳房は、小さいなりにプルルンと震えた。
「なんということ! このままではフェリンの美味しい乳汁が誰かに呑まれてしまう! もしや直呑みではあるまいな!! ええぃ、ままよ!!」
王子は乳掛を外すと、そぉっと戸を横滑りさせ、左目で外の様子を窺った。
だが様子が変だ。先ほどまでの騒がしさが嘘のように静まりかえっている。
また少し戸を開けてみようとした――その時である。戸と柱の間に、四つの巨乳が縦に並んで挟まった。
「せぇい!」「王子!」「これで!」「閉まりませぬ!」
王子は迫り来る乳房に押され、腰を床に打ち付けてしまった。
四天乳が振る舞ったその技は、後の世にてこう呼ばれることになる――《ティッツ・イン・ザ・ドア》と。
ω ω ω
フェリンは乳縄の跡に
「今からでも遅くありませぬ。どうか、上様にお謝りくださいませ」
「嫌じゃ。わちは悪くない」
「そう仰られても、困ってしまいます」
「そうでございますぅ。このままではフェリンとわたちたちだけで乳渡りすることになってしまいまするぅ」
「東の国には大変美味しゅう乳があるとか。
「楽しみでございますね、王子」
四天乳たちもフェリンの説得に加勢した。
「行かぬったら行かぬ。わちは乳を吊るのじゃ」
王子の胸の内では、様々な
今さら民の前に出るわけにもいかず、かといってこのまま部屋に閉じこもっているわけにもいかない。
しかし元はと言えば、あの胸元が狭い乳上が悪い。
「わちは、あの真っ赤な乳首から、あの真っ白な乳を吸いたかっただけじゃ。ただそれしきのことを、なにゆえ乳上はお許しくださらぬのか。大事な子供が、危険極まりない旅に出るために、
不平を漏らす王子に寄り添っていたフェリンは、王子の左腕をその持ち前の美巨乳で挟み込んだ。
「それでは、わたちちが上様にお願いして参ります。しばしお待ちくださいませ」
ω ω ω
双玉座で乳を垂らしながら、乳王は溜め乳を吐いていた。
「やれやれ」
本来であれば成乳の儀にて王子が乳渡りの旅へと出発し、今日という日は乳生の節目となるはずだった。
そこへ起こった王子の
実の子が大群乳の前で見せた失態を決して許すわけにはいかないが、かといってこのままでは王子の立場がない。
「どうしたものか……」
ふと目を上げると、乳君が忍ぶように歩み寄ってくるのが見えた。
「フェリンが参りました」
「入らせろ」
乳王は近くの乳臣に再び乳灯を起こすよう乳示し、乳座から降りると、乳置きの上にその超巨大美乳を乗せた。
まもなくしてフェリンが擦り乳にて現れ、乳王の前でその乳房を再び下げると、彼乳は淡々とした口調で話し始めた。
「バスティ王子は、乳王様の乳を吸わねばご出立なさらない乳積もりでしょう。どうか乳王様の巨満なる
「我が子が煩わせたな」
「いえ、わたちちは王子様が旅に出ぬと仰られるのであれば、共に残る乳積もりでございますので」
「誇らしい巨乳っぷりだ。将来の乳君を任せるに値する」
「真に有り難き乳合わせ」
フェリンは再度、乳首が床に擦れるほどに乳を下げた。
「それにしてもなにゆえ乳王様は、王子への授乳を憚られるのでしょうか? 私はこの国の乳法を学びましたが、そのような禁が書かれている箇所はございませぬゆえ」
「その通りじゃ」
「であれば、王子への授乳を憚られる必要もありますまい」
「そちもいつか王や乳君に……いや、乳親になってみればわかるであろう……」
乳王は王子を生み、初めて自分の乳を吸い始めた時のことを、まるで昨日のことのように覚えていた。
それは、乳首が吸い込まれてしまうかと思われるほど、乳房ごと呑み込まれてしまうかと思われるほどの吸引力だった。
右の乳房が皺々に萎むまで吸い上げられると、今度は左の乳房をねだられた。国一番の貯乳量を誇っていた両乳が、一瞬にして萎んでしまったのだ。
それでも王子は乳が足りぬと泣き喚いた。
仕方がなく、十の乳臣、百の乳官を呼び集めて、乳汁のお替わりを持ってこさせた。
ようやく王子が寝入ってくれたのは最後の乳官の乳を吸い終わった頃だ。ほっと胸を撫で下ろしたのも束の間、翌朝になるとまた王子はワンワンと泣き喚いて、乳を求めた。
「わちは『たしかに』、生まれたての王子をこの乳で育てたのじゃ。あれはそれを忘れているに過ぎん。胸元の悪い乳臣たちから
「そうでございましたか」
乳王は乳守との問答の中に、幼き頃の我が子との思い出を振り返り、胸元を柔らかくした。すると、ある乳案を思い付いた。
「よかろう、今一度、王子に我が乳首を吸わせることを誓おうではないか」
「
「ああ。しかし、ただでは呑まさんぞ」
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