第497話 速攻

【 美波・アリス 組 3日目 AM 3:01 貴族街P地区 】



【 美波 side 】



「ぐっーー!?ぐうぅーー!?」



男の攻撃が苛烈を極める。剣の鋭さ、速度、圧力、どれを取っても私の上をはるかに超えている。今の私ではあまりにも差がありすぎる相手だ。プロフェートが無ければ一瞬でやられている。でもそれも30秒という限られた時間の話。刻一刻とタイムリミットが近づいている。どうしよう。どうすればいいの。どう考えてみても私1人では勝つことは出来ない。アリスちゃんに託すしかない。アリスちゃんが何かを狙っているのは目を見ればわかる。私は…私の務めを果たすしかない。



「どうしたどうした!時間が底を尽きるぞ?ほらほらほら!」



男は上機嫌だ。アリスちゃんに意識は向いていない。このまま私が引き付ける。私1人で倒せなかったのは悔しいけど、でもそんな事も言ってられない状況でもある。一回だけ。この一回だけはアリスちゃんに頼ろう。



「ふんっ…!!どうしたのっ…!!その程度じゃ私は倒せないわよっ!!」


「クク、虚勢を張りおって。なら少し力を強めてやるか。」



男の速度が更に上がる。それでもプロフェートが発動している以上はどうにか出来る。残りの時間を私だけに向かせるんだ。




********************




【 ノートゥング side 】




ーー豪華絢爛な街並みが並ぶこの地区、貴族街。ひょっとしたら重要文化財級の建物が爆音を響かせながら破壊されていく。その破壊ぶりは一切の容赦も無い。それを行うのは剣王ノートゥングと周隊副隊長の黄劉邦。超絶的な力で街を薙ぎ払い、斬り返せば衝撃で家が吹き飛ぶ。人を超えた激しい力の2人がここで凌ぎを削る。


ーーだがお互いに遊んでいる様子は無い。開戦直後からほぼ全力での攻防だ。ノートゥングは一刻も早く劉邦を葬り美波の加勢に回ってこの場を去りたい。劉邦は一刻も早くノートゥングを葬り宇航とともに美波を手中に収めたいと考えいた。


ーー2人に共通するのは周世振。


ーー世振から一刻も早く逃げたいモノと一刻も早く会いたいモノの相反するが共通もする目的。その為に2人は互いを殺そうとほぼ全力での斬り合いを行なっている。



「チッ…!!流石は剣王、凄まじいタオだ。過去の俺'sヒストリーにおいて相応の武功をあげたこの俺が仕留め切れないとは。」


『ククク、貴様もたかだかヒトの身でありながら妾と五分に斬り結ぶその剣技、見事だ。褒めてやろう。』



……余裕を出しては見たが面倒だ。正直まともにやっては勝てる気がしない。この醜男と妾の力は拮抗しておる。いや、違うな。僅かながら奴の方が上だ。此奴の力は何時ぞや出会った異形の騎士、シュッツガイストに匹敵している。妾の力もシュッツガイストを相手にした時より解放されているし紅炎の力も使えてはいるが醜男には及ばない。


だからと言って勝機がない訳ではない。策はある。先刻思い出した”3つの上級奥義”の内の一つなら”この身体でも使える”可能性がある。”代償”は捧げないと駄目だろうし、奥義の力を全て使う事も叶わないだろうがこの醜男を始末する事ぐらいは出来るだろう。問題なのは妾の魔力を全て吐き出さないといけない事だ。セイエンとか言う奴ともやり合う事は出来なくなるし、それ以外ともやり合う事は出来なくなる。だが…ここで此奴を始末する手はそれしかない。癪だが後はバルムンク等に任せるしかない。



『さて、終わらせようか。悪いが時間が無いのでな。』


「そうだな。時間をかければこのままでもやってやれない事は無いが…此方も時間が無い。まさか俺が3段階程度の英傑相手にフルスキルを使う事になるとはな。」



ーー劉邦の身体が金色のオーラに包まれる。その色は非常に濃く、眩い黄金色に光り輝く。上空には魔法陣が展開され、何らかの時空系アルティメットが発動されているのは明らかだ。更に銀色のエフェクトもプラスされ、何とも美しい幻想的な空気を醸し出す。



「教えておいてやろう。俺のスキルは時空系アルティメット《圧縮》に《身体能力上昇》、SSの《剣士の証》だ。《圧縮》の力により俺に近づけば貴様の身体はズタズタにされる。かと言って遠距離から攻撃する事も叶わんぞ。」



ーーノートゥングが聖剣を振り斬撃の刃を形成させ、それが劉邦へと向かう。だが、半透明の赤いバリアのようなモノが突如展開し劉邦を守る。



「クク、どうだ?驚いたか?これが俺の”サイドスキル”《堅牢堅固》だ。この”サイドスキル”は守備系の最高峰。俺の回で《堅牢堅固》を破った者はただ一人アインスだけ。あのミリアルド・アーベントロートですら破れなかった壁だ。今の貴様では絶対に無理だ。大人しく消えるがいい。」


『フッ、誰の話をしているんだか知らんが…貴様は誰を相手にしていると思っている?侮るなよ虫ケラが。』



ーー2人の周囲の空気が変わる。


ーーノートゥングの纏う紅炎のエフェクトがより光を強め、輝き、熱が上がっていく。


ーーその異様なノートゥングの状況に劉邦が少し息を呑むようにした時、闇が支配する空から妙な気配を感じた。



『冥土の土産に見せてやろう。妾の三つの奥の手の内の一つを。』



ーーノートゥングが聖剣を掲げ、焔が集まりだす。



『熾える剣を司りし天空の使者よ、その力により咎を滅せーーグラナートロート・ゾネ・ゼラフ』



********************



【 アリスside 】




時間が無い。それはここから早急に去る事に対してもだが美波さんのプロフェートに対しても当てはまる。もう考えている時間すら無い。


でもこんな状況なのに私は怖いぐらいに冷静だ。あの男に負ける気がしない。あの男ぐらいの相手なら。そしてあの程度の速さなら。何よりもう”布石はうってある”。多分多くの人が勘違いをしている。ううん、きっと魔法使いじゃないと”知らない”んだと思う。もしかしたら魔法使いでも知らないのかも知れない。



ーーそうだね。アリスちゃんが少しでもみんなの力になろうと考えて工夫した副産物みたいなものだよね。たまたま”それ”を発見した。



魔法使いには大きな弱点がある。


マヌスクリプトを手にして、


呪文を詠唱し、


発動する。


この流れが魔法を使う為の条件だ。魔法の威力は絶大だがリスクも非常に大きい。

一つはマヌスクリプトを手にする事。魔法を使う為にはマヌスクリプトを手にする事が条件だ。試しに呪文を詠唱するだけで発動するかやってみたけどダメだった。多分マヌスクリプトは機器から音を出す為のスピーカーのような役割をしているんだと思う。魔法使いと戦った事がある奴ならマヌスクリプトを出すだけで魔法を使う事がすぐにバレてしまう。行動が読まれるのは高リスクだ。


次に詠唱時間の長さ。どんなに暗唱していても数秒は確実に持っていかれる。速さがウリの相手なら発動前に私がやられてしまう。魔法使いが単体では不利な最大の理由だ。


相手に気取られないように発動出来れば一撃で倒せる可能性もある魔法だけどマヌスクリプトを持つという条件がある以上それは無理だ。




普通なら。




でも私は見つけた。条件を。模擬戦部屋でみんなに見つからないように隠れて訓練している時に偶然発見した。魔法発動の絶対条件であるマヌスクリプトを媒介とするというルール。これは常時本を持っていなくてもいい。触っていればいいというのは前回の白河桃矢との一戦で知った条件。それ以外にも条件はあった。発動させる前にマヌスクリプトに触れ、手を離したとしても15秒以内なら魔法が使える。



「詠唱の時間も美波さんが稼いでくれている。私たちの勝ちだ。」




ーーアリスの目が金色に輝き出す。




「『神の意志に背きし愚かなるモノよ、憤怒の雷によりその愚かなる魂を浄化し、聖者へと歩む為の道を創ろうーークレイベン・グロル・ドナー』」

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