第493話 Another 9

大きな力がぶつかる場所へと近づく。遊園地跡と見られるこのステージで誰かが争っているんだ。シンボルとなっている観覧車がさっき倒壊した。かなり激しい戦いだ。大きな力が一つ暴れているだけに感じるけどここまで暴れなくても勝てそうな魔力差に思えた私の見立ては間違ってたのだろうか。

不思議に思いながら交戦中であるその場へ近づくとダメホストがダメダメな雰囲気を出しながら呑気に地べたに座ってタバコを吸っているのが見えた。私と幻夜が一気に距離を詰めていくと、私たちに気づいたダメホストが咥えタバコでこちらを見る。



「よう。」


「よう、じゃないでしょ。何やってんのよアンタ。」


「ご苦労様です凱亜さん。」



とりあえずの挨拶を交わし、私たちは合流する。暴れているのは美穂だ。なんだか邪悪な雰囲気出てるけどどうしたんだろう。どうせこのダメホストがなんかしたんだろう。ホントにコイツはダメダメなんだから。



「何だよ?俺は何もやってねェぞ。アイツらが美穂の機嫌損ねたんだ。」


「アイツらってあの必死に逃げてる銀オーラのチンピラくんたち?何をやったら美穂があんなにキレるような事になんのよ。」


「……さァな。」



なんか隠してるなこのダメホスト。言い淀んでるトコを見ると、キスでもしようとしてたトコをチンピラくんたちに邪魔されて美穂がキレちゃったとか?いや、美穂に関してそれは無いな。美穂はヘタレなんだから一気にそこまで進展する訳がない。このダメホストなら美穂に襲い掛かりそうだけどもしそうなれば美穂は顔を真っ赤にして沸騰してる。今みたいな邪悪な雰囲気が出てる訳ない。ま、いっか。考えたってわかんないし。後で美穂に聞こう。そんな事より今は、



「凱亜くぅ〜ん。」



私は営業スマイルと猫なで声でクソホストに向き直る。



「あァ…?何だお前気持ち悪ィな。」



私は手招きをしてクソホストを呼びつける。クソホストは嫌そうな顔をして立ち上がり私の方へと近づいて来る。



「んだよ。何か用かーー」




ーードンッ




私は渾身の力を込めてクソホストのお腹にボディーブローを放つ。かなり鈍い音がして流石のクソホストもモロに喰らった為膝が折れた。



「テッ、テメェ何しやがんだッ…!?」



クソホストが私に凄んで来るが私が怒ってるのに気づいて少しだけテンションが下がる。怒るのは当たり前だバカホスト。



「悪かったわね性悪で!!どうせ性悪だから彼氏だって出来ないわよ!!」



私が怒ってる理由がわかったのか、クソホストが幻夜を恨めしそうな目で見る。



「テメェ幻夜、アンナにチクりやがったな…」



クソホストに睨まれる幻夜だが気にするようくも無く涼しい顔で見返している。



「チクったわけではありません。成り行き上アンナさんに知れてしまっただけです。」


「屁理屈言ッてんな!!」


「アンタ、幻夜に文句言ってる場合…?リンドブルム出して燃やしてもらうつもりなんだけど私。」


「オイ、やめとけ。ただの冗談だろ。後でアイス買ってやっから。」


「私は子供か!!」


「あん?でもお前アイス好きだろ。51のストロベリー。それ買ってやっから機嫌直せ。」


「ポテト。」


「あ?」


「銀河バーガーのポテトも食べたい。揚げたてカリカリの。」


「…チッ。お前いつ暇なんだよ?」


「現実世界の明日の夜ならオフ。明後日から大阪公演だからその前にオフになった。」


「んじゃウチ来いよ。夜に銀河で適当に買って届けッから。」


「ほう。」


「美穂もウチ来るみてェだからよ。奈緒の話し相手してくれよ。」


「別にポテト無しでも奈緒ちゃんに会いに行くよ。」


「ポテトはワビだ。そんで勘弁してくれ。」


「51のストロベリーもね。」


「わーったよ。その時間だけ店抜けてくッから。んじゃ明日な。」


「おっけ。」



まあ仕方ない。カリカリポテトに免じて許してやるか。



「凱亜さん、それは私も参加してよろしいんですよね?まさか私だけ参加してはいけないなどとは言いませんよね?」


「何をムキになってんだよお前は。女どもしかいねェのに参加していいわけねェだろ。」



なんだか幻夜が不満そうな顔をしている。表情は大して変わってないけど不満が出てるのがわかる。


そんなこんなで私たちが話していると美穂がチンピラくんを全員虐殺して帰って来た。邪悪な雰囲気消えてないじゃん。一体何があったんだろ。



「やっほ、美穂。」

「美穂さんご苦労様です。」


「あ…アンナちゃん、幻夜くん。」



んんっ…?なんかウチらを見てガッカリしたような顔しなかった?やっぱり凱亜となんかあったな。これはもしかして本当にキスでもしようとしてたか?チンピラくんを始末して続きをしようとしたら私と幻夜がいて邪魔くさい的な?うわぁ、ホントにか。美穂頑張っちゃったか。確認してみよう。



「美穂。」


「え?」



私は美穂の手を引いて凱亜と幻夜から少し離れた所へと移動する。



「どうしたのアンナちゃん…?」


「美穂がんばっちゃった?」


「え?何を?」


「凱亜に迫っちゃったんでしょ?」


「しししししししてないよ!?」


「え、ホントに迫っちゃったの?」


「だからしてないって!?」


「だって美穂チョーキョドってるじゃん。」


「それはアンナちゃんが変な事言うからでしょ!?」


「で、どこまでしたの?」


「だからしてないよっ!?」


「キス?まさか…それ以上…?私は美穂をそんな子に育てた覚えは…」


「アンナちゃん私の話聞いてる!?」



ーー




ーー




ーー




「なァにやってんだアイツらは…」



ーー杏奈と美穂がガールズトークに花を咲かせているのを凱亜は咥えタバコで眺めている。



「凱亜さん。」


「あ?」



ーー側にいる幻夜が険しい顔で話しかけてくる。その雰囲気を感じ凱亜は少しだけ顔をしかめた。



「どう見ます?今回のイベント。」


「どうってのは?」


「私には非常に厳しいイベントに感じます。私たちは中級貴族に近いリッターと対峙しました。それだけならどうという事はありませんが、リッターが持っていたモノが問題でした。彼が持っていたのはスキル、”特殊装備”を封じる結界だった。アンナさんがいたので”その程度”の輩では相手にすらなりませんでしたが私一人なら死んでいました。今回のイベントのルールならそれだけでゲームオーバーです。それは凱亜さんであったとしてもわからない。アンナさんは別種の存在だとしても”五帝”でさえクリア困難なイベント、これがどういう意味を持つのか。私にはわかりかねます。」



ーー凱亜が咥えるタバコの先端の火の色が濃くなる。そして一瞬でその色が薄くなると凱亜は口から煙を吐き出し口を開く。



「…なんか目的があんのかもしれねェな。」


「目的…ですか?」


「ああ。アインスの野郎が言う通りなら俺たちを全滅させようとするのは考え難い。それに本当に全滅させるつもりならもっと難度を上げるはずだ。」



ーー凱亜が喋るのをやめ、咥えるタバコの先端がもう一度色濃くなり、そして薄くなる。そうして煙を吐き出すとまた話を続ける。



「条件はどこでも同じ。他んトコで全滅させたい奴でもいんのか。追い込みたい奴でもいんのか。それとも…それ以外に目的があんのか。」


「私たちが負けても構わない程の目的ですか?」


「いや、多分”俺たちは負けねェようになってる”んじゃねェか。」



ーー幻夜は無言で凱亜を見つめる。



「根拠はねェ。俺の勘だ。だが、お前がアンナと一緒じゃなかったらそのリッターとは会ってねェと思う。仮に会っててもお前が負ける事はねェ。きっと”そう決められている ”」


「”選別ノ刻”までは無条件で行かされると?」


「多分な。恐らくだが、このイベントは極端に難度が高ェ。雑魚を一掃すんのも目的だろうが、炙り出すのも目的なんだと思う。んでその炙り出す目的ってのがツヴァイ一派だ。」


「ツヴァイを失脚させる為のイベントだと凱亜さんは思うのですね。」


「アインスがシキってんのがこのイベントなワケだろ?したらツヴァイ絡みってェのが一番しっくり来る。」


「真偽はわかりませんが早く終わらせた方が良さそうですね。幸い私たちは合流出来ました。化け物のようなアンナさんがいればどうとでもなります。まあ…アンナさんに戦わせる事は無いでしょうが。ここからは私が全て蹴散らしますので、」


「ハッ、お前も大概負けず嫌いだよな。アンナより強くなる事諦めてねェんだな。」


「当然でしょう。私は誰にも負けたくはありません。それに、アンナさんの負担になりたくはない。アンナさんに背中を預けられる存在になりたいと思っております。」


「俺も同じようなモンだ。アンナも美穂も出来れば戦わせたくねェ。女は戦う必要なんてねェ。俺とお前がやりゃいいんだ。」


「はい。」


「おっしゃ!!そんじゃどっちが多く敵を倒すか勝負でもすっか。負けた方はアンナのメシにタバスコでも入れて来るって事でよ。」


「それ、負けたらアンナさんに殺されますよね?」





私たちは歩く。


願いを叶える為。


自由を手に入れる為。


4人で歩くんだ。

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