第486話 綿谷みく VS 中之島涼子 5
【 楓・みく 組 2日目 PM 10:45 市街地D地区 】
「がアッ……うアッッッ……」
ーー土煙が晴れる中、中之島涼子は仰向けになり呻いている。みくの『白虎』をどうにか耐えた中之島だが、そのダメージは凄まじく、もはや戦う事はおろか立つ事さえかなわない。
「まるで漫画の世界みたいな技やな。スキル無しでこんなん出せるなんていろいろおかしいで。」
ーー中之島が苦悶の表情を浮かべながら声のする方へと目を向ける。
「本当だな……一気に形成が……ひっくり返っちゃったな。私の負けだ…。」
ーー中之島が観念した様な清々しい顔で天を仰ぐ。
「聞いてええ?」
「…何?」
「アンタ、ウチを本気で殺す気も勝つ気も無かったやろ?」
「…さあ?どうして?」
「殺気が感じられんかった。ダメージは負ったけどそれはウチの覚悟を問うただけみたいにも感じる。ブレてたウチに喝を入れたみたいな。」
「私は本気で戦ったさ。」
「何で?アンタがウチを生き残らすメリットなんかないやん?スキル使わないってルールにしたんも後々の事を考えて使用回数減らさんようにしたんちゃうん?」
「知らない。」
「答えへんの?それとも”答えられへん”の?」
ーー中之島がみくと目線を一度だけあわせ、すぐに目を逸らす。
「知らないって言ってんだろ。さっさと芹澤の助けにでも行け。まともにやって茜にはまず勝てない。”まともにやれば”ね。」
「なんやその意味深な感じ。」
「つーか敬語使え。私のが年上だぞ。」
「そうなん?ウチと変わらん気すんねんけど。」
「リッターは歳食わないからね。本当なら私は27だよ。」
「それはお得やね。」
「お得ですね、だろ。お前も武道やってんならケジメつけろ。」
「はいはい。」
「……お前、あんま調子に乗んなよ。」
「え?怒っとるん?そんな敬語ぐらいええやん。ウチ苦手やもん。」
「そうじゃない。敬語なんかどうでもいい。いや、良くはない。ちゃんと敬語使え。」
「そんならどういう意味?」
「お前が私に勝った技が凄かったのは認めるけど次に出せるとは限らない。仮に出せたとしても威力は相当弱くなるぞ。」
「え、なんで?」
「お前、僅かながら”覚醒”してるからそれだけの威力になってんだよ。」
「カクセイ?なにそれ?」
「身体から湧き上がるような力を感じるだろ?脇腹の痛みもかなり楽だろ?」
「そーそー、さっきから何か急にそうなんよね。」
「それが”覚醒”だ。ヒトの身体に本来眠っているはずの真の力の解放。それが”覚醒”という。」
「え、すごくない?ほんならウチ無敵やん。」
「だから調子に乗んなって言ってんだろ。お前のはただの兆しの中の兆し。ちょびっとだけステータス上がったようなモンだ。それにどうせもう使えないだろ。知らないけど。」
「なんや冷たいやん。涼子チャンとウチの仲やん。」
「距離詰めんな。何で名前で呼んでんだよ。」
「ええやん。」
「良くない。とにかく調子に乗んな。もう行け。茜はノッて来ると加減なんか忘れるからな。」
「やっぱり加減しとるんやん。」
「うるさい。」
「そんじゃ行くわ。また会えたらええね。」
「……綿谷、死ぬなよ。」
「うん。あんがと。」
ーーみくはその場を後にし、楓が戦っていると思われる場所へと動き出す。
「……戦う前にあんな感じになりゃ普通は殺したくなくなんだろ。私らも甘いなあ。まあ一応はログに残っても咎められない程度の戦いはしたはず。」
ーー中之島涼子は身体を起こし胡座をかくように座る。
「目録には綿谷たちはツヴァイ一派ってなってたな。イベントが終わったら葵の奴に接触してみるか。茜に聞かなきゃだけど状況によってはツヴァイ一派に付く事も視野に入れてもいいし。」
ーー涼子はみくが向かった先の上空に稲光をあげている雷雲に目をやる。
「”今回で最後の俺'sヒストリー”。それが本当かどうかは敗者である私らにはわからない。でも、本当に今回が最後なら綿谷たちに託してみるのも面白い。何より……人間的にアイツら嫌いじゃないんだよね。」
ーー涼子が一人、軽く笑い声をあげる。
「あとは茜が芹澤殺したりしなきゃいいけど。茜はノッて来ると戦闘に夢中になるからなぁ。だから狂戦士なんて二つ名付けられちゃうんだよ。普通にしてれば間違いなくリッターの中でも5本の指に入る実力を持ってるんだから。あんなに低い爵位を与えられるような力じゃないんだ。だからこそ、ここから這い上がらないといけない。」
ーー涼子が視界から消えそうになるみくを見る。
「”選別ノ刻”は近い。残れよ、綿谷。」
********************
「ねえ、ミリアルドさん。僕は不思議に思っている事があるんです。」
ーー豪華に彩られた部屋の中でアインスのリッターであるミリアルド・アーベントロートと白河桃矢がいる。
ーー桃矢は机に顎肘をつき、少し苛立たしげにミリアルドを片目で見る。対するミリアルドは足を組んで少し格好つけた気障ったらしい感じで読書をしている。
「何だ?」
ーーミリアルドはカップに注がれた紅茶を口につけながら桃矢を見る。
ーー桃矢は立ち上がり爆発したかのように口を開く。
「アインスさんはどうして田辺慎太郎たちに加担するような事をするんです?僕はそれがわからない。水口杏奈たちに加担するのはわかりますよ?僕たちは彼女たちに賭けたんだから。何より水口杏奈の実力は普通じゃない。彼女の力はもはやこの時点で中級貴族を超えている。中級でも規格外の連中以外は彼女を抑える事は出来ない。しかもそれは”覚醒”抜きの話です。”覚醒”されたら僕は当然としてミリアルドさんだって勝てないでしょ。」
「水口に関しては否定しない。あの女は異常だ。まるで『レジェンドスキル』を所持しているかのような力だ。それに加えて『幻体』とはいえリンドブルムを使役している。恐らくは誰も勝てないだろう。今の時点では。蘇我でも島村でも。」
「ならやっぱり水口杏奈だけで十分だ。加えて矢祭凱亜までいる。楢葉美穂も船曳幻夜も実力は”五帝”級だし。総合的に見ても何一つ勝るものはない。なのにどうしてアインスさんは田辺たちにも接触するんです?」
「さあな。それは俺にもわからん。保険の為なのか、ツヴァイへの対抗なのか。だが、アインスが間違った事は無い。それならば俺たちがあれこれ考える事でも無いだろう。」
「ミリアルドさんは物分かりがいいんだかなんだかわかりませんけど僕は正直不満ですね。アインスさんは僕たちへの言葉が足りなすぎる。」
「不満があるなら抜けろ。」
「僕だって抜けたいですよ。でもね、恩がある。大恩が。アインスさんを決して未来永劫裏切る事など出来ない。」
「なら諦めろ。」
「だから不満なんです。こんな自分が嫌になりますよ。」
「やれやれ。お前が裏切ってもアインスは怒る事はないと思うぞ?」
「わかってますよ。ただ自分に対して嫌なんです。」
「やれやれ。ごちゃごちゃと物を言っても何も始まりはしない。お前が恩によりアインスを裏切らないのならそれで話は終わりだ。」
「ちょっと愚痴っただけじゃないですか。怒らないで下さいよ。」
「俺はこういう性格だ。今更貴様もわかっていることだろう。」
「はいはい、わかりましたよ。」
ーー桃矢が肩をすくめ、外国人のジェスチャーのように振る舞う。
「このイベントにしても裏で手を引いてるのアインスさんでしょう?なんでこうしたんですかね?」
「田辺の事か?」
「ええ。コレ、殺しにかかってるとしか思えないじゃないですか。周世振に霧島茜ですよ?茜さんの強さはミリアルドさんだってわかってるでしょ?とてもじゃないが下級貴族の力じゃない。けど、何よりマズいのは世振さんですよ。彼は紛れもなく上級貴族である侯爵。”僕たちの回”でアインスさんと最後を競った相手だ。その強さはよく知っている。茜さんは過去の俺'sヒストリーでも殺生を極力してませんが、世振は残らず殺している。彼と出会ったら田辺慎太郎は必ず死にます。田辺に加担をするのならどうしてこの組分けにするのか。あまりにも筋が通らない。だからこそアインスさんの行動には疑問を抱かざるを得ないんです。」
「フッ、桃矢よ、そんな事で疑念を持ったのか。」
「……?ミリアルドさんは知っているんですか?アインスさんの意図を?」
「釣りだよ。」
「釣り?」
「見ていればわかるさ。戦いも終盤に差し掛かっているだろう。ここからが見ものだぞ。」
ーーそう言ってミリアルドは再び本へと目を落とした。
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