第480話 芹澤楓 VS 霧島茜 2

【 楓・みく 組 2日目 PM 9:51 市街地D地区 】




”トキオクリ”…?聞いた事が無いスキルだ。恐らくは時空系だろう。どんな能力かはわからないが語感から考えれば時間を進めるようなスキルなのだろうか。



「…考えたってしょうがないわよね。強力な能力である事は間違いない。それならゴチャゴチャ考える前に捩じ伏せるわッ!!」



ーー楓の言葉に呼応するようにグローリエ2機が霧島茜へと向かって行く。2機とも形状を剣のように変化させている。残った2機はそれぞれシールドを展開させる盾型と、いつでも粒子砲を放てるように基本のテトラポット型で楓の周りを旋回している。


ーー2機のグローリエと霧島茜が激しい切り返しを繰り広げる。霧島茜の四方八方から変幻自在に斬撃を繰り出すグローリエ。グローリエの鋭さは一太刀で命を狩り取れる程のもの。だがそれを霧島茜は特に焦る事もなく涼しい顔で捌いている。スキルを一つしか使っていなくてもまだ依然として余裕のある霧島茜、しかし楓はそのナメきった戦闘スタイルに勝機を見出す。



この霧島茜といい、夜ノ森葵といい、白河桃矢といい、リッターの連中はみんな私をナメている。自分は絶対に負ける訳ない、ダメージすら与える事など出来ない、そう思っている。

だがその気持ちは分からなくもない。

過去の俺'sヒストリーにおいて相応の戦績をあげてきた彼女たちが、こんなゼーゲンを完全解放すらしていない私に負けるなんて思うはずがない。逆の立場でもきっとそう思うだろう。


だけど、



「その慢心が仇になるのよ。」



ーー楓の言葉に呼応するように待機していた狙撃用グローリエから粒子砲が放たれる。霧島茜はそれに気付いていない。完全に意識外からの一撃が霧島茜の背を取ろうとしている。


ーー楓は射撃用グローリエの一撃が通る事を確信する。それはブルドガングも同じ。粒子砲一発で沈黙するとは当然思っていない。しかしそのダメージは決して軽いものではないだろう。その隙を突き、ブルドガングが最大奥義である『ブリッツ・デア・シュナイデアングリフ』を霧島茜に叩き込めば、この戦いは終結するだろう。グローリエの粒子砲によるダメージと合わされば『ゼレ』を使用する必要もない。2人はそう思っていた。


ーーブルドガングが連撃に備え、身体に雷のエフェクトをより強く纏い出す。それに伴い上空に黒い雲が現れ空を覆い出す。



『……ちょっと卑怯だとは思うけどタロウたちの命もかかってんだから恨まないでよね。』



ーー仕掛けの整ったブルドガングが地を蹴り霧島茜へと向かって行く。そして粒子砲も霧島茜をほぼ捉える距離へと到達する。


ーー霧島茜は背後に迫る粒子砲とブルドガングの気配に気付く。だがもう遅い。とてもじゃないが剣型グローリエを相手にしながら躱せる訳がない。躱したとしても剣型グローリエに斬られるだけ。ダメージは避けられない。どちらの道を取ってもブルドガングは必ず霧島茜に『ブリッツ・デア・シュナイデアングリフ』を叩き込む。そう思っていた。


ーーブルドガングが奥義発動の構えを取ろうとした時だった。想定外の出来事が起こる。突如として霧島茜と剣型グローリエ1機の立ち位置が入れ替わってしまったのだ。


ーー楓もブルドガングも訳がわからないという表情になるが粒子砲は止まらない。そのまま剣型グローリエ1機へと直撃し、土埃が周囲に立ち込める。


ーーそれをブルドガングは見逃さなかった。予定とは違ってしまったし、結果として誤射として終わってしまったが土埃により視界は見えない。完全に気配を消して雷の如く霧島茜を斬ればいい。ブルドガングは瞬時にそう切り替えた。


ーーそして行動に起こそうとした次の瞬間、また想定外の事態が起こる。目に見えない突きの連撃がブルドガングを襲う。



『ガアッ…!?』



ーーその突きのあまりの威力によりブルドガングはその場から吹き飛ばされ、楓の近く付近まで押し戻される。



「ブルドガング…!?」



ーー楓は自身に付き従っていた盾型グローリエをテトラポット型に戻しブルドガングの治療にあたる。傷の具合を確認するが貫通こそしていないが出血するほどの穴が胴体に空いている。その数は6ヶ所。



「何よこれ…あの女が打ち込んできたっていうの…?あの土埃の中をこんな正確に…?それに私たちより遥かに頑丈なブルドガングに対してこれだけのダメージを与えるだけのタメを出す時間もあったって事…?」



ーー腑に落ちない点が多いが、楓はそれよりもブルドガングの治療に全力をあげる。その中でブルドガングは口を開く。



『…カエデ、違うわ。』


「何が違うの?」


『コレはあの女から打ち込んできたものじゃない。あの女から剣は放たれていないのよ。』


「どういう事よそれ…?」


『この6連撃の突き技は急に現れた。どこからともなく急に。そうでなければこのアタシに見えない突きなんか出せっこない。』


「確かにそれは私も思った。後ろから見てたけどあのレイピアから何かを繰り出された跡は無い。見えない程の突きを繰り出すなんて不可能よ。」


『それにグローリエとあの女の立ち位置が急に入れ替わったのも変よ。動きの中で入れ替わったんじゃない。瞬間移動したみたいに入れ替わったんだから。』


「考えられる事とすれば一つしかない。それがあの女の発動させたトキオクリってやつなんだわ。」


『ええ。タネがわからないと相当厄介よ。今のとこ対応策がアタシには閃かない。』


「残念だけどそれは私も同じ。でも、必ず見つけるわ。それが私の役割だもの。だから…ブルドガング、お願いね。」


『オッケー。時間稼いで技を引き出すのがアタシの役割だもんね。』



ーー楓とブルドガングが互いの拳をコツンと合わせる。


ーーそして土埃も落ち着き、視界がクリアになった先から余裕の笑みを浮かべ、霧島茜が姿を見せる。2機のグローリエも楓の元へと戻り仕切り直しだ。



「作戦は決まった?それじゃあ続き始めようか!!」

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