第340話 本当に甘い男

【 1日目 PM 11:00 廊下 残り 14人 】



佐々木若菜と岸井彩名の両名と同盟を結んだ俺は、みくの元へ帰る前にもう一つの仕事をする為別の部屋の前にいる。



ーーコンコン



俺は部屋のドアを叩く。少しの間の後に中から声が返ってくる。



『…誰?』


「田辺です。話があります。開けてもらえませんか?」



中から返事は返ってこない。考えているのだろう。そのままシカトするなんて事はありえない。俺が訪ねて来るって事がどういう事なのかこの女ならわかるだろう。



ーーガチャ



ドアの鍵が解錠され、ドアが開く。そして中から立原恵が出て来る。



「…入りなよ。」


「失礼します。」



立原に促されるまま俺は室内に入る。佐々木さんの時と同じだ。部屋が半分欠けている。パートナーが隠れているのだろう。



「こんなイケメンのお兄さんが私に何の用?ワンナイトラブでもしたいの?」



そう言いながら立原は俺へボディータッチをしてくる。ふん、ナメるなよ。以前の俺ならそれで騙されたかもしれないが、美女軍団に囲まれてる俺にそんな誘惑は効かない。



「あなたが誰とパートナーか、についてですよ。」



俺は立原の手を引き剥がし冷たい目で言い切る。俺の言葉を聞き、立原の顔は少し強張っているように見える。



「…へぇ。なら当ててみれば?」



立原は語気を強めてそう言った。余裕が無いのは明らかだ。



「立原さん。あなたは割と上手く立ち回っていたと思う。嘉門を操り、2組を葬った手腕は見事だ。」


「そりゃどうも。」


「でも甘いな。」


「はぁ?」



立原は俺の言葉に苛立った感情をぶつけてくる。



「爪が甘い。いや、あなたは本当は随分と小心者なんでしょう。だから心の不安が行動に現れてしまう。」


「アンタ何言ってんの?意味わかんないんだけど。」


「朝食の時にはあなたは周りをあまり見ていなかった。嘉門とでさえ目線を合わせたりもしない。完璧な振る舞いだった。だが夕食の時は違う。特定の人と目を合わせてましたよ。その時に俺は気付きました。あ、この人は完璧な振る舞いをしていたんじゃない、朝食の時には”いない”から何も気にしていないだけなんだ、ってね。」



ーー室内の空気が変わる。



「自己紹介してないから名前はわからないが、朝食の時にいなかった赤卓のメンバー2人の内、男の方。その人があなたのパートナーですよね?」



立原が俺の目をジッと見る。決して目を逸らさない。それが数十秒続くと痺れを切らしたのか、口を開く。



「そう思うんなら密告すればいいんじゃない?でも一言言っておく。密告したらあなたは死ぬわよ?」



ーー立原恵が自信たっぷりの目で慎太郎にそう言い切る。

だが慎太郎にハッタリは通用しない。



「わかりました。じゃあ密告して来ます。失礼します。」



ーー慎太郎が振り返り、ドアまで足を進めようとした時、



「…待ちなさいよ。」



ーー立原恵の声で慎太郎は足を止める。



「何ですか?」


「…密告するのやめてよ。お願い。何でもするから。」


「彼氏がいる前でそんな事を言っていいんですか?」


「彼氏?違うわよ。アレは弟。恵一、出て来なさい。」



立原が促すと部屋の欠けている半分が姿を現わす。そして、立原恵のパートナーである男も姿を見せる。



「姉ちゃん!!そんな奴に何かさせる気かよ!!」



恵一と言われる男が俺に親の仇かのような目を向ける。さっきの佐々木若菜と岸井彩名の時もそうだけどさ…辛いんだけど。俺ってそんな畜生野郎に見えんのかな。最高にショックなんだけど。そう考えると美波もみくも怖かっただろうな。俺みたいな極悪非道な畜生野郎の見た目の奴の家に連れ込まれてんだぜ?生きた気しないよな。うわー、マジでショックなんだけど。俺ってそんな奴に見えるのかー。



ーーとまあ、慎太郎がいつものネガティヴモードに入る中、話は進んで行く。



「仕方がないでしょ。バレちゃったんだし。」


「仕方がないなんて事あるかよ!!ソイツ、姉ちゃんの事ヤルだけヤって密告するかもしれねぇじゃねぇか!!わざわざ部屋まで来てるのがクズ丸出しだろ!!弱み握って陵辱しようって魂胆見え見えなんだよクズ野郎!!」



ーー立原弟の言葉が慎太郎に大ダメージを与える。平静を装ってはいるが、慎太郎の心は泣いていた。



「恵一、やめな。田辺さん、ごめんなさい。気を悪くしないで下さい。」


「謝るんじゃねぇよ!!姉ちゃんにそんな事させるぐらいなら俺は死んでいい!!」


「…恵一。」



……何コレ。完全に悪役やん。俺の居場所無いんだけど。澤野ポジションやん。もう帰りたい。



「…あのさ、何か勘違いしてない?俺は立原さんをどうこうしようって思って来たわけじゃないんだけど。」


「えっ?」

「え?」



ーー立原姉弟が驚いた表情で慎太郎を見る。



「私を好きなだけ犯しに来たんじゃないの?」


「全然そんな事思ってないから。」



ーー立原恵が恐る恐る尋ねるが、慎太郎は乾いた目で淡々と答える。



「じゃあ何しに来たの…?」


「同盟を結びに来たんですよ。」



ーー慎太郎が少し不貞腐れながら話す。ま、当然っちゃ当然だ。



「同盟…?」


「悪い話じゃないはずだ。いや、あなたたちにはそれしか選択肢は無いでしょう。」


「…まあね。ここで断ればあなたに密告されて終わりだし。それに断る理由も無いわ。」


「なら決まりですね。」


「でも私たちと田辺さんのクランで組んでも2票よ?そこまでメリットも無いんじゃない?」


「俺たちには他に1組、同盟を結んでいるクランがいます。」



ーー慎太郎の言葉に室内の空気が変わる。立原恵もそれを理解した。



「なるほど。それならほぼほぼ明日の投票に勝てるってわけね。」


「確実に勝てますよ。」


「なぜ?」


「明日の投票までに俺が1組堕とします。そうすれば3票入る。それなら負けは無い。決選投票が何回まで続くかはわからないが、負けは絶対無くなる。仮に引き分けになって、投票は次の日に持ち越しになればそれまでにまた俺が1組堕とします。これで俺たちの勝利は確定だ。」


「凄い自信ね。ま、いいわ。一つ聞いていい?どうして私を誘ったの?」


「密告するより俺の駒にした方が得だからです。それ以外に理由はありません。」


「顔に似合わずなかなか悪い男なのね。」


「悪いが俺はあなたを信用してはいない。同盟を簡単に切り捨てる人間を信じる事は出来ない。あくまでも俺の駒だ。俺は俺のクランが無事ならそれでいいからな。でもその過程としてあなたたちを勝たせてやる。」


「フフ、それでいいわよ。生き残れるならなんだってね。」


「誰に投票するかはまた明日連絡します。それじゃ。」



ーーそう言い残し、慎太郎は部屋を後にする。でも慎太郎は自分に自己嫌悪していた。ナメられないように厳しい口調で臨んでいた慎太郎。しかし慎太郎は女に甘い。平気で裏切りをするような立原恵に対してでもあんな物言いをした事に凄く罪悪感を感じている。本当に甘い男だ。



「はぁ…みくのトコに戻ろう。」


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