第298話 第二次入替戦 楓・牡丹 side 1

視界が揺らぎ捻じ曲がった先にあったのは以前に見た光景だ。直線に並ぶ七つの椅子。闘技場の様な場所。入替戦だ。またアレが始まるわけね。いいわ、やってやるわよ。誰であろうと捩じ伏せてやるわ。


「おー!牡丹チャンに楓チャン、久しぶりー!」


私が気合を入れていると牡丹ちゃんの隣から声がする。綿谷みくだ。彼女が私たちに声をかけて来た。実はみくちゃんとはかなり仲良くなった。住んでいる所が離れているからプライベートで会ったりはしていないけどラインは毎日している程の仲だ。はっきり言って親友と言っても過言じゃないわよね。ウフフ、また親友が増えたわね。


「お久しぶりです、みくちゃん。お元気そうでなによりです。」


牡丹ちゃんがえらく上機嫌でみくちゃんと言葉を交わす。

…この子、帰って来た時からやたらと機嫌良かったわよね。絶対タロウさんと何かあったわね。昨日は私とあんなにイチャイチャしてたくせに次の日には他の女とイチャイチャするなんて。あの浮気者め。


「お久しぶり、みくちゃん。またみんなで会えたわね。」


「あははっ、そうだね!ウチだけ2人と離れてるから一緒に遊べないのは残念だけどねー。また入替戦かな?」


「恐らくそうかと思います。前回と全く同じ配置ですのでそれが濃厚かと。」


「うわぁ…これが一番イヤかな…負けたら奴隷になるわけだもんね…」


確かに。前回と同じルールならゼーゲンの加護は無く敗北イコール奴隷の図式が成立する。死ぬのも怖いが奴隷になるのも怖い。彼以外の男にこの身体を好きにされるなんて絶対にされたくない。負けない。私は負けない。絶対に負けない。


「そうですね。前回と同じ規則なのはほぼ間違い無いかと思います。彼方の方々の隣に支配下プレイヤーと思わしき方がいますので。」


牡丹ちゃんがそう言うので視線の先を見ると、橘と坂本の隣に男が立っている。男たちの目に生気は無い。典型的な奴隷といった具合だ。


「…アレって…奴隷…?」


「そうでしょうね。私たち”闘神”側にも奴隷持ちがいるのは当然だもの。寧ろ7人いて2人しか持っていないのが驚きよ。特にあの三間坂って男。」


「確かにそうですね。あのような猟奇的な男が支配下プレイヤーを未所持なのは意外でした。」


「ちゃうちゃう。奴隷は持ってるはずや。ウチの予想では奴隷を拷問とかして殺しちゃったんだと思う。あの変態はそういう事に快感や快楽を見出すタイプやと思うもん。」


憎しみたっぷりと言った具合に強い口調でみくちゃんは話す。でもみくちゃんが言うならそうかもしれないわね。この子はやたらと人を見る目がある。


「おや?僕の話をしているのですか?」


私たちが話をしている中に一番左端に座している三間坂が口を挟んでくる。


「はぁ?アンタには関係ないんですけどー?」


「ははっ、みくちゃんは素直じゃありませんね。それに口も悪い。躾が必要です。」


「みくって呼ぶな!!それにアンタに躾けてもらう必要なんかないし!!」


三間坂の物言いにみくちゃんが激怒する。それは当然よね。私が言われたら気持ち悪くて吐き気がしてくるわ。


「ウフフ、モテモテね、みくちゃん。」


「うわぁん!楓チャン!意地悪しないでよ!!」


「みくちゃん。本気で相手にするから腹が立つのだと思います。何を言われても相手にしない、それが一番かと思います。」


牡丹ちゃんが表情一つ変えることなくみくちゃんにアドバイスをおくる。というよりも牡丹ちゃんはタロウさん以外眼中にないからシャットアウトしてるだけじゃないかしら。


「そうだね。うん。ウチはあんな変態相手にしない事にする!」


「おやおや、悲しいですね。でも近いうちにキミの目を僕だけに向けるようにしてあげますよ、みくちゃん。」


三間坂は此の期に及んでもまだみくちゃんに絡んでくる。


「ううっ…きも…ほんまに変態なんとちゃうん…」


確かにアレは少し異常ね。相手にしないのが一番。


「みくちゃん、気にするのはやめなさい。相手にしない。」


「う、うん…!」



ーー楓たちが話していると何処からともなくツヴァイが現れる。



『御待たせ致しましタ。察しはついているかと思いますがこれより入替戦を行いまス。』


やはり入替戦で間違い無いようね。そうすると挑戦者側にタロウさんがいる事になる。そして何より忘れてはいけないのは澤野よ。あの男の力は正直わからない。以前と比べてはいけないわ。三國と行動を共にするぐらいなんだから実力はあるはず。私か牡丹ちゃんに絡んでくるなら全力で戦わないといけない。気を引き締めましょう。


「ねーねー、いつもの事だけど何か後出しで何かあったりするん?」


ツヴァイが話す前にみくちゃんが先手を打つ。この連中は後出しでホイホイとルールを付け加えたり変更したりするから始末に悪い。本当クソゲーよね。


『カカカカカ、流石はワタヤサマ、鋭いですネ。今回も変更点が御座いまス。”闘神”の方々は支配下プレイヤーを先に戦わせる事が出来ると前回申しましたガ、アレは廃止となりましタ。』


「あ?おいおい、そりゃねぇだろ!」


”闘神”の1人である坂本が声を荒げる。坂本の立場になれば当然だ。せっかくの”闘神”有利な状況が挑戦者側と対等になれば面白くは無い。私たちは奴隷がいないから何もデメリットはないから怒りも込み上げないが坂本と橘は心中穏やかでは無いだろう。


「これじゃ俺たちにメリットなんか何もねぇじゃねぇか。」


『サカモトサマ、話は最後まで聞かれた方が宜しいですヨ。』


「あ?」


『廃止にしたのには理由がありまス。支配下プレイヤーまでも戦いに参加させるとなると入替戦にかかる時間が莫大になりまス。それは正直面倒と言わざるを得なイ。ですのデ、代替え案と致しましテ、支配下プレイヤーは”闘神”の方々の身代りとさせて頂きマス。』


「身代り?どういう事だ?」


もう1人の奴隷持ちである橘が口を開く。


『貴方方が負けた場合に支配下プレイヤーとして勝者に囚われるのは御持ちの支配下プレイヤーが肩代わりしてくれるという事デス。まァ、従来通りの役割という事デス。ですガ、”闘神”の位からは陥落して頂きマス。ゼーゲンも一段階下げさせて頂きマス。』


「ならば特に問題は無い。何にしろ俺は負けん。今回も勝手に俺の支配下プレイヤーがここへ呼ばれただけの事。攻め入る者は俺が倒す。唯それだけだ。」


『御納得頂けたようで何よりデス。サカモトサマも宜しいデショウカ?』


「その方がリスク少ねぇからいいけどよ。」


『ありがとう御座いマス。それともう一点変更が御座いマス。支配下プレイヤーを個人ではなくクラン預かりとする事も可能となりマシタ。』


「どういう事?」


みくちゃんがツヴァイにすぐに質問をする。奴隷を持たない私には全く関係の無い話だ。そういえば酔いが完全に醒めている。今日は調子に乗って少し多めに飲んでしまった(ワイン3本)ものね。ここに来ると状態異常もリセットされるのかしら?これから戦うのにアルコールがあったら困るものね。これが終わったらワインの瓶を隠しておかないと。また怒られちゃうと今度こそ禁酒にされちゃうわ。


『クラン預かりの支配下プレイヤーは色々と縛りが無くなりマス。命を失うような命令を出されても聞かなくて良イ、同意が無ければ性行為を行わなくても良イ、人としての尊厳を保護されル。このような制約が科せられる事にナリマス。』


「あ?オイ、そんなの主人プレイヤーに何のメリットがあんだよ?」


ーー坂本が不快感を露わにしている。確かに運営サイドのこの変更は主人プレイヤー側から見たら改悪と言わざるを得ないだろう。


『カカカカカ、御座いマスヨ?メリットはネ。考えて見て下さイ。支配下プレイヤーとしての働きが良いモノに褒美としてその位を与えるのデス。そうすれば支配下プレイヤーは頑張りマスヨ。支配下プレイヤー…簡単に言えば奴隷デス。そんな待遇から殆ど制約の無いクラン預かりとすればどうなりマス?天国デス。地獄から天国へと上がる事が出来ル。そうやって支配下プレイヤーを奮い立たせればメリットしかありまセンヨ。』


ま、そうね。奴隷側の立場からすればそうなる。飴が無いと人は頑張らないものね。ツヴァイの言っている事は最もだ。私には関係無いけど。


「ふーん、ま、どうでもいいか。考えるのも面倒臭ぇ。」


『カカカカカ、どうぞ御活用下さイ。但シ、クラン預かりは3名までとなりますので御注意下さいマセ。』



ーーだがプレイヤー側は知らない。これは運営サイドの総意で決まったわけではない。ツヴァイの独断によって半ば強制的に決定された。慎太郎たちのクランの為に。慎太郎たちは絶対に奴隷は持たない。だが今後、慎太郎たち5名だけでは苦しくなる事が必ず出てくる。その為の措置を取っておいたのだ。

全ては慎太郎の為。ツヴァイの行動理念はそこにある。



『それでは始めましょうカ。挑戦者たちの入場デス。』

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