第160話 正妻力を上げますっ!
【 美波・慎太郎 組 1日目 AM 9:25 】
葉を切り移動する音が聞こえる。その音が近くなると人の息遣いも耳にはっきりと聞こえ、その存在を認識する。
少しの間の後にその音の主たちが私たちの前に姿を現わす。
「はあっ…はあっ…おっ!!おいおい!!やっぱり女だ!!それに見ろよ!!スゲー上玉じゃねぇか!!」
「おっほっほー!!こりゃあ来てそうそう当たり引いちまったんじゃね!?」
男たちが私を見て歓声をあげる。本当に気持ち悪い。どうして男の人ってそういう事しか考えないんだろう。
「両方とも女だったら良かったのにな、片方は男だもんな。」
「まあまあ、2人で順番に楽しめばいいじゃねぇか。」
「ん?ま、それもそうだな。ヒヒヒ。」
男たちが下衆な会話を繰り広げている。本当に最低ね。こういう人間は生きてる価値なんて無い。あれ…?でも、片方は男だもんな、って言ったよね?ノートゥングの事にはなんで触れないんだろう?
「もしかしてノートゥングって見えてない…?」
『スキルを使用している訳ではないから妾の事は見えん。攻撃を加える事もできぬ。』
あ、やっぱりそうなんだ。
「じゃあ何で俺とかには見えんの?」
『知らぬ。』
「何だ、わかんねーのか。ーー痛い!?」
またタロウさんは小馬鹿にしたような口調で言うからノートゥングに頭を叩かれる。
『ま、あんなのは雑魚に過ぎん。』
「わかるの?」
『当然であろう。使用者自体が弱くてスキルが強い例もあるかもしれんが、アルティメット所持者には独特の雰囲気がある。奴等にはそれが無い。SS以下なのは言うまでも無いな。』
決して侮ってはいけないがそれならばこの緒戦の相手は心配いらないだろう。
『ちょうどいい。誑し、貴様はそこで見ておれ。妾は今からミナミに稽古をつけてやる。』
「稽古?稽古って?」
『妾たちが完全な”具現”をする為にはミナミの能力向上が必要だ。それならば鍛えてやるしかあるまい。スキル無しで此奴等を倒す。このレベルの相手ならうってつけだ。』
「だ、大丈夫かなっ…?」
『安心しろ。妾は剣王だ。』
「いや、それ理由にならねーし。ーーって痛い!?あのさ!?マジでやめてくれます!?痛いんですけど!?」
『貴様は黙って周囲の警戒でもしていろ。』
…またイチャイチャしてる。なんだかなぁ。思ってたのと違うなぁ。タロウさんとラブラブできると思ってたのに…
…いや、待ちなさい美波。ここで私が強くなったらタロウさんの見る目も変わるんじゃないかしら…?きっとこんな感じにーー
ーー
ーー
【 美波's妄想ストーリー 】
『美波アルティメットスラーッシュ!!!』
『ぐはぁー!!!』
ーー美波の一撃により敵が蹴散らされる。
『ふっ、相手が悪かったようね。』
『凄いじゃないか美波!!』
ーー後ろに隠れていた慎太郎が美波に近づいて来る。
『ふふっ、この程度の相手なんて私の敵じゃありませんっ!』
『流石は俺の正妻。楓さんや牡丹よりも強いなんてやはり正ヒロインパワーは半端ないな。』
『もうっ、そんなに褒めても何も出ませんよ?』
『いつもは守ってもらってばっかだけど…ベッドの上でお礼はするからな…?今日は寝かさないぜ?』
ーー
ーー
ーーなるんじゃないかなっ!?
イイ!!イイよっ!!
やるわっ!!私のレベルアップの時が来たのよっ!!
「よしっ!!やるわよノートゥング!!正妻力を上げるわっ!!」
「制裁力?何だか物騒なネーミングだな…」
『何だかわからんがやる気があるのは良い事だ。』
ーーやる気満々の美波が男たちの前へと出る。
勢い込んで出て来たのはいいけどちゃんと勝てるかな…?返り討ちにあったらどうしよう…
ーー美波が不安に思うのも無理はない。
美波が今まで1人でプレイヤーを倒した事はまだない。夜ノ森葵との共闘やノートゥングによる撃破により勝利を収めてきたに過ぎない。にも関わらず、スキルを使用しないで男2人を倒さないといけないのだ。これはなかなかに厳しい事である。
「おー?なんだ、なんだ?女1人で来たぜ?」
「ヒヒヒ、イイ事してくれに来たんじゃねぇか?」
ーーだが男たちの態度により美波の心に火がつく。
「黙りなさい!あなたたちのような人間はこの世界にいらないわ!私が天誅を下します!!」
ーー美波は男たちに向けて指を指してビシッと言い放つ。
「いらないってよ?そりゃ悲しいわー。」
「顔に似合わず生意気な女だなー。少し懲らしめちゃおうぜ!」
此の期に及んでもまだ女を馬鹿にしているのね。いいわ、私が成敗してあげる。女の力を見せてあげるわよ。
『さて、始めるか。ミナミ、とりあえず妾はお前の防御については面倒を見てやる。攻撃は好きにやれ。』
「ええっ!?好きにやれって…そんな…!?」
『別に突き放しているわけでは無い。攻撃に関しては感覚で覚えるしか無いのだ。剣術の修行をするわけでは無いからな。防御は妾の言う通りに動け。右と言ったら右に一歩移動し、後ろと言ったら後ろに一歩動く、飛べと言ったら飛んで、しゃがめと言ったらしゃがめ。良いな?』
「そ、それで本当に大丈夫なの…?」
『妾が信じられぬか?』
ノートゥングが私を見つめて言ってくる。信じられぬか、か。あのノートゥングがそんな事を言うなんてね。信じられないわけないでしょ。大切な親友なんだから。
「ううん、ノートゥングの事は信じられるよ。親友だもの。じゃあ任せたわよ。」
『フッ。あぁ、それと剣を使おうとするのはやめろ。』
「え…?ゼーゲンを使うなって事…?」
『そうでは無い。剣だと思って使うのをやめろと言っておるのだ。ミナミは素人だ、そのような者が一朝一夕で扱えるようになるわけがない。』
「じゃ、じゃあどうすればいいの?」
『お前がいつもやっておる『てにす』とやらの『らけっと』を振るようにやってみろ。』
「ラケットって…ボールを打つ時みたいにって事…?」
『左様。彼奴等を『ぼおる』だと思ってゼーゲンで当てろ。斬るのではなく当てるのだ。その感覚でやれば随分マシになるだろう。』
なるほど、確かにそれなら私でも剣を扱えるかも知れない。ノートゥングはやっぱりすごい。私の長所から勝ち筋をちゃんと見出せるんだ。
「ありがとうノートゥング。やれそうな気がしてきたっ!」
『フフフ、それならば良い。さぁて、ミナミの踏み台になってもらうぞクズ共が。』
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