第58話 尊い
「楓さん、本当にありがとうございました。楓さんが力を貸してくれなかったらこんなにスムーズには行かなかった。」
「ウフフ、そんな事はありませんよ。タロウさんならきっと何とかしましたよ。そもそも私があなたの頼みを聞かないわけがありません。」
そんな可愛い事言われるとドキドキするな。ていうか俺に惚れてんじゃね?みたいな勘違いだって起こしてしまう。でも俺はそんなチョロ僧じゃない。勘違いなんてしないんだからねっ!?
「じゃあとりあえずは俺の家に行きましょうか。」
「…美波さん。」
「どうしたのアリスちゃん?そんな小声で。」
「…あの、やっぱりご奉仕した方がいいんでしょうか?」
「…ご奉仕って…まさかアリスちゃんの伯母さんが言ってたやつの事!?だ、だ、だ、ダメだよっ!?」
「…でも…私ができる事なんてそれぐらいしか…」
「…アリスちゃん。そういうことはね、大きくなって、大好きな人ができた時にしなくちゃいけないんだよ。だからそんな事しないでいいの。」
「…そうですね。大きくなったらご奉仕すればいいですよね!」
「…うん?」
後ろで美波とアリスが内緒話をしている。まさか俺の事言ってるんじゃないだろうな。気になるな。俺の加齢臭はキツくないかとか聞いてたらどうしよう。いやいや。まだ加齢臭なんて出てないから。
「あの、芹澤先生。本当にありがとうございました。」
「楓でいいわよ。もう私たちは友達であり仲間じゃない。私もアリスちゃんともっと仲良くなりたいな。」
「私もせり…楓さんともっと仲良くなりたいです!これからよろしくお願いします!」
「ウフフ、よろしくねアリスちゃん。」
尊い…美女と美少女がああいう会話してるのマジ尊いわー。写真に撮ったら怒られるかな。いや、ドン引きされて楓さんに訴えられるかもな。でも楓さんに尋問されたら俺の中のナニカが目覚めそうだな。
…よし、帰るか。
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俺のマンションに着いたのは夕方だった。アリスも茨城に住んでいたが、県南の筑波山市に住んでいたので戻るのに結構時間がかかった。
「さて、到着と。荷物を置いたら買い出しに行きましょうか。楓さんの初茨城記念とアリスの歓迎会しないといけないし。」
「ふふっ、そうですねっ!」
「何だか楽しみです。ありがとうございます!」
俺たちは車から荷物を降ろしながらマンションのエレベーターへと向かう。
「…随分といいマンションに住んでるんですね。家賃高いんじゃないですか?」
「家賃は払ってません。買ったんです。」
「え?買ったんですか?」
エレベーターに乗り部屋のある最上階のボタンを押す。
「そうですね。家賃払うの勿体無いんで。」
「しかも最上階って…失礼ですけどよく銀行から融資が下りましたね。」
「あ、ローンじゃないです。この国では家庭教師じゃローンは組めないしカードも作れないです。だから現金で買いました。ここが俺の部屋です。どうぞ入って下さい。」
「え!?現金で買ったんですか!?あ、お邪魔します。」
「どうぞ。さて、今日からここがアリスの家だな。」
「すごく嬉しいです。こんなに幸せでいいんでしょうか…」
「いいに決まってるよ。アリスは今まで苦しい事を耐えてきたんだからその分これから幸せになろう。」
「はい!よろしくお願いします!」
「ふふっ、今日からここが私たちのお家だねっ!仲良くしようねアリスちゃん!」
「はい!よろしくお願いします!」
もう完全に美波の家と化してるよな。もう美波のアパート引き払わせるか。家賃勿体無いだろ。
「あの…タロウさん。今日の件の1000万円もそうですが、そんなに収入があるのですか?私と変わらないぐらいの年齢でそれだけの資産なんて普通は持ってない筈です。」
楓さんがすごい不思議そうな顔で聞いてくる。
「情けない話ですが、俺って彼女もいないから時間ばっかり余ってたんです。だから若い時から仕事ばっかり入れてて結構お金は貯まったんですよ。それでこのマンション買ったんです。まぁ…さっきのでほとんど貯金無くなっちゃいましたけどね。」
「…すみません。そんな大事なお金を使ってしまって…」
しまった。失言だった。アリスが俯いてしまった。
「違う違う!俺が好きでやったんだよ。お金はまた明日から頑張って稼ぐさ。ちゃんとアリスの大学卒業するまでの費用は工面するから気にしないでいいんだよ。」
「私は中学卒業したら働きます。そこまでご迷惑かけられません。」
「…アリス、俺はさ、アリスに人並みの生活をしてもらいたいんだよ。迷惑だなんて思うわけない。そんな半端な覚悟じゃないよ。もっと甘えてくれ。俺の事が嫌いじゃなかったら頼って甘えて欲しい。」
「…そういう言い方はズルいです。」
「それは仕方ないな。俺はアリスに幸せになってもらえる為ならいくらでもズルをしよう。」
「…わかりました。全力で甘えます!」
「おう!ドンと来い!」
いい感じの雰囲気になったな。良かった良かった。
「…よし、タロウさんは今まで彼女はいないみたいだ。やった!」
あそこで1人でブツブツ言ってるのはスルーしとこう。アリスにも言っておかないとな。
「若い時…?一体タロウさんはいくつから働いていたんですか…?」
「あ、さっき楓さん、『私と変わらないぐらいの年齢』って言いましたけど俺は34ですよ。」
「「は!?」」
楓さんとアリスが同時にすごい反応を示した。
「さ、34!?34歳なんですか!?ぜ、全然見えません!!私と同じか下かと思ってました!!」
こんなに動揺してる楓さんを見るのは新鮮で可愛いんだけど、下ってどういう事だ。
『この人、ダメダメで頼りないから絶対私より年下だな』
的な感じか?ちくしょう…俺だってやる時はやるんた…まだ本気出してないだけなんだ…
「あ、だから初めて会った時、お父さんが来てくれたって勘違いしちゃったんだ。」
ぐはっ…!!お父さんって…!!何でそう思ったんだ…加齢臭臭いのか…独身なんだぞ…それどころか魔法使い…いや、暗黒魔道士なんだぞ…もう俺のライフはゼロになっちゃう…
「やっぱりその反応が普通ですよね…34歳っていうのを信じろっていうのが無理ですよ。」
「でもそれなら納得しました。歳なんて何も問題じゃありませんよ。」
「そうです。タロウさんの魅力は歳じゃありませんから。」
「…なんか複雑な気分だけどまぁいいか。さてと、アリスの部屋と楓さんが泊まる部屋はどうしようかな。」
「私はみんなで一緒に寝ればいいと思いますけど。」
「あ、それじゃあ女性陣はそうしましょーー」
「え?タロウさんは一緒に寝ないんですか?」
…何を言ってるんだこの人は。こんな美女集団とオッさんが一緒に寝てみろ。絵面が最悪どころか犯罪臭がする事になるだろ。そもそもオッさんが居たら嫌だろ。
「いや…俺は別の部屋かソファーで寝ますよ。」
「友達の家に泊まる時はみんなで一緒に寝るものではないのですか?」
「それは美波とアリスと一緒に寝ればいいじゃないですか。」
「じゃあタロウさんは友達じゃないのですか?」
「友達じゃないですか。大親友ですよ。」
ニマニマしてる楓さん可愛い。でも流石に一緒の部屋はダメだろ。
あ!あれか!楓さん的に気を遣ってくれてるのか。オッさんが1人で寝てたら寂しいだろうと!家主に申し訳ないから一応は誘おうってな感じか!
オーケーオーケー。つまり楓さんは俺が最終的に断るのを待ってるんだな。ならば簡単だ。
「楓さん、気を遣わなくていいんですよ。俺は1人で寝ても大丈夫ですから。」
「気…ですか…?遣ってませんよ?私は一緒の部屋でみんなと寝たいだけです。」
「え…?でも男が居たら嫌じゃないですか…?」
「タロウさんが嫌なわけないじゃないですか。」
あれー?おかしいな。なんだこの展開。
「あ、アリスは嫌だよな?男が一緒に寝るなんて。」
「…?タロウさんと一緒に寝る事の何が嫌なんですか?」
あっれー?俺がおかしいのか。寝るのが普通なのかな。
「じ、じゃあ一緒の部屋に寝ましょうか。俺は床で寝るんで3人はベッドで寝て下さい。無駄にクイーンサイズなので細い3人なら余裕でしょ。」
「え?一緒に寝るんですよね?川の字みたいに。」
「そうですよ。みんなで一緒です。」
…何を言ってんのこの子ら。そんなのダメに決まってんだろ。
「いや…それはダメですよ…俺は男なんですから女性とは寝られませんよ。」
「えっ?でも私とは寝ましたよね?」
「「は?」」
おい美波!!何言ってんの!?とんでもない爆弾落としてくれやがったな!!
「へぇ…2人はそういう関係だったんですね。」
うわ…楓さんの目にハイライトが無い。怒ってんのかな…?やっぱり男は獣って思ったんだよね。
「やっぱり神様なんていませんね。」
アリスの目にもハイライトが無い。こんな獣の家に引き取られて肉欲の限りを尽くされるとか思ってんだよね。
「あれ?一緒に寝たってっていうのは、1度だけ私の恐怖を取り除く為に添い寝をしただけですよ?」
「「……」」
「ウフフ、そんな事だと思ったわ。」
おぉ…!楓さんの目にハイライトさんが帰って来た。
「やっぱり神様はいるみたいです。」
アリスの目にもハイライトさんがお帰りになられた!
「じゃあ一緒に寝るのに何の抵抗もありませんね。みんなで一緒に寝ましょうね。」
「いいですねっ!何だか楽しみになってきた!」
「私もです!ワクワクします!」
もういいよ、わかったよ。俺はワクワクどころかゲンナリだよ。どこで処理すればいいんだよ。
「楓さんとアリスちゃんの荷物も置いた事ですし買い出しに行きましょうか。アリスちゃんの服やパジャマ、それに下着も買わないと。」
「そんな!大丈夫です!」
「ダメだよ!今着てるのしか無いなんて絶対ダメ!」
「美波さん…」
「服は今からじゃ難しいからパジャマと下着だけとりあえず買おっか!」
「じゃあそれは私からアリスちゃんにプレゼントするわね。服は明日になっちゃうけど我慢してね。」
「いいんですか?」
「もちろん。私とアリスちゃんは親友なんだから。」
「ありがとうございます!すごく嬉しいです!」
美女集団がキャピキャピしてるのはやっぱり尊いよね。これが見れるなら俺は我慢するよ。暗黒魔道士だからな!
「じゃあそろそろ行こうか。」
「「「はい!」」」
ーー買い出しに行って楓さんとアリスのパーティーをしている最中に俺たちを漆黒の闇が包んだ。
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