第48話 敵襲
「ごちそうさまでした。」
カツカレーはすごく美味しかった。カレー自体は普通だとは思うけど、タロウさんと美波さんと一緒に食べたごはんは久しぶりに心から美味しく感じた。誰かと一緒に食べるごはんなんて給食以外では本当に久しぶり。伯母や伯父とは一緒にごはんなんて食べられない。あの人たちが食べ残した物を私は食べるだけ。これがずっと続くと思っていたのにまさかこんな時が来るなんて思わなかった。
「さて、それじゃあ歯磨きしとこうか。」
「そうですねっ!」
歯磨き…?歯磨きってあの歯磨きの事かな?
そう考えているとタロウさんが私に歯ブラシセットとお水のペットボトルを手渡してくる。
「こんな物まであるんですか?」
「なぜか4セットも入ってたんだよ。水は気にしなくていいよ。飲料水とは別のお湯だからさ。」
受け取ると確かにペットボトルが温かい。
「頂いちゃっていいんですか?」
「もちろん。」
「ありがとうございます。嬉しいです!」
私が笑顔でタロウさんにそう言うとタロウさんも笑顔になる。
「じゃあみんなで外で歯磨きしようか。」
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歯磨きが終わって洞窟内に戻るとタロウさんがラウムから剣を取り出している。
「じゃあ美波、外行くね。」
「気をつけて下さいね。」
「ああ。」
タロウさんが洞窟の外へと向かうので私は咄嗟に呼び止めた。
「どこに行くんですか?」
「ん?見張りだよ?」
「見張りなら私がやります!タロウさんと美波さんは休んでて下さい!それぐらいなら私でも役に立てます!」
「アリス、気を遣う事なんてないんだよ。俺はアリスには気を遣われたくないな。」
「でも…甘えてばかりじゃ…」
「俺はアリスに頑張ってって言われればやる気出るんだけどなー。」
タロウさんは笑いながら私にそう言ってくる。私に気を遣わせない為にタロウさんはそう言ってるんだ。本当にこの人は優しい。それならば私はタロウさんに甘えよう。きっとそれがタロウさんが一番望んでいる答えだ。
「わかりました。タロウさん、頑張って下さい!」
「おう!じゃあ行ってきます。」
タロウさんが外へ出て行く。
「タロウさんっていつもあんな感じなんですか?」
「ふふっ!そうだねっ。すごく優しい人だよ。」
「優しすぎます。心がポカポカしてます。こんな気持ち久しぶりです。」
「そうだね、アリスちゃんの気持ちはすごくわかる。さて、じゃあ服を脱いで!」
「ええっ!?」
私の聞き間違いだろうか。服を脱いでって言われたような…
「お風呂は入れないけどタオルとお湯があるから身体は拭けるよ!アリスちゃんの背中拭いてあげるから早く脱いで。」
そういう事か。てっきり私は美波さんがそっちの趣味かと思ってしまった。ごめんなさい美波さん。
でも…脱ぐ事はしたくない…
「えっと…自分でできます…」
「遠慮しなくていいんだよ?」
タロウさんと同じように美波さんもすごく良い人だ。だから私の背中を流して親睦を図ろうとしているのだろう。でも私の身体を見たら嫌な気持ちになってしまう。そんな事を美波さんにさせたくない。適当に誤魔化そう。
「違うんです…そのーー」
でもここで嘘を吐くのも不誠実だと思い、出し掛けた言葉を止めた。こんなに良くしてもらっているのに嘘を吐くなんて最低だ。本当の事を言おう。でもタロウさんにだけは黙っていてもらいたい。
「…嫌な思いすると思いますけどすみません。」
私は意を決してブラウスのボタンを外す。そして下着だけの姿になった時に美波さんの顔が険しい顔になった。
「ちょっと…何その痣…!まさか、さっきの男たちにやられたの!?」
「…違います。これはーー」
ーー私は自分の経緯を美波さんに話した。売られる事だけは省いた。それだけは話せない。
その話を聞いて美波さんは涙を流してくれた。私の為に泣いてくれるなんて本当に優しい人だ。
「酷い…!人間のする事じゃない…!」
「美波さんはすごい優しい人です。私の為に怒ってくれて、泣いてくれて、すごく嬉しいです。でも…お願いがあるんです。」
「なに?何でも言って?私にできる事なら…ううん、できない事でもやってみせるからっ!」
「…タロウさんには言わないで欲しいんです。タロウさんは優しいからきっと心を痛めてしまいます。タロウさんにこれ以上心配はかけたくないんです。」
それにこんなに痣だらけで汚い身体をタロウさんに見られたくない。タロウさんには少しでも綺麗に見せたいという私の願望だ。
「…うん、わかった。タロウさんには言わない。」
「ありがとうございます。美波さんにも嫌な思いさせてすみません。」
「そんな事ないっ!そんな事ないよっ!」
「あ…」
そう言って美波さんは私を抱き締めてくれた。人の体温の温かさを私は暫くぶりに感じた。
ーーだが事態は唐突に動く
『美波!アリス!』
外からタロウさんが私たちを呼ぶ声がするので私たちは急いで外へと急行する。
「どうしましたか!?」
「敵襲だ。暗闇の中にエフェクトが輝いている。アリスを助けに行った辺りの場所だな。」
タロウさんが指を指す方を見ると銀色の光が1つ、赤色の光が6つ輝いている。ただ、見る限りでは一個師団として固まっているわけではない。銀色1つと赤色4つが赤色2つを囲んでいるように見える。
「あの5人がチームなんでしょうか?」
「動き方としては恐らくそうだと思う。2人のSレアプレイヤーがこっちに逃げて来ているからそろそろ見えるんじゃないかな。」
タロウさんの言う通りエフェクトがどんどん大きくなってきている。そして肉眼でプレイヤーの顔が確認できた。小林と佐々木だ。逃げているプレイヤーはあの2人だった。そして追っているプレイヤーは全員同じ西洋の鎧みたいな物を身に付けていている。
「タロウさん、あれって…」
「場所的にそうだと思ったよ。」
「あれがアリスちゃんを襲っていた奴らですね。それと…追っているのはゾルダートですね。以前のミニイベで戦ったゾルダートと違って1体はSSを使っている…」
「あの1体が指揮官ってところだろう。5体編成でプレイヤー狩りをしてるって感じかな。」
「そうですね。どうしますか?」
「やり過ごしたいのが本音だな。あ。」
小林と佐々木がゾルダートによって首を撥ね飛ばされるのが見えた。人が死ぬ光景を見るのは初めてなのですごく気分が悪くなる。そんな私を見て美波さんが優しく背中をさすってくれた。
「因果応報だな。同情の余地は無い。さて、これでどっか行ってくれるといいんだけどーー」
小林たちを葬ったゾルダートたちが一斉にくるりと踵を返しこちらを向く。そして洞窟に向かい歩き始める。
「…こっちに来てませんか?」
「…探知機標準装備っぽいな。仕方ない。迎え撃つか。」
タロウさんの身体が金色の光を放ち始めるーー
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