第38話 平穏な日常

ーー人の声がする


ーー心地良い声だ


ーー知ってる声


ーーあぁ、美波の声だ




「ーータロウさん!起きて下さいっ!」



毎度の事ながら美波に起こされる。何で俺はいつもイベントが終わると寝てるんだろう。


「おはよう美波…頭がぼーっとするな…」


いつも寝起きはぼーっとするけど今回はその比じゃない。頭が全く働かない。


「おはようございますっ!ぼーっとしててもおかしくありませんよ、私たちがトート・シュピールに挑んでから4日も経っていますから。」


「へー……って、4日!?」


流石に頭も働くようになるわ。4日って。オレヒスやってる時間とはリンクしてないのはわかってるけど日数もアバウトなのかよ。本当にちゃんと仕事行った事になってるんだろうな。


「はい、今は夜の9時過ぎです。私も今さっき目を覚ましてびっくりしました。」


「まぁ、オレヒスらしいっちゃらしいよね。何はともあれ…帰って来れたね。美波、お疲れ様。」


「お疲れ様ですっ。こうして私たちの家に帰って来られて私、本当に嬉しいですっ!」


さらっと私たちのって言ったよねこの子。ま、いいけどさ。それよりも…


グーっと言う音が部屋に鳴り響く


「…腹減ったな。」


「ふふっ!じゃあご飯作りますねっ!早くできて美味しい物か、うーん…たらこスパゲッティでもいいですか?」


「めっちゃ食べたいな。余計と腹減ってきた。」


「ふふっ。急いで作りますから待っていて下さいねっ!」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





美波のたらこスパゲッティを食べた後に風呂に入って後は寝るだけになった。風呂も気分的には久々だったから超スッキリした。風呂はいいな、最高の文化だ。


「お待たせしましたっ!」


美波が髪を乾かし終わって寝室へと入って来た。美波が部屋に入るだけですっごい良い匂いするんだけど。何で同じシャンプー使ってんのにこんな匂いするんだろう。匂いって人を狂わすよな。頑張れ俺。


「じゃあそろそろ寝ようか。」


「…タロウさん、今日は一緒に寝ちゃダメですか?」


美波はいつになく神妙な面持ちで俺にそう告げる。


「いや…それは…」


流石にいつもとは雰囲気が違うから頭から却下はできないけど本当に一緒に寝ちゃったら耐えられる自信は無い。


「…澤野の恐怖が忘れられないんです。もしも…楓さんが来てくれなかったら私は…」


くっ…!俺はなんて馬鹿なんだっ…!美波の気持ちを考えろよ…!何が耐えられないだ!!澤野と同じじゃないか!!


「うん、わかったよ。おいで美波。」


美波がすごい幸せそうな顔をしている。良かった。美波が幸せならそれでいい。それで俺の愚息が反応するなら斬り落としてやる。


「…失礼します。」


…いい匂いするな。落ち着け、鎮まれ。


「じゃ、じゃあ電気消すか。」


電気消したら尚更雰囲気出てヤバい事になってきたな。羊でも数えるか。とにかく落ち着かなきゃ。心臓の音もうるさいぞ。止まれ!あ、それじゃ死ぬか。よし、心拍数減らせ!


「…タロウさん、お願いしてもいいですか?」


「お願い…?」


お願い…お願いって何だ…?まさか…抱いてくれってか…?

いやいやいや!!ないないない!!!!そっち系から離れろ慎太郎!!!!


「…澤野に頭を触られた感触が取れないんです。お風呂で髪を洗っても気持ち悪さが全然取れないんです。だから…タロウさんに触ってもらって取り除いて欲しくてーー」


話終わる前に俺は美波の頭を撫で始めた。それで美波が安心してくれるなら何でも俺はするよ。本当に俺は情けない。邪な考えは捨てよう。


「して欲しい事があったら言って。」


「…腕枕しながら包むようにして欲しいです。」


「わかった。」


俺は美波の要望通りの事を美波が寝るまで行った。やり始めてすぐに寝息が聞こえたからきっと安心してくれたんだと思う。


次の日に目が醒めると美波は幸せそうな顔をしていたからきっと大丈夫だろう。




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「ただいま。」


久々の仕事が終わり家路へと着く。この体でちゃんと仕事が行われていたわけだから久々というわけではないのが変な感じだ。


「おかえりなさいっ!」


美波がいる生活にも完全に慣れた。ていうか美波がいなくなったら嫌だな。そう自然と思うようになっていた。


「今日の夕飯はヒレカツですっ!上手に揚がったかわからないですけど。」


「それは楽しみだな。早速食べようか。」


「それとお話があるんです。」


…えっ?その神妙な面持ちで何の話…?

まさか…出て行くのか?かっ、彼氏か!?大学でサークルの先輩と的なアレか?

そうだよ、美波はテニスサークルとか言っていた。テニスサークルは危険だって何かで聞いた事がある。マジか。マジかよ。テンションガタ落ちなんだけど。鬱発症しそうなんだけど。


「…何?」


もうどうでもよくなってきたな。闇堕ち確定だ。次のイベントでは全プレイヤー皆殺しにしてやろう。バルムンクの力を世に知らしめてくれるわ。


「今日お風呂から出たらタロウさんのシーンに挑戦しましょう。トートの報酬のメモリーダスト2つを合わせればシーンに挑めます。」


「え?シーン?先輩の話じゃないの?」


「はい?先輩…ですか…?何の事でしょうか…?」


「何だ、俺はてっきり美波が…」


「私が?」


「いやいや、何でもない!てか美波の分のメモリーダストは受け取れないよ!」


「いいんですっ!私は早くタロウさんに歴史を変えてもらいたいんです。少しでも恩返しがしたい。ちょうど貯まったのならシーンに挑んで欲しいんです。」


「恩返しだなんてそんな事考えなくていいよ。それに俺は充分すぎるほどの事を美波にしてもらっている。だからーー」

「これは私からのお願いです。」


真っ直ぐな瞳で俺にそう告げてくる美波に何も言えなかった。ここで俺が美波の申し出を断ればそれは美波に失礼だ。


「…わかった。ありがとう美波。でも次のイベントが終わったらメモリーダストは全部美波に渡してシーンに挑んでもらうよ?」


「はいっ!ありがとうございます!」


「じゃあ風呂から出たら挑戦しよう。先ずは美波の作ってくれた夕飯食べて腹ごなしだな。」


「ふふっ!すぐに用意しますねっ!」



こうして俺は初めてのシーンに挑む事になるーー

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