自動書記的散文、あるいは記憶の無意識的整理現象

ぬいぐるみ探偵

　脱サラして、探偵事務所を開いた。正直始めてみたものの、ただ待っていても仕事が来るわけではないので取り急ぎホームページでも作って見ることにする。

　あまり凝ったものでなければネットに作り方はたくさんあるので、そこまで苦労はせずにホームページを作ることができた。ただ普通に作るだけでは人は来ないなと思ったので、裸眼立体視に対応した。背景の海原の写真から、会社名である「イデア探偵事務所」という文字が飛び出して見える仕掛けだ。初心者ながら良くできたと思う。

　サイトを作ったからといってそうそう簡単に仕事が来るわけは無いので、日がな一日その自家製ページの立体視をウットリと眺めたりした。

　サイトを立ち上げてしばらく経ったころ、ついに最初の依頼が舞い込んで来た。サイトを作ったくらいで意外と来るものだなと感心していると、矢継ぎ早に2通の依頼が追加された。取り急ぎ最初の依頼から対応してしまおう。

　東京都にお住まいの、ラジオネーム飛べない鳥さん。私はネットの風評被害に悩んでいます。私の恥ずかしい写真がLINEやTwitterで流されているようです。正直どこまでひろがっているのかもわからず困っています。

　なるほど。最近良く聞く悩みだ。でもこの手の案件は正直苦手だ。僕が直接出向くのは嫌だなぁ。しかし仕事選んでる余裕もない。仕方ないので動くぬいぐるみを丁寧に梱包し、お急ぎ便で依頼者へ送りつける事にする。なかなか優秀なぬいぐるみなのできっと何かしらしてくれるはずだ。

　ヤマトに集荷に来てもらい、ぬいぐるみ入りダンボールを渡す。するとものの数分で依頼者からメールが届いた。

迅速な対応ありがとうございます！無事解決しました。まさかあんなに可愛い探偵さんだとは思いませんでした！またなにかあればお願いします。

　どうやらうまくいったらしい。ぬいぐるみか。なんだかビジネスの匂いがしたので、すぐさまAmazonで大量のぬいぐるみを注文した。今後依頼が来たら、ぬいぐるみを送るスタイルでやってみる事にする。案の定そのスタイルは大ウケ。ぬいぐるみ探偵として一世を風靡し、仕事に取材に大忙しだ。

　今日もせっせとぬいぐるみを梱包し送り続ける。儲かってはいるけれど、なんだかやり甲斐は無い。

了