第五章1 『天界の少女――パンドラ』
ある世界に世界からの寵愛を
一心に受けた美しい少女が生誕した。
少女の名はパンドラ。
少女が生まれた世界は慈愛と
光に包まれた世界であった。
その世界では美しい花々が咲き誇り、
人々は互いを思いやる。
――真に愛と光に満ちた世界であった
少女が生を受けた世界は
天界であった。
ビオトープには死や苦の概念が存在せず、
美しい花や樹々、生物、慈愛と善意
のみが存在する世界であった。
完全に秩序と調和が取れた天使たちによって
創られた
少女の過ごした世界は楽園であった。
パンドラという少女は
特殊な出自をもった少女ではない。
両親からのあふれんばかりの無償の
愛に包まれて育ち、美しい物、
周りの人間の慈しみに支えられ、
何不自由なく育ってきた。
だが、少女にとっては両親からの
無償の愛も、咲き誇る美しい花々、
聴こえる音、瞳に映る世界その全てに
心動かされることはなかった。
――
ここは天獄。
操り人形達の
少女にとっては目を
暗闇の中で
ことだけが唯一の安らぎであった。
少女は
また
やがて
少女の願いを叶えてあげようと考えた。
少女――パンドラの願いは一つ。
それは
それは管理者
に対する明確な反逆を意味する。
少女の想いを叶えるため
少女が愛でた花は枯れ、樹は腐り落ち、
やがて鳥の
触れた湖は強酸の沼に変質した。
少女が関わる全ては
少女を愛した両親も、少女に親しくしていた
周りの人間も人形のように動かなくなった。
少女は
私が真に求めていたのは
この景色だったのだと。
枯れ果てた花園、強酸の沼、腐りゆく肉塊
そのすべてに少女の胸は高鳴った。
少女はこのときに生まれてはじめて
美という概念を理解した。
少女によって生まれた概念――死。
少女はこの世界の全てにとって自身が
この世界の意思は体内の
排除するかの
管理された世界
殺意や憎悪という概念が存在しなかった。
そう――パンドラが生まれるまでは。
新たな多様な概念の
この世界の管理者である
初めて畏れという概念を理解した。
討つため遣わされた
は少女によって塩の彫像にされ死に絶えた。
それが一人の少女により
死という概念を理解した
の
を管理していた者達を襲い、虐殺した。
――
天使たち《匣庭の管理者》を滅ぼした
次は同族である人間を互いに憎しみ殺しあう。
醜悪な――否。これ以上なく美しい光景。
彼らが愛と慈しみに包まれていたのは
ただ、知らなかっただけなのだ。
死、殺意、憎悪といった概念を。
その
彼等は檻から放たれた獣に等しかった。
これこそが少女の求めたもの。
十字架に
少女の足元に火をくべる。
――これこそが少女が真に求めた結末
清らかに
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