星狩りのレプタイル ー邪眼の蜥蜴とオリンポスの英雄ー

若槻未来

プロローグ

プロローグ:フライデイローグス

 その日、夜空から「星座」が消失した。


 西暦2003年のクリスマス・イヴ、夜闇がソラを覆う午後10時半。点々と『黒』のとばりを彩っていた恒星は、月や太陽、また太陽系内の惑星を残し、ひとつ残らず漆黒のなかに消えた。


 1930年、国際天文学連合により、この世界に存在する星座は88個と確定された。これは、カルデア人が遺したとされる黄道十二星座、紀元2世紀までに古代ローマで成立したトレミーの48星座、さらに大航海時代に追加された12の南天の星座、そしてその流行から生み出された新たな星座たちを合算がっさんしたものである。



 だが。突如として、それら全ては跡形もなく消え去った。



 それはまさしく突然であった。ハッブル宇宙望遠鏡がとらえていたアンドロメダ大銀河の画面が真っ暗になった。マウナケア天文台群は太陽を除き、ひとつの恒星もとらえることができなくなった。全ての星が、星座が、同時に消えてしまった。


 NASA、また各国の天文学会はこの大事件について入念に調査を行い、計器の故障ではないか、光の加減の間違いではないかと綿密な精査をしたが、それらは全て徒労に終わった。星々が、そこに「無い」ことが証明されてしまっただけだった。


 星のみならず、星が放った光すら消滅してしまったというのは非常に奇怪な話であるが、事実「そう」なのだからどうしようもない。原因はまったく不明で、翌年度末にはNASAが公式的に匙を投げた。この事件は『星盤消失プラニスフィア・ロスト』、通称『ロスト』と命名され、以降理科の教科書に載るとなる。



 ――それから15年。



 未だ『ロスト』の原因は解明されておらず、一部の学者が究明をつづけるのみとなっている。


 が……某県の地方都市にて、それに関するは出始めていた。


 カギは『ギリシャ神話』。数多の神々・英雄が名を連ね、人間臭い活劇ドラマを展開するかの伝承。


 それは、単なる幻想ファンタジーではなかった――




 これは、星々を『消した』存在とその家族の、『生きる』戦いの物語。

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