仮面魔闘会―本戦―
昨日までの二日間、計三試合のトーナメント制の予選を終えて、今日から本戦が始まります。
一日目は参加者が多すぎて予選の一試合目のみ。
二日目は半分になった参加者が二試合目を行い、そこで勝ち上がった半分が夕方からの三試合目を行いました。
一試合で一日ダウンするほどの魔力を吸い上げるのに、まさか続けて二試合することになろうとは……。
三試合目の記憶なんて実はほとんど残っていません。
ヴェルターいわく『鬼気迫るヤバめな感じ』だったようですが……わたし、見た目全部隠れていますよね?
と思っている間にも到着です。
だってヴェルターが差し出した手を掴んで数秒後には会場前ですよ?
便利すぎますよね……いえ、反則的な気がします。
元々そうでしたが、何をやってもヴェルターに勝てる気がしませんよ。
「改めて本戦出場おめでとう。昨日は話すことも難しかったからね」
「ありがとうございますヴェルター。それと行ってきます」
「くれぐれも気を付けて。ティアナの魔力は確かに増えてはいるけれど、それでも魔法に耐えられるほどではないからね」
忠告を「分かりました」と素直に受け取り受付へ。
ヴェルターが送ってくれたおかげで時間に余裕が……あれ、いつの間にか控室に着いてます?
おかしいな……受け付け終えたばかりだった気がするのですが……。
今朝も寝坊しかけ――いえ、しちゃいましたよね。
ヴェルターが何とかしてくれましたが、こんなに気を抜いていていいわけがありませんよね。
気持ちを切り替えましょう。
あ、でももしかすると昨日取り込んだ余剰魔力が暴れているのかもしれません。
何か異変があればすぐに知らせるように言われていますし、帰ったらヴェルターに確認してみましょう。
本戦まで勝ち上がれば、アミルカーレ様のように有名な名前も聞こえ始めます。
たとえば目の前に立つ、筋肉質で背が高い『アイナ=プレアム』もその一人です。
魔法士を育成する学園に所属しながら、魔法の習得だけで満足せず、魔獣退治に出かける日々を過ごしているそうです。
そのお陰か機動戦闘を得意とする魔法
だってそう実況者が言ってましたから……というか本戦にまで出場するとなると実況者が付くなんて規模の大きさがわかるというものです。
他人と比較するほど力が無なくて知らなかったので、わたしにはありがたい情報ですね。
けれど今回に限っては知りたくなかったですね。
今までのわたしって、魔法士相手に格闘戦って奇襲を仕掛けてたから勝ち上がってこれたんですよ?
装備も急所を金属で覆うような軽鎧で、その他は基本厚手の布地……もしかすると金属の糸も使っているかもしれません。
ヴェルターと戦ったアミルカーレ様の姿を思い浮かべると、まったく勝てる気がしません……。
ちなみに顔を隠したわたしの情報公開はありませんでした。
あったとしても
そういえばこの大会、成績に反映されるので何処かしかできちんと申請しなくてはいけないはずですよね?
わたしした覚えがないのですが……免除されたりするのでしょうか?
成績欲しいわけでは無いので構いませんけれど少し気になりますね。
「また女? 魔法士戦は男女混合なのに、同性対決が多いと思わない?」
不意にそんなことを言われます。
確かにプレアムさんのおっしゃる通り、同性ばかりと当っている気がします。
筋力のように性差で明確に差が出るわけじゃないのに不思議な感じですね。
「だんまりか……あぁ、でも確かに声を上げちゃ変装の意味がないね。どれ、
――魔法を使わず勝ち上がってきた
――開幕のゴングが今鳴らされます!
あ、あっさりバラされましたね。
でもこれ、聞いてるだけじゃ何のことかわかりませんよね。
プレアムさんも首傾げていますし、むしろ言われた方が得かもしれません。
――はじめっ!
術式が降りるのを感じ、すでに三度の試合でも繰り返したように前へと駆け出します。
離れたままでは攻撃手段の無いわたしは、それ以外に手段はありませんし、距離を取られてしまうと逃げ回るしかありませんからね。
わたしが勢いよく近付いても無反応ってすごい余裕ですね。
魔法士ってみんな近付かれることを嫌がるのに……やはり『戦士』の能力が高いのでしょうか。
相手の出方を待っていてもじり貧なので方針は変えません。
わたしにできることは一つしかありませんから。
態勢を低くしつつも方向転換ができるようにゆるく揺れながら突っ込みます。
「なっ、ちょっ!?」
一試合目と同様に、真正面から足を狩るスライディングで最後の接近を終え、膝頭を固定するように足を絡めて
ストン、と勢いよく尻餅をついたプレアムさんですが、『魔力を伴わない物理攻撃』は多少の衝撃は受けてもダメージにカウントされません。
痛みもなく足を延ばして地面に座らせるような恰好のまま、向かい合わせでマウントを取り、左腕をプレアムさんの右の袖口に突っ込んで左腕を服の内側で掴んで固定してしまいます。
くすぐったいからか、かすかに抵抗しますが、いくら
こんな風にがっちりと組んでしまえば抜け出すのは至難の業です。
それこそ《
あと、意外とあの手の強化魔法って難しいそうじゃないですか。
自分の力を増幅するだけなのに不思議ですよね。
残った右手をプレアムさんの顎に当て、首を奥へグイっと押しのけます。
こちらを見ることもできずに「ぐえっ」と女性にあるまじき声が聞こえましたが気にしません。
体格を見た限り、不覚を取ってくれている間に何とかしないとわたしの腕力では勝てませんしね。
これで口も封じたので
だから――
「――
と短く言葉を口にしました。
過去三度の試合と同様、魔力の流れが変わり、わたしへとなだれ込み、体内を焼くような熱さや傷口を撫でるようなざらつきを感じます。
頭がチカチカと明滅するような錯覚に襲われても手を放しはしません。
これはわたしが魔法を使えるようになるか否かの重要な場面ですから……。
――勝者、
体内を掻き回されるような感覚を味わいながら、必死に制圧し続けていました。
もう意識の半分以上を削られ、反射的にしか動けていなかったところへ待ちに待っていた
手が離れたことで魔力の流入が遮断され――
「お疲れ様。君は本当に強い子だね」
あ、また同じ
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