第52話 イリス暗殺計画
「「カバー!」」
俺とカチュアの声がハモった。
ザシュ!
「ぐ、あぁっ!」
思わず悲鳴が漏れた。マイケルの剣は、イリスをかばった俺の鎧の腹部を貫通して、背中まで抜けていた。これ、軽量化してあるとはいえ、一応金属鎧なんだがな。
「な、何だこれは!?」
刺した当のマイケルが、本気で慌てたような表情で剣を引き抜く……ってオイ! 引き抜いたら一気に出血するだろうが!!
「「「「「「リョウ!?」」」」」」
「ハイヒールですぅ!」
ほかのみんなが俺を心配する中で、ひとり回復魔法をかけるウェルチ。さすが回復役、外見は幼いように見えるが、こういうときは冷静だ。お陰で傷口はすぐふさがって、出血も大したことはなかった。ただ、一気に半減したHPはまだ全快してはいない。
「命の精霊よ、リョウの傷を癒やして! 『トリート・ウーンズ』!!」
続けてアイナが精霊魔法で回復してくれた。エレメンタラーになったからか、同じ魔法でも以前より回復力が上がってるようで、俺のHPも全快した。これで一安心だな。
「リョウ……何でボクをかばったりなんか……」
青ざめた顔で問いかけてきたイリスに、俺は微笑みながら答える。
「イリスは昨日
「それはそうかもしれないけど……」
「私なら無傷で守れる。生兵法は怪我の元」
「確かにそうなんだけど、つい咄嗟にやっちまったんだよ……ハハハ」
言いかけて口ごもったイリスの代わりに、カチュアがズバっと指摘してきた。彼女のカバーも間に合ってたんで、俺の後ろでイリスをガードしてたんだよな。正論なので俺も笑って誤魔化すしかない。
それよりも、今はむしろ攻撃してきた方を詰問するべきだろう。俺はマイケルに向き直って口を開いた。
「さて、どういうことだ? この非常時に振られた恨みを晴らそうとするほど馬鹿だったのか?」
俺は剣を抜いて突きつけながらマイケルに問いかける。俺の背後ではカチュアも万全の態勢でガードしているし、イリス本人も奇襲さえされなければ防御できる。いくらマイケルの鎧や剣が高性能でも、俺たちの守りを突破してイリスを攻撃はできないだろう。
「ち、違う、私ではない! この鎧が勝手に動いたのだ!! 私は止めようとしたんだ、信じてくれ!!」
必死に叫ぶマイケル。その表情は本気に見える。たぶん嘘じゃないな。何しろ……
「確かに止めようとしたので動きが鈍くなってしまったからカバーする余裕を与えてしまったようだな。マイケル君に着せたのは失敗だったか」
そう独りごちたのは「博識な取引相手」だった。魔術師のローブを着た男。そのフードからのぞく顔は見たことがある。もっとも、前に見たときはエルフの特徴である長い耳を持っていたが、今は普通のヒューマンに見える。
「「「「「「「「メイガス!」」」」」」」」
俺たちが、その名を呼ぶとメイガスは薄らと笑って答えた。
「久しぶりだね、スライムサモナーズの諸君。色々と手の込んだ作戦を立ててみたのだが、残念ながら最後の詰めを誤ったようだ」
やっぱり、俺たちを狙った罠だったか! オリエの調査でも先に調べたことぐらいしか分からなかったんだ。かなり周到に準備して痕跡を隠してたようだな。
「今回のことは貴様の差し金か!?」
分かりきったことではあるが、何か少しでも情報が引き出せないかと、あえて詰問する。
「左様。二度も私の作戦を邪魔してくれたのだ。お前たちこそ我が使命の最大の障害になると踏んで暗殺計画を立てたのだがね」
うそぶくメイガスにマイケルが叫ぶ。
「では、私に近づいてきたのはローザンヌ君を殺すためだったのか!?」
「それだけではないな。元々、この地は帝国流通網破壊作戦のターゲットだったのだ。だからモーガン家について調査していたのだが、そのときにお前と彼女の因縁を知って、利用できると考えたのだよ」
それを聞いて驚愕するマイケル。
「帝国流通網破壊作戦!? な、なぜそんなことを……」
その疑問については、俺が答えてやろう。
「こいつは『インベーダー』だ、我々TAIが対処する敵なんだ」
「て、帝国の敵……なんてことだ」
その場に膝から崩れ落ちるマイケル。騙されていたとはいえ、インベーダーに協力してしまったんだからな。処罰は免れないだろう。
だが、今はマイケルなんかにかまっている暇は無い。
「自分まで囮に使ってご苦労なことだな。だが、自ら出てきたのが運の尽きだ! ここで捕らえるか殺す!!」
俺がそう宣言すると、メイガスは薄らと嘲笑を浮かべて言った。
「残念ながら、それは無理というものだ。むしろ、この場でお前たちのうちの誰かに死んでもらおう。『クリスタルリビングアーマー』よ、やれ!」
その宣言と同時に、マイケルが着ていた全身鎧のパーツが次々と体から外れて宙を飛び、メイガスの前で再び鎧の形に組み上がる。最後に盾と剣が飛んできたのを掴むと、全身が透明な鎧姿の戦士が完成する。
「なるほど、勝手に動く鎧か」
「先ほどマイケル君が言っていたように、すべての魔法攻撃と属性攻撃を無効化する鎧だ。そして硬度はダイヤモンドに匹敵する。果たしてスライム無しのお前たちで倒せるかな?」
嘲笑うメイガスに、俺は反論する。
「スライム無し? 俺たちは
それに反論したのは、メイガスではなくイリスだった。
「待ってくれ、それだと危険だ! 再召喚後に合体できるようになるまでのタイムラグの間に、耐性の無い魔法で攻撃されて誰か一体でも殺されたら合体できなくなる!!」
「広範囲かつ強力な爆裂魔法を使われたら、火属性無効のルージュはともかく、ほかのスライムは死んでしまうであろうな。リョウとカチュアがカバーできるのは二体までしかない……」
眼鏡をツイっと直しながらクミコも補足する。クソっ、言われてみればその通りだ。俺たちのスライムは全員が物理攻撃は無効になるスキルを身につけているが、それ以外の属性攻撃については、それぞれ自分の属性の耐性しか無い。俺のスーラに至ってはまったく属性耐性が無い。魔法や、ブレスその他の属性攻撃には弱いんだ。
「そういうことだよ。私を狙ってもかまわないが、実は私も性能的には同じ鎧を着ているのでね。無駄なあがきはしないことをお勧めする」
そう言いながら魔術師のローブを脱ぎ捨てるメイガス。その下には言う通りクリスタルの鎧を着込んでいた。唯一さらしていた頭にも、異空間収納からクリスタルの兜を取り出してかぶると面頬を下げる。
「さあ、どうするね?」
勝ち誇るメイガス。だが、ヤツの攻撃力は未知数だ。まだ詰んだワケじゃない。それに、いざとなれば俺かクミコのテレポートで緊急離脱することもできる。
だが、そうすると俺たちはともかく、この街が危ない。外ではレインボゥがいなくなり、城壁でメイガスが破壊工作をして対モンスター結界が破られたら、この街はヒュージガルーダの大群に襲われて壊滅的な打撃を受けるだろう。そうなると、流通の要衝を失った帝国の西側流通網の麻痺は長期化し、帝国全体の経済が大混乱に陥る。正にインベーダーの思う壺だ。何とかこいつらを倒す方法は無いか?
俺が必死になって考えを巡らせていると、イリスが静かに言った。
「お前たちを倒すだけさ」
そして、おもむろに妖刀ムラサマを抜くと、右手で高々と天に掲げる。
「イリス?」
俺の問いに、イリスはにっこりと笑って答える。
「ボクには分かったんだ、この妖刀ムラサマの特殊能力を解放するキーワードがね」
そして、キリッと顔を引き締めると、高らかに叫んだ。
「ムラサマプラズマパワー、ウェーイクアーップ!!」
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