第12話 闘技場ラプソディ
俺たちは「帝都中央闘技場」にやってきていた。モンスターファイトを行える闘技場はいくつかあるが、やはり一番大きいのは帝都「インペリア」にある中央闘技場だろう。
インペリアは、この大陸を統べる帝国の首都だけあって、その人口は何と百万人を誇るという巨大都市だ。もっとも、地方から出稼ぎに来ている男手が多いので、男女比がかなり偏っているんだが。当然、その娯楽を支える闘技場の規模も大きく、最大五万人もの観客を収容できるという。
もっとも、いくら休日の光曜日とはいえ、特に目玉となる試合も無いような日の闘技場が満員になるはずもない。客席の入りは二割程度だろう。それでも観客一万人というのだから、ほかの都市の闘技場だったら満員御礼の観客数ではある。
「おい、飛び入り組。お前らの試合は第八試合のあとに入れるから十四時開始だ。あと四時間もあるから昼飯でも食って待ってろ。試合開始の一時間前、十三時までには戻って来いよ」
普段から気が荒い剣闘士を相手にしているので、役人の割に口調がぞんざいな係官にそう言われた。十三時=午後一時までは自由時間になっちまったな。
「逃げるなよ」
「逃げるなら登録料を払う前にするさ。さあ行こう、みんな」
ケネスが安い挑発をしてきたので、軽くいなして全員で参加者受付窓口を去る。
「さて、四時間もあるんだが、どうする? 飯を食うには、まだ少し早いだろうし」
闘技場のロビーに来て、このあとの予定について相談しようと、みんなの予定を聞いてみた。
「そうねえ……せっかく闘技場に来たんだし、剣闘士の試合でも見てようかな。賭をやれるくらいの資金もあるし」
アイナは試合見物ね。闘技場の試合は賭の対象になってるから、それで楽しむのも悪くはないな。
「それならボクも付きあおう。剣の試合ならそれなりに見る目があるつもりだからね」
イリスも闘技場組か。まあ、彼女は元
「わたしは『大聖堂』にお参りしたいですぅ」
ウェルチは「
何しろ彼女が着ている「修道服」ってのは、
聞いたことがあるといえば、なぜか異世界ニホン人は「
ただ、
そうそう、
「拙者は試合見学の方にするでござる。個人闘技にも興味はござるので」
オリエはニンジャ
「試合」
カチュアも守り主体とはいえ近接戦闘の
「ヲーッホッホッホ、あたくしは高級衣料店でも見てまわりますわ。お気に入りブランドの新作が出ているかもしれませんもの」
キャシーは買い物ね。帝都は当然ながら商店も一番充実している。特に帝国貴族だとか高級官僚向けの高級衣料店の品揃えは帝都が一番良いだろう。キャシーは普段からゴージャスな服装をしてるから、そういうお店を見て回りたいというのは納得できる。
「クックック、我は魔道具屋を漁る……」
クミコも買い物組な。元
「俺も闘技場だな。それじゃあウェルチとキャシーとクミコは個別行動で、残りは闘技場ってことでいいかな。個別行動組は必ず十三時までに戻ってくれよ。ひとりでも欠けたらレインボゥには合体できないんだからな」
「了解ですぅ」
「ヲーッホッホッホッホ! わたくしは時間に正確な女。ご心配は無用でしてよ」
「クックック、我が秘宝『時の鐘』ある限り、刻を逃すことはありえぬ……」
……おいクミコ、それって単なる
「それじゃあ、これで解散ってことで、俺たちも試合を見に行こうか。そろそろ次の試合前の演武が始まってる頃だろ」
そう闘技場組の四人に促すと、観客席の方に足を向けた。
~~~~
「うふふ、大もうけ~♪」
ほくほくした顔で賭札を見つめているアイナ。今の
「これを当てるのは凄えな。演武を見たかぎりじゃ選手の実力差がありすぎて鉄板試合だと思ってたのに」
「実はねえ、みんなが一番腕が立つって言ってた剣闘士には全然『闘志の精霊』が近寄ってなかったのよ。むしろ、一番不人気だった剣闘士の周りにたくさん集まってたんで、凄く気合い入ってるんだなあと思って賭けてみたわけ」
俺が褒めるとアイナがニヤッと笑って種明かしをした。なるほど
「それじゃあ、そろそろ賭札を交換してから参加者受付に戻ろうか。まだ少し早いけど遅刻して不戦敗なんてことになったらシャレにならないからな」
そう促しながら、さっき食べた弁当のゴミを回収する。途中で飯を食いに行こうかとおもってたんだけど、みんな試合を楽しんでるみたいだから売店で弁当と飲み物を買ってきて昼飯にしたんだ。結局、剣闘試合をがっつり楽しんじまったなあ。個人戦だけでなく
「こうして見てみると剣闘試合も悪くないね。意外に参考になるような技もあったし」
「まったくでござるな。第四試合に出ていた短剣使いのテクニックは拙者でも応用できそうでござる」
イリスやオリエも楽しんでいたようだ。実戦の役に立てようという意識もあるのはプロの冒険者として当然だろう。俺も上手いテクニックを見たら自分でも応用できないか考えてたし。
「
カチュアは普段通りの無表情なんでイマイチわかりにくいけど、楽しんではいたらしい。カチュアって意外に毒舌というか、結構ストレートな物言いをするんで、つまらなかったら正直に「退屈」とか言うはずだからな。
そんな風に会話しながら賭札交換所に行って、自分たちの勝札の払い戻し金額をライセンスカードに入金し、参加者受付窓口へ向かう。大穴を当てたアイナほどじゃないけど、俺たちも剣闘士の実力を見抜く目はあるから、それなりに儲けさせてもらった。
参加者受付窓口では、もうウェルチたちが待っていた。
「遅いのではなくって!? このあたくしを待たせるなんて!」
「悪い悪い、意外に試合観戦が楽しくてさ。結構儲けたから、あとでキャシーたちにも何かおごるよ」
少しお冠のキャシーをなだめながら、窓口の係員に到着を知らせる。
「すみません、第八試合のモンスターファイトの参加者ですが」
「おう、来たか。おい、控え室まで案内してやれ」
若手の係官に案内されて控え室に行くと、そこでモンスターファイトのルールについて説明を受ける。
「基本的に召喚獣のみの対戦となります。今回は冒険者パーティー同士による召喚獣対戦の場合の慣例に従ってパーティー対戦になるので、それぞれの召喚獣全部が対戦する形です。ですので、相手方パーティーの召喚獣一匹と、あなたがたの召喚獣八匹が戦うことになります。ただ、合体するのですよね? 合体は戦闘スキルなので試合開始後に行ってください」
窓口のおっちゃん係官と違って丁寧な口調の若手係官から説明を受ける。俺たちの召喚獣については参加登録時に詳しく説明してあるから係官も知ってるんだ。
「勝利条件は?」
「相手方モンスターを殺すか、降参させるかです。降参の意思表示は召喚者が行ってください。降参後に相手を攻撃した場合は罰金が科せられます」
「罰金っていくらぐらい?」
係官が答えた金額は相当なものだった。ただ、今の俺たちなら無理すれば払える金額だな。それと、勝利後にもらえる賞金も没収されるそうだ。
あと、最後にひとつ聞いておきたいことがある。
「ファイトの結果として召喚獣が死んだら?」
「それはモンスターファイトに参加する以上は覚悟していただきたいリスクです。その点については補償は受けられませんし、相手側に賠償の請求もできません」
「わかった。ほかに聞きたいことがあるか?」
みんなにも聞いてみたが、特に無さそうだったのでルール説明は終わりにしてもらった。
「皆様の試合も賭の対象になります。勝者には賞金として賭金総額の一割が支払われますので、がんばってくださいね」
最後にそう言うと若手係官は控え室を出て行った。
「さて、いよいよ試合だ、頑張ろうな!」
そうスーラたちに声をかける。ちなみにスライムたちは今日の試合見物中も常に俺たちについて回っていた。こいつらの場合は小さいし外見も威圧感が無いから街中で連れていても全然問題無いから常時召喚状態なんだ。
やがて、試合開始の時間が来たので若手係官に呼ばれて控え室を出ると、試合場に向かう。
そんなに緊張しているつもりはなかったんだが、実際に試合場に出てみて観客席を見上げてみると、結構な観客が見ているんで少し緊張してきた。試合をするのは俺自身じゃないのにな。
「みぃぃぃなさんお待ちかねぇ~~! 毎日十四時、モンスターファイトの時間がやって参りましたぁ!! 本日は試合予定が無かったのですが飛び入り参加がございまして、急遽ドリームマッチを開催しております! 何と冒険者ランキング上位パーティー同士の召喚獣が激突!! ここ一週間Dランク部門一位の新進気鋭パーティー『スライムサモナーズ』と、それまで一位を独占していた凄腕パーティー『
司会者が試合開始前の口上でハイテンションに観客席を煽ると、観客席からは大歓声がわき上がる。さすがプロ、上手いなあ。
スーラたちが試合場の中央に進み出ると、反対側からはシュバルツケーニッヒとかいう名前のケルベロスが歩み出てきた。それと入れ替わるように司会者は試合場から出る。
モンスターが試合場の真ん中に来ると、試合場の外周に防御結界が張られる。これで、試合場中でどんな攻撃が行われても、場外の召喚主や司会者、それに客席に被害が出ることはない。
「それではぁ、モンスターファイトぉ、レディーッ、ゴオォォォォォォッ!!」
司会者の合図で、試合が開始される。
「さあ、スーラ、合体だ!」
俺が叫ぶとのと同時に、反対側の試合場外でケネスが叫んだ。
「行け、シュバルツケーニッヒ、『ファーストアタック』だ! 合体前にノーマルスライムを殺せ!!」
それと同時に疾風の素早さで飛びだしたケルベロスがスーラに襲いかかって鋭い爪でスーラを切り裂いた!
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