5.風

 二体とも決定打の無いままに打ち合い、ただ時間だけが無駄に過ぎていきます。これだけ月光を浴びていればお互い燃料切れはありません。私とクィモはこのまま何時間も戦い続けることになるのでしょうか。早急にクィモを破壊してマスターに加勢する、という私の計画はもうすでに破綻してしまっています。

 それにしても二体とも惨憺たる状態です。

 クィモは右腕を失っており、逆立ちとフェイントを駆使して足技を仕掛けてきます。ですが体重が乗らず私に大きなダメージを与えられていません。

 私は左手が制御不良で動きません。右腕に搭載していたフレイムクライムの魔力は排出により失ってしまいました。私も足技を中心に組み立てていますが彼女の堅いガードを崩すことができません。

 不意に、私の耳が不思議な音を拾いました。

 木のこすれるような音が一定のリズムで繰り返されています。

 その音に私は聞き覚えがありました。車椅子の車輪の音です。

「キィハちゃん!」

 女性の声に私は振り向きました。そこにいたのは車椅子の魔術師、ラエルナ女史です。そして私は彼女の意図をすぐに汲み取りました。

 私は走りました。彼女の方に向かって。一瞬遅れてクィモも動きますがそれよりも早く私は目的を遂行します。

 ラエルナ女史は手に持っていた短剣を私に向かって投げました。くるくると回転し、その短剣は私の手に収まります。

 私は短剣を鞘から抜きました。

 それは魔法屋に飾られていた風属性の短剣です。

 短剣が私の唇の間に吸い込まれます。右腕は強制排出の影響で魔剣の力を宿せる状態ではありません。左腕は動きませんから力を得たところで使えません。

 私の右足の周りに空気の層が生まれました。少し動かすだけでその空気の層は風となり刃となりました。これなら蹴りで対象を切り裂くことができます。

 私に追いついたクィモは、私の腹部を狙って蹴りを繰り出してきました。再び排出させるつもりなのでしょう。私はそれを跳躍して回避します。

 そして私は右足を高く上げました。

 そこから踵をクィモの頭頂部めがけて振り下ろします。

 踵落としと呼ばれるこの技は、一撃で勝負を決められるほどの破壊力のある技です。右足に纏った空気の層は私の動きに連動して刃となり、蹴りを何倍にも増幅してくれています。

 クィモが避けることを試みますが、それよりも早く私の蹴りがクィモにヒットしました。頭部は外したもの、彼女の左肩を粉砕しました。これによりクィモの左腕の肩から先が胴体から分離しました。

 着地した私は身体を回転させるようにしてもう一度蹴り技を放ちました。胴回し回転蹴りです。これも踵落とし同様に破壊力の高い大技です。私の蹴りは風の刃となり、今度はクィモの頭部に綺麗にコンタクトしました。刃となったその蹴りは首の球体関節を破壊し、クィモの頭部は先程の左腕と同様に胴体から離れ、地面に転がりました。

 頭部破壊により、クィモはその活動を停止しました。

 彼女は両腕と頭部を欠損し、立ったまま動かなくなりました。

 私は振り返りました。

 風の短剣を貸してくれたラエルナ女史にお礼を言わなければなりません。

 ですが私の負傷もことのほか大きく、あまり大きなアクションをおこせません。

 私は彼女に向かってゆっくりと親指を立てました。

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