第46話 第2章IF もしも主人公が最強だったら ①


「どうした、劣等種共。この程度で終わりなのか?最初の勢いはどこに行った?」

 ドラゴンは、まるで目障りなゴミでも払うかのように腕を薙ぎ払い、臨時で集まった討伐隊の隊員達の命を刈り取っていく。

 「―――ぎゃああああああ……ッ!」

 断末魔の叫びを残して、また1人また1人と倒れていく。やがて、その場に立っている者は竜王ドラグノフと名乗ったドラゴンと、第三討伐隊を率いる隊長のベルドルムのみとなった。

 ドラゴンとの戦闘で、死亡を含めて隊長以外の全員が戦闘不能という、これほどまでにない絶望的な状況である。

 先頭に携わる部隊の隊長として、引き際は分かってはいたのだ。

 こちらが劣勢になった時点で「これ以上の戦闘継続は危険」と判断し、撤退しようとはしたのだ。

 しかし、今目の前にいる『竜王ドラグノフ』と名乗ったドラゴンはそれを許してはくれなかった。

 こうなった以上もはや敗北は決定的であり、撤退する他に選択肢はない。

 それは隊長もよく分かっている。

 だが、それだけは出来ない。

 撤退したくとも、まだ辛うじて息のある者達を見捨てることは隊長には出来なかった。

 

 ――そんなことを考えて一瞬気が逸れた隙を、ドラグノフは見逃してはくれない。

 「隙だらけだ、そんなに死にたいか劣等種よ」

 「ッグハァッ!!」

 横腹……いや、もはやそんな限定された範囲の話ではない。左半身全体に凄まじい衝撃を感じた時には、既に遅かった。

 遠心力で勢いをつけたドラゴンの尻尾が、左脇腹を中心として左半身に直撃したのだ。

 これを受け立っていた場所から数メートルほど吹っ飛ばされた隊長は、脇腹を押さえてうずくまる事しか出来ない。

 一瞬で口の中が吐き気を催すほどの濃い鉄の味でいっぱいになった。

 今の一撃で間違いなく骨が何本かやられたな、と痛みで朦朧とする意識の中で冷静に考えていた。いや、それにしては痛みが強すぎる。内臓にもダメージが到達しているかも知れない。

 全身を強く打った事により上手く肺に空気を送り込むことが出来ず、徐々に視界が暗くなっていく。

 普通の人間であれば、意識を失ってしまうほどの強烈な痛みと苦しみの中、隊長はふらふらと立ち上がる。

 「俺は……決して諦めるわけにはいかない。討伐隊の1人として……人々の生命を守る者として!!諦める訳にはいかない!!」

 「ほう……守るため、か。……面白い、面白いな人間よ」

 「この一撃に!今の俺の全てを込める!」

 「いいだろう、受けて立つぞ人間」 

 ドラグノフの八方を取り囲む形で紫色の魔法陣が、まるで獲物を逃がさないための檻のように隙間なく展開される。

 「167式魔法陣……『飛桜』ッッッ!!」

 その瞬間、全ての魔方陣からドラグノフに向かって超高密度の魔法エネルギーが放たれた。それによって発生した爆風と土煙で、ドラグノフの姿は覆い隠された。

 

 土煙が晴れると次第にドラグノフの姿がうっすらと見えてくる。

 「……ふむ、これは中々の威力なのではないか?あくまで人間の中では、だがな」

 「………そんな、馬鹿な」

 ドラグノフの身体には多少の傷はあるものの、命に関わるような怪我ではないのはすぐに分かった。

 そんな姿を見て隊長は力尽きたように、その場に崩れ落ちる。

 あの魔法はその程度で済むような弱い魔法ではない。普通の人間が喰らえば即死は免れぬほどの威力はあったはずだった。

 『竜王ドラグノフ』の圧倒的な実力をまざまざと見せつけられた隊長は、絶望に打ちひしがれてもなお必死に立ち上がろうとする。

 「まだだ……まだ……まだ終わってない……」

 しかし、その度に体勢を崩して地面に横たわった。

 そんな様子をドラグノフは静かに、真っ直ぐ見つめる。

 「……確かに、実力差は天と地ほども離れていた。だがその武人たる心意気、敵ながら見事だった。敬意を表して、せめて苦しまないように逝かせてやろう」

 そう言ってドラグノフが右腕を振りかぶったその時だった。

 「――おっ、ようやく見つけた。……えぇ、異世界に来て最初に出会ったモンスターがドラゴンかぁ……。そういうのはもっと後半に取っておくもんじゃないの……?」

 唐突に聞こえてくる声、ドラグノフと隊長はその声の方向に振り向いた。

 「何だ……?貴様は」

 その問いに男はフッと笑い、ぎこちなく髪を掻きあげるような動作をした。

 「俺?……俺は魔王を倒す勇者ァ!山田太郎だ!!…………やっちゃったなこれ、雰囲気ぶち壊しちゃったよ。慣れないことはするもんじゃないな。これなら前もって考えておけばよかった……」

 恥ずかしそうに後頭部を撫でながら、男はぶつぶつと呟いた。

 

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