第22話 大事な玉はベストポジションに固定しておけ
「なんか毒気が抜かれちゃったな~。レベルの概念が存在しないわ、ステータス表示も出来ないわ、挙句の果てには武器は角材ときた。出来る事なら今すぐ家に帰りたい」
地べたに座り込みため息をついて項垂れる俺。
その隣に腰掛けているおっさんゾンビは、どこから持ってきたのかカップ酒を取り出した。そして、そのプルタブを引き起こして蓋を開け、すぐさま飲み口を口元へと運びゴキュゴキュと喉を鳴らしながら飲んでいる。
お前さっきまで『二日酔いがー』とか言ってたじゃねえか。何でもう酒飲んでんだよ。
そんなことを考えている間に、
「ぷはぁー!!いやー!やっぱりこの一杯を飲むと生き返るなっ!」
と、アンデッドなのに生き返ってしまったおっさんゾンビが満足げに息をついた。
そしておっさんゾンビが酒をちびりちびり飲みながら言う。
「帰りてぇならこんなところをプラプラしてないで、さっさと帰ればいいだろうが」
「いやぁ、そうしたいのは山々なんだけどさ、そういうわけにも行かないんだよ。ほら、あの……今は魔王討伐っていう目的で勇者として旅をしてるからさ」
「ふーーん、そうなんだー………」
「うんあのさ、興味無いんだったらそれはそれで別にいいんだけどさ、せめてハナクソほじりながら適当に相槌打つのは止めろ。なんかすっげぇ腹立つ」
「……お?なんか揺れてねぇか?」
途端にキョロキョロと見回し始めたおっさん。
「おい、話を逸らそうとするな…………ホントだ。揺れてるな……」
最初は微かに感じ取れるほどの揺れだったのだが、徐々にその揺れは強くなっていく。
そして、ついにその場に真っ直ぐ立つ事が出来ないほどの揺れが俺たち2人に襲いかかった。
「わああああ!?地震か?これは地震なのか!?やべぇ!異世界マジでやべぇ!」
「ゴチャゴチャうるせぇ!これは地震とはちょっと違ぇな。これは………?」
キョロキョロと周囲を見ると、俺たちからそう遠くない場所の地面が盛り上がり始めたのが視界に入った。
そしてその地面から何かが這い出してくる。
それを見た俺は目を見開き、その這い出してくるものを凝視しながら、オッサンの肩をバシバシ叩く。
「おいおいおいおい!!!嘘だろ、何だあれ!何の冗談だよこれは!!」
「…………ドラゴンゾンビだ」
オッサンはボソリとそう呟いた。
それを聞いた俺は頭を抱えながら絶叫する。
「またか!またドラゴンなのか!駆け出し勇者の味方、スライムさんを差し置いて次から次へとドラゴン、ドラゴン、ドラゴン………。もううんざりなんだよ!この異世界にはドラゴン以外のモンスターはいねぇのか!?」
「いや、んな事言っても……」
「それによ!!ドラゴンゾンビ!?ハッ!どいつもこいつも目ん玉プラプラさせやがって!ゾンビの中では目玉プラプラさせてんのがトレンドなのか!?」
「俺の場合はこれがデフォだったから」
「デフォルトだからっていつまでもプラプラプラプラぶら下げておくなよ!ずっと気になってたんだよ!ちゃんと眼窩の中に嵌めとけ!」
おっさんがゴソゴソ眼を嵌めてる間も、俺は心の内を声に出して叫び続ける。
「そもそも人間の墓地になんでドラゴンが埋められてんだ!ちゃんと火葬しろや!」
「だから共同墓地なんだろ。人間も、人間以外の種族もまとめて葬る、って意味で」
「あ!?意味分かんねーよ!死ねよバーカ!!」
「いや、俺もう死んd……」
「うるせぇぇぇ!!そこは食い付かなくていい!」
そんなことをしているうちに、とうとうドラゴンゾンビがこちらに向かって近付いてきた。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!ちょ、やばい、こっちに近付いてきた!お前アンデッドだろ!?アンデッド同士なら話も通じるんじゃないか!?なんとかあの化け物を説得してくれや!」
「やってみよう」
腕を大きく広げて、ドラゴンゾンビの進路を塞ぐ。
王蟲の前に立ちはだかるナウシカを彷彿とさせられるその姿に、いけるかもという期待が膨らむ。
すると、ドラゴンゾンビが男の前で止まる。
てっきりそこもナウシカリスペクトで、ドラゴンに跳ね飛ばされるのかと思ったんだが……。
「やったか!?」
俺がそう言った直後、大木のような腕で薙ぎ払われ、おっさんは数十メートル近く吹っ飛ばされた。
あんぐりと口を開けて呆然とする俺。
そんな俺をドラゴンゾンビは、次の標的としてロックオンしたらしく走って追いかけてきた。
「ぎゃあああああああ!!!」
俺は今までの人生の中で数えてこれ程全力で走った事は無いというくらい、全力を振り絞り走った。
それはもう死ぬ気で走って逃げた。
―――しばらくして、さっき吹っ飛ばされたオッサンが俺に追いついて来た。
オッサンの身体に特に傷はないようだ。とりあえずその事に安心した。
というか、あれだけ派手にぶっ飛ばされて無傷とかやっぱり人間の耐久力じゃねぇなと、今の状況だとその耐久力がちょっと羨ましくも感じる。
いや、んな事よりも。
俺はすぐに切り替えてオッサンに声を掛ける。
「アンデッド同士でも……ハァハァ……駄目だったのか」
「いや、話をしたことはしたんだが……」
オッサンは真っ直ぐ走りながら、なにか話すことを躊躇しているのか、顔を俯かせる。
「どうした……!?」
「俺が何を言っても『かゆい……うま』しか返ってこなかった。あれと意思疎通は無理だ」
「おい!それってYO!のびハザのネタじゃんか!アッアッアッアッ」
「笑ってる場合か!」
オッサンから的確なツッコミを受けたところで、状況を整理する。
「意思の疎通は出来ない……!こっちの話は全く理解出来ていないっつー事か!ワザと会話をしないだけという可能性はないのか!?」
「いや、あの喋り方は脳味噌がいい感じに腐ってる話し方だった。おそらくだが、脳の原始的な部分………食欲を司る部分だけが辛うじて動いているだけだと思う」
「そうか………!ハァ……ハァ……」
走っているせいで息が上がり、思うように言葉が続かない。
だが、無理やりに声を絞り出しオッサンにひとつ、提案する。
「ひとつだけ……ひとつだけ俺たち二人が……ヒィ……助かる方法があるかも……ヒィ……しれない……、の、乗るか?」
「しゃーねーなー、乗ってやるか」
「よ、よし……ハァ……じゃあ、とりあえず今は逃げるぞ……。っていうか!なっ、なんでお前は息上がってねぇんだよっ!!」
「死んでるから」
当たり前だろ?というような表情でこっちを見てくるオッサンはガン無視して、今は逃げることに集中する。
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