夏の通り雨
あきのななぐさ
遠き日の記憶
第1話目覚めの歌
黒の世界に波紋が広がる。次々と湧き起こる波紋の中で、少年は静かに目覚めていた。
目覚めた瞬間、波紋は音として理解される。
形のない世界。光のない世界で、少年に届くのはその音の流れ。
何もない世界に降る音。
――不思議な音。だが、それは心地よい。
いつしか少年はその音の流れの中にいた。
だが、突如わき起こった力ある音の流れが、少年に様々な事を理解させていく。
自らの事を理解した少年。その瞬間、黒の世界が光であふれる。
そして少年は全てを理解した。始まりの歌で目覚めた自分を。
*
「どう? おとうさん。さっきのが、みこさまの歌だよ。『はじまりの歌』だよ」
「メルは凄いな。きっとお母さんのように歌えるようになれるよ。なあ、メル。歌は好きか?」
「うん、だいすきだよ! でも、いちばんはおかあさんのプリン!」
「あはは、メルは食いしんぼさんだなぁ」
「ちがうよ、メルはくいしんぼさんじゃないよぉ。ずっとたべてないだけだもん」
「そうだな。お母さんは『皆が一つになって立ち向かえるように』って歌いながら世界中をまわっているからな。寂しいか?」
「ううん、だいじょうぶ。『むすびのおやくめ』だもん。たいせつなことだって、おかあさんいってたもん。でも……」
「でも?」
「やっぱり、メル。おかあさんとおとうさんといっしょがいい」
「そうか、メル……」
父親の手がメルの頭にそっと伸びる。愛おしそうに目を細めながら。
「えへへ――」
嬉しそうに笑うメル。
その晴れやかな笑顔が、雨空に変化をもたらしていた。
「どうやら雨宿りも終わりだ。そろそろ戻らないと、巫女様に怒られる。でも、この雨のおかげで、メルと長く一緒に居られた。雨と星樹に感謝しよう。そうだメル、この樹は星樹という不思議な樹なんだ。大地を通して世界中とつながっている。望んだら、この星樹がお母さんとメルを繋げてくれるかもしれないな」
「ほんと! じゃあ『きぼうの歌』を歌うね!」
止みかけている雨音に交じり、旋律が風にのって流れていく。幼女の奏でる声に導かれるように、
それは太陽の放つ光ではない。星樹の上にある一枚の葉から放たれた光が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます