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丹堂妙乃様へ。
拝啓。先日は楽しいお手紙をありがとうございました。
外更に、を体験したのですね。あの未言は、確かに自宅によく居座っていると思います。
私の家も、一人暮らしで日中は締め切っているものですから、夏も冬も外更になってしまい、帰るや否やエアコンやストーブを最高にして、しばらく耐えなくてはなりません。
でも、私の体調は心配無用です。
実は、私は山登りが趣味で、体が丈夫なのです。今も、二週間に一度は山に入っていますから、普通のデスクワーカーよりは体は鍛えられていると自負しています。
そうそう、私も先日、山に入った時に一つの未言に出会いました。
永樹、永い年月を経て、異形の様相に成った樹木のことです。
山道から山肌を見下ろした時、ぽっかりと空いた空間にその永樹は生えていました。
ブナの老木で、雪の重みでひしゃげたのでしょう、五つ首の大蛇か龍が辺りを見渡しているかのような幹と枝を伸ばし、そこに見るからに硬質なキノコを張り付けていました。
じっと見れば見るほど、視線が合ったかのような錯覚がして、目が離せなくなり、言葉でない何かが私の中へ侵食してくるようでした。
その場所は、そんなに山深い場所でもありませんでしたから、山に慣れていない人でも苦労なく行けるのですが、そんな人が踏み込める場所に佇んでいた永樹は、逆に不思議でどこか恐ろしく思えたものです。
丹堂さんも家事お手伝い頑張ってください。口には出さないかもしれませんが、お母様も丹堂さんが家事をなさることで、とても助かっているのではないかと思います。
それでは、また図書館にて。敬具。
三栗隆文
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