未言書簡

奈月遥

手紙の結末、もしくはとある物語への前日譚

S

 細い指が、螺鈿の入った胴の太い万年筆を握り、金のペン先を上下逆さまにして、便箋に触れさせました。

 すぐに、山葡萄の彩血あやちが点と付き、滲むよりも早く線となるように滑り、文字を綴り。

 一行書いて、止まってしまいました。

 手紙を書く女性は物憂げに便箋の空白を見詰め、一文字、二文字と書いてまたペンを止め、また書き出します。

 華奢で細い字が細書ささかかれていって。

 そして、便箋の七割以上を空白にしたままで、その文は完結したのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る