図書室にて
女性は先に立って歩き出す。図書室には、天井まで届くくらいの本棚が所狭しと並び、そしてその本棚にこれでもか、というくらいに本が詰まっている。
「私、ここに住みたい」
『……ダイナミックな告白の仕方だな』
トゥルーが大きくため息をついて言う。ルクアは顔を赤らめて言う。
「違うよっ! 何もトゥルーと結婚したいって言ってないもん! してもいいけど! むしろ、してほしいと思ったりもするけど!」
『……』
トゥルーは、通信機の向こう側で黙ってしまった。一体何を考え、どんな表情でいるのかは、顔が見えないため彼本人にしかわからない。
女性はルクアを振り返って言った。
『甲冑チャンとの追いかけっこの時からそうだったけど、誰かが指示を出してくれてたんだね』
「そうです」
『……あっさり教えてしまうんだな』
トゥルーの声に、ルクアが頬を膨らませて言う。
「だって、変な人だって思われたくないもん」
ルクアの言葉に、女性はくすくす笑った。
『大丈夫。変な人だなんて思ってないわ。……ここよ』
女性が指さした方向に、小さな薬瓶があった。お人形遊び用などで使う、ミニチュアサイズの大きさである。中には申し訳程度に液体が入っている様子だった。おそらくは1しずくほどしかないだろう。
「……これが、命の泉の水?」
『そう、これが最後に残った1しずく。1しずくだけじゃ、傷を癒せるような量じゃないわ』
女性が残念そうな声で言った。ルクアは言った。
「この命の泉の水も、元々は物語修正師さんが作ったものなんですよね。だったら、私の力で増やせないかな」
そして手近なテーブルの上に飾ってあった絵の描かれた皿を持ってくると、その中に液体を垂らす。女性が言った通り、液体はたった1しずくしか入っていなかった。ルクアは願うように言う。
「この今は1しずくしか残っていない命の泉の水が、皿を満たすくらいに増えてくれればいいのに」
するとみるみるうちに液体が、絵皿を満たした。女性は少し驚いた表情をする。青年は、感心したように言う。
『なるほどね。きみ、才能あるよ』
「そんなことないよ」
ルクアは笑って、鞄の中からトゥルーの入っている箱を取り出す。そして、ミニチュアサイズのベッドごと、絵皿に浸す。
『ところで、あなたが怪我を治したい人ってどこにいるの? それとも増やした泉の水ごと、持って帰るつもりなの?』
女性の言葉に、ルクアは笑って言った。
「今、絵皿に浸したベッドに寝てる人物が、私が連れてきたけが人だよ」
それを聞いて、女性と青年が絵皿の中を覗き込む。
「トゥルー、怪我の具合はどう?」
ルクアの声に、通信機から返答がある。
『……上々だ。数分浸しておいてくれたら、おそらくは治るだろう』
「よかった。それじゃあ、この人たちにあなたのこと伝えておいていいかな」
『……構わない。そのまま、魔力倉庫の場所を教えてもらえ』
それを聞き、ルクアは青年と女性に向き直った。
「絵皿に浸しているけが人の名前は、トゥルーと言って、私の契約相手です」
それを聞いて、女性は少し驚いた顔をした。そして言う。
『トゥルーさんが契約した相手……ということは。あなたがトゥルーさんが猫だった頃の飼い主ということだね。それなら信頼してもよさそうだね。私はルクア。こっちはトゥルーさんの兄の、ファクトっていうの。よろしくね』
ルクアを名乗る女性の言葉に、今度はルクアが驚く番だった。
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