第15話 酔蝶花

2軒目の店は、全くやる気が出なかった。

初めの頃は、それなりに頑張ってはいた。

が、彼氏でもない、ただのヒモを養うのがイヤになったからだ。


忍ちゃんは、一応バイトもしていて、専門学校生だった。

バイト先も、ちゃっかり歌舞伎町に変え、学校にも近くなった。

だが、だんだんと学校へも行かなくなり、

バイトの給料は、結局何に使っていたのかは判らない。


その当時、周りの友人は、忍ちゃんが彼氏だと思っていた人が多かったが

実際は、私たちは『お付き合い』はしていなかった。

身体の関係はあったが、それ以上でもそれ以下でもなく、

ただお互いの利害の一致の結果だった。

『ヒモでは利害の一致にはならない』と何度も言ったが、

『貸した金の現物支給返済だと思って』と返された。

それを言われてしまうと『返す』といってしまった事を

悔やむしかない。


忍ちゃんは、少し変わった子だった。

中2の頃に衝動的にリストカットしたらしい。

いつも傷の上に腕時計をしていた。

『腕時計で隠している訳ではない』と言いながらも

お風呂以外は、いつも身に付けていた。

本人は『自分と家族しか知らない』と言っていたが

同級生は全員知っていた。

現に、その話は、忍ちゃんに会う前に

彼を紹介した友人から聞いて、私も知っていた。


ある日、忍ちゃんが

『金になる仕事を見つけたから行って来る』と

意気揚々と出掛けて行った。

どうせ、ロクな仕事じゃないだろうなと思ったが、黙って行かせた。

案の定、3時間後に泣きながら帰って来た。

気になる仕事内容は・・・

簡単に言えば『売春』だった。

ただ、相手が殿方で俗にいう『ネコ』役だった。

『貞操観念の薄い自分には簡単な仕事だと思った』と言った。

貞操観念の問題でもなく、『簡単な仕事』でもないと思う。

と、言いたかったが、口には出さなかった。

結局、その仕事を最後まで勤め上げることが出来ずに

途中で逃げだして来たらしい。

給料も貰わずに。

『無様だな』と心底思ったが、これも口には出さなかった。

彼は、私がたまに行っていた『怪しげなバイト』を知っていたので

自分にも同じような事が出来ると思っていたらしい。


また、ある時、忍ちゃんが

『欲しい物があるのだけれど・・・』とお願いしてきた。

それは、ネジ君も扱ってる『品物』で。

が、忍ちゃんにはツテがない。から入手できないと。

気乗りはしないが、その頃ネジ君を見かけなかったので

『どうせ居ないだろう』と探しに行くと残念な事にネジ君はいた。

なんでも、任されていたボッタクリが摘発されてネジ君はパクられていたそうだ。

『家に帰ったらポストに10万入ってたんだぜ、いい先輩だろ?』と。

なんとも返事がしがたかったので適当に聞き流した。

で、また、その先輩に任された別の店にいるらしかった。

頭はぶっ飛んではいるが、優しいネジ君は

『今日はどうした?何かあったか?店、辞めたか?』と聞いて来る。

仕方がないので『品物』は調達できるか聞いた。

『調達は出来るが、ダースじゃないと・・・捌く暇がないから微妙』と。

優しい優しいネジ君は

『雨月が欲しいなら、どっか少量だけないか聞いてみようか?』とも。

私が欲しいのではなく、他人に聞かれただけだと答えた。

『なら、捌くの難しいから素人には無理って断りな』

『それでも欲しいなら直接連れて来て』と。

優しかったネジ君だが、その後、彼に会う事はなかった。

残念な事に・・・と思ってごめんなさい。

パクられたのか死んだのか・・・。

頭のネジは間違いなくぶっ飛んでいたが優しかった。

名前を思い出せない私は、薄情だなぁと思う。


話を、冒頭に戻すが

2軒目の店は、全くやる気が出なかった。

半年ぐらい働いたが、クビを切られなかったのは

1軒目の時の教訓『マネージャー・黒服を味方につける』を

覚えたからだ。

慢性的に人手不足の店に、何人か女の子も紹介した。

その中の1人が

『実は、頼まれて純ちゃんを紹介したから明日から来るよ』

『雨月ちゃんがいる事は知ってるけど、どうしてもって頼まれて』

まさに、衝撃だった。

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